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『1400万人の漂流国家 ~弾薬ゼロの自衛隊と最強の政治家が、異世界で「究極の兵站(ロジスティクス)」を無双する~』  作者: 月神世一


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EP 2

死蟻機アント強襲! SATと一般人の絶望格差

東京の表玄関であり、日本最大の繁華街——銀座。

時計塔が見下ろす四丁目交差点周辺には、配給物資を受け取るために集まった多くの市民の姿があった。

空を覆う紫色の雲海にはまだ慣れないものの、若林の迅速な対応により暴動は鎮圧され、街には「自衛隊と警察がいれば何とかなる」という正常性バイアス(安心感)が戻りつつあった。

だが、異世界はそんな人類の甘えを容赦なく叩き潰す。

——ゴゴゴゴゴゴォォォォッ!!

突如、銀座のど真ん中で局地的な直下型地震のような激しい揺れが発生した。

悲鳴が上がり、人々がその場にしゃがみ込む。

「な、なんだ!? また転移の揺れか!?」

アスファルトが内側から不自然に隆起し、クモの巣状の亀裂が走る。

次の瞬間、交差点の中央が内側からのすさまじい圧力によって大爆発を起こしたように吹き飛んだ。

「キャァァァァッ!!」

「うわぁっ! 逃げろ、地面が崩れるぞ!!」

土煙とアスファルトの破片が降り注ぐ中、ポッカリと開いた巨大な地下鉄への陥没穴。

その深い闇の底から、金属がこすれ合うような嫌な音が這い上がってくる。

カチャリ、カチャリ、カチャリ。

「……おい、なんだよあれ。嘘だろ……?」

逃げ遅れたサラリーマンが、腰を抜かしたまま絶望的な声を漏らした。

穴の縁に、鋭く巨大な『黒い鉤爪』が引っ掛けられる。

そして、日の光の下に『それ』が姿を現した。

体長3メートル。鈍い光を放つ漆黒の鋼鉄の装甲に覆われ、巨大な大顎からは緑色の液体(強酸)を滴らせている。

異世界の深淵ダンジョン『天魔窟』より放たれた、死蟲王サルバロスの尖兵——死蟻機アントである。

しかも、1匹ではない。穴の奥から、10匹、20匹と、悪夢のような群れが次々と地上へ這い出してきたのだ。

「ギィィィィィャアアアアアッ!!!!」

死蟻機が金属的な咆哮を上げる。

そのうちの1匹が、乗り捨てられていたタクシーに大顎を突き立てた。バキィッ!という音と共に車体は容易く引き裂かれ、滴り落ちた緑色の酸が、エンジンブロックをシューシューと音を立てて溶かしていく。

「ヒィィィィッ! バケモノだぁぁぁッ!!」

「助けて!! 誰か助けてえええっ!!」

銀座は一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄へと変貌した。

映画やゲームの中だけの存在だったモンスターが、現実の街で無差別に暴れ回る。一般人にとって、それは歩く戦車に等しい圧倒的な『死の暴力』だった。

「——そこまでだ!! 対象ターゲットを確認! 総員、発砲許可!!」

パニックに陥る群衆の前に、黒い特殊装備に身を包んだ集団が駆けつけた。

治安維持のために都内を巡回していた、警視庁の特殊急襲部隊(SAT)と機動隊である。

「対象は未知の大型生物! 威嚇射撃なし、急所を狙え!! 撃てぇッ!!」

指揮官の号令と共に、SAT隊員たちが構えたH&K MP5サブマシンガン(9mm機関拳銃)が一斉に火を噴いた。

——ダダダダダダダダダダッ!!!

鼓膜を劈く激しい銃声が銀座の街に反響する。

何百発という9mmパラベラム弾が、死蟻機の群れに正確に着弾していく。

市民たちは、日本の誇る精鋭部隊の到着に安堵の涙を浮かべた。

だが、その安堵はわずか数秒で凍りつくこととなる。

「なっ……!?」

銃撃を受けた死蟻機たちは、痛がるそぶりすら見せなかったのだ。

鋼鉄の装甲の表面で、火花を散らして弾丸が弾き飛ばされる。9mm拳銃弾程度では、異世界の魔獣の装甲に傷一つ付けることができない。

「バカな!? 弾が効いてないぞ!!」

「もっと撃ち込め!! 関節部を狙え!!」

SAT隊員たちがリロードを繰り返し、必死に銃弾の雨を降らせる。

だが、死蟻機たちは鬱陶しそうに複眼を光らせると、巨大な大顎を開いた。

「ギチチチチッ!!」

プシュウゥゥッ!!

高圧で噴射された緑色の『強酸液』が、最前線でジュラルミン製の防弾盾を構えていた機動隊員たちに降り注ぐ。

「う、うわぁぁぁぁぁっ!!?」

銃弾すら防ぐはずの防弾盾が、強酸に触れた瞬間に飴細工のようにドロドロに溶け落ちる。

防刃ベストも、ヘルメットも意味を成さない。酸を浴びた隊員たちが、凄まじい激痛にのたうち回り、次々とその場に倒れ伏していく。

「隊長! ダメです、9mm弾じゃ文字通り歯が立ちません!!」

「装甲車と同じだ! 警察の装備じゃこれ以上は持ち堪えられないッ!!」

崩壊していく防衛線。

アナステシア世界においては「ただの雑魚モンスター(死蟻機)」でしかない存在が、闘気も魔法も持たない地球の人間にとっては、一切の攻撃が通じない「無敵の殺戮兵器」と化していた。

一般人と、そして日本の警察の誇る精鋭部隊(SAT)ですら覆せない、圧倒的な絶望の格差。

「退がれ!! 自衛隊の到着まで、一般人の盾になるんだ!!」

指揮官が血を吐くような声で叫ぶ。

しかし、大穴からはなおも無数の死蟻機が這い出し、その赤い複眼を逃げ惑う1400万人の市民たちへと向けていた。

「拳銃もサブマシンガンも効かない……!? 嘘だろ、これが異世界のバケモノかよ……!」

血に染まる銀座の交差点で、絶望の影が人々の心を完全に黒く塗り潰そうとしていた。

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