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『1400万人の漂流国家 ~弾薬ゼロの自衛隊と最強の政治家が、異世界で「究極の兵站(ロジスティクス)」を無双する~』  作者: 月神世一


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EP 11

1400万人の胃袋を満たす商談

「壮大な……買い出し、やと?」

ニャングルの猫耳が、警戒と戸惑いでピクリと動いた。

若林は余裕の笑みを崩さず、背後に立つ真一へ小さく顎をしゃくった。真一の目配せを受け、信長がジュラルミン製の頑丈なアタッシュケースを円卓の上に置く。

カチャリ、と重々しい金属音を立ててケースが開かれた。

「我が国の『通貨』は、この世界ではただの紙切れか鉄屑だろう。だから、物々交換バーターといこうじゃないか。……我々が支払う『対価』は、これだ」

ケースの中に美しく収められていたのは、三つの品。

一本の美しいガラス瓶。銀色のシートに包まれた小さな錠剤の束。そして、キャルルを陥落させたものと同じ、高級チョコレートの詰め合わせである。

「チョコだぁぁぁっ!!!」

キャルルが弾かれたように身を乗り出し、手を伸ばそうとするが、それをリバロンが「お嬢様、今は商談中です」と片手で素早く制止した。

「ニャングルと言ったね。ゴルド商会のツリーランク商人だと聞いている。……君の目で、この品を鑑定したまえ」

若林の挑発に、ニャングルはゴクリと唾を飲み込み、ケースの中身に顔を近づけた。

まずはガラス瓶を手に取る。中に入っているのは、地球の最高峰の醸造技術で作られた『純米大吟醸』だ。

「なんや、この透明度……。一切の濁りがない。ドワーフの蒸留酒(芋酒)ですら、もっと不純物が浮いとるぞ。しかも、このガラス瓶……魔法の気配が全くないのに、傷一つなく完璧な曲線を描いとる」

ニャングルが震える手でボトルの栓を僅かに開けると、華やかでフルーティーな米の香りが爆発的に広がった。

その瞬間、ニャングルの尻尾が「ボンッ!」と音を立てるほど膨れ上がった。

「ッ……!? この香り、米麦草サンライスの最高級酒『ルチアナの涙』すら赤子扱いにするレベルやぞ!? これ一口飲ませたら、レオンハートの王族が財産投げ打ってでも買いに走るで……!」

「次は、その銀色のシートだ」

若林が指差す先にある錠剤——日本製の『抗生物質』と『総合感冒薬』である。

「それは『薬』だ。陽薬草のような魔法の即効性はないが、細菌やウイルス……目に見えない病魔を根本から殺し、確実に命を救う。大量生産が可能で、エルフの秘薬のように術者の魔力も必要としない」

ニャングルは、錠剤を持つ手がガタガタと震えるのを止められなかった。

「……ま、魔力なしで病魔を殺す薬……? そ、そんなもん、この世界の医療の常識がひっくり返るわ! 【グレイグ魔皇国】の貴族どもに売り捌いたら、城が建つ……いや、国が買えるで……ッ!」

ニャングルの商魂が、恐怖すらも凌駕して発火した。

未知の技術、未知の素材、未知の味覚。目の前にあるのは、大陸の経済覇権を完全に握ることができる「究極の独占商品」だった。

「わ、わかった。アンタらの国の『価値』は痛いほどわかった! ……で、アンタらはこれで、何をどれだけ買いたいんや!?」

「当面は、1400万人の国民が餓死しないための『カロリー』だ。太陽芋や米麦草のような炭水化物、肉椎茸などのタンパク質を最優先とする」

若林が告げた数字に、ニャングルは一瞬計算を忘れ、目を見開いた。

「い、1400万!? アホか! なんぼウチの村が豊作や言うても、そんなケタ違いの人数、一ヶ月も養えるわけないやろ!」

「ええ、ポポロ村単体では不可能でしょう」

そこで初めて、黙っていた真一が口を開いた。

「だが、お前は大陸全土の物流の40%を支配する『ゴルド商会』の商人だろう? 全大陸に散らばる商会のネットワークをフル稼働させ、この世界の食料をかき集めろ」

「……ッ!!」

「君ならできるはずだ、ニャングルくん。いや、この商品を独占できる君ならば、近いうちにプラチナランクすら飛び越えて、ゴルド商会の会長にすらなれるんじゃないか?」

若林の悪魔のような囁き。

リスクを恐れる臆病な猫耳の青年は、その言葉に完全に「商人としての矜持」を撃ち抜かれた。

「……舐めんなよ。誰にモノ言うとると思っとんねん。ゴルド商会の看板背負っとる以上、用意できへん品物はあらへんわ!!」

ニャングルは上着のポケットから、ソフトボール大の美しい魔石——『魔導通信石』を取り出し、卓上に叩きつけた。

「リバロン! 村の備蓄から出せるだけの太陽芋と米麦草を全部引っ張り出せ! 輸送用の魔法ポーチも全部や! キャルルは自警団動かして、周辺の魔獣狩りまくって肉椎茸集めや!!」

「承知いたしました、ニャングル様」

「わかったわ! その代わり、チョコは絶対私のものだからね!!」

ニャングルは魔導通信石に魔力を流し込みながら、若林と真一に向かって獰猛な笑みを浮かべた。

「任せとき! 大陸中のゴルド商会ネットワーク使って、即日かき集めたるわ! アンタらの国の1400万人、俺の算盤で腹パンパンにしたる!!」

日本の政治力と、異世界の商業ネットワークが完全に結びついた瞬間だった。

日米安全保障条約ならぬ——『日・ゴルド商会 食糧生存条約』が、今ここに締結されたのである。

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