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『1400万人の漂流国家 ~弾薬ゼロの自衛隊と最強の政治家が、異世界で「究極の兵站(ロジスティクス)」を無双する~』  作者: 月神世一


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EP 10

首脳会談(ポポロ村ドクトリン VS 永田町の妖怪)

——バタバタバタバタッ!!

ポポロ村の広場に、突如として巻き起こった爆風。

上空から降下してきた陸上自衛隊のUH-60JA多用途ヘリコプターの威容に、村人たちはパニックになりかけ、キャルルでさえもウサ耳を伏せて身構えた。

「なんやあれ……! 鉄の塊が、ワイバーンみたいな音立てて空飛んどるで!」

「魔法の気配は皆無……。これが、信長様たちの国の『乗り物』ですか」

ニャングルが目を丸くし、リバロンが目を細める中、着陸したヘリの扉がスライドして開いた。

タラップを下りてきたのは、二人の初老の男。

一人は、海上自衛隊の制服に身を包んだ巨漢——出雲艦隊打撃軍・総司令、坂上真一。

もう一人は、完璧に仕立てられたサヴィル・ロウのスーツを着こなし、悠然とした足取りで進み出る男——与党幹事長、若林幸隆である。

「総司令! それに、若林幹事長まで……!」

「よくやった信長。後は大人プロの仕事だ。お前は下がって周囲を警戒しろ」

真一の野太い声に、信長は弾かれたように敬礼して道を開けた。

真一の放つ、歴戦の猛獣のような威圧感。だが、ポポロ村の首脳陣(キャルル、ニャングル、リバロン)の視線は、その後ろから歩いてくる『ただのスーツの男』に釘付けになっていた。

魔法も使えない、闘気のカケラすら持たない、ただの初老の人間。

それなのに、彼が一歩足を踏み出すごとに、周囲の空気が重くのしかかってくるような錯覚を覚える。それは武力ではない。1400万人の命と、国家という巨大なシステムを背負い続けてきた権力者特有の『覇気』だった。

「初めまして。日本国、衆議院議員の若林だ。……急な訪問を詫びよう」

宿屋『月うさぎの亭』の奥に設けられた円卓。

若林は優雅に椅子に腰を下ろすと、胸ポケットから『ピース』を取り出し、火を点けた。紫煙がゆっくりと立ち昇る。

対面には、キャルル、ニャングル、リバロンの三人が並んで座っていた。

空気を支配されかけていることに危機感を覚えたリバロンが、冷ややかな笑みを浮かべて口を開く。

「ご丁寧な挨拶、恐れ入ります、若林様。……ですが、先ほど信長様にも申し上げた通り。貴方様の国がどれほど強大な『鉄の乗り物』を持っていようと、この村を武力で脅し、食料を独占しようとするならば、我々にも考えがございます」

リバロンは、卓上の大陸地図をトンと指で叩いた。

「我々が救援の狼煙を上げれば、北の【ルナミス帝国】、東の【レオンハート獣人王国】、西の【グレイグ魔皇国】の三個師団が即座に動きます。ポポロ村という『利権の塊』を奪い合うことになれば、それは三国の全面戦争の合図。……貴方様の国は、三個の超大国を同時に相手取って戦争をするだけの、莫大な予算と血を流す覚悟がおありですか?」

完璧なロジックによる脅迫。

これこそが、絶対的な武力を持たないポポロ村が、今日まで独立を保ってきた最大の防衛線『ポポロ村ドクトリン』である。

隣でニャングルも算盤をパチリと弾き、ニヤリと笑う。

「そういうこっちゃ。戦争なんてコスパの悪いアホのすることや。騎士団動かすだけで金貨数万枚は飛びまっせ? アンタらも、無駄な血と金は流したないやろ?」

論理と経済による挟み撃ち。

後方に立つ信長が冷や汗を流す中……若林は、深く吸い込んだタバコの煙をふぅっと吐き出し、

「——くっ、ふはははははっ!!」

突如として、腹の底から響くような豪快な笑い声を上げた。

「な、何がおかしいんですか……っ!?」

キャルルが思わずウサ耳を逆立てて身を乗り出す。

若林は笑いを収めると、灰皿にタバコを押し付け、卓上に身を乗り出して三人を見据えた。その瞳には、妖怪と呼ばれるに相応しい、底知れぬ凄みが宿っていた。

「全面戦争? 三国を敵に回す覚悟? ……はっ、買い被るな。我々は他国の領土など一寸たりとも欲しくはないし、血を流す気も毛頭ない」

若林の言葉に、リバロンの眉がピクリと動く。

「ならば、何のために……?」

「言ったはずだ。『食料を分けてもらう交渉』に来たと。……君たちは少し、田舎の小競り合いに慣れすぎているな」

若林は、スーツの内ポケットから分厚い『書類リスト』を取り出し、バサリと卓上に放り投げた。

「我々は戦争をしに来たんじゃない。日本のすべてを賭けた、壮大な『買い出し』に来ただけだよ」

若林の口角が、凶悪に吊り上がる。

「武力による略奪? そんな三流国家の真似事をするはずがなかろう。我々は『資本主義』のバケモノだ。君たちが震え上がるほどの圧倒的な対価を支払い、正当な商取引として、この大陸の食料をすべて買い上げに来たのだ」

その圧倒的なスケールと、政治家としてのパラダイムシフト。

武力で脅されるとばかり思っていたポポロ村の三人は、未知の概念(超・経済外交)で頭から殴りつけられ、完全に絶句した。

「さあ、商談マネーゲームを始めようか。我が国の1400万人の胃袋を、君たちの『算盤』で満たせるかな?」

永田町の妖怪が、異世界の商人と執事に牙を剥いた。

銃弾が一発も飛び交わない、しかし国家の存亡を賭けた最大の戦争が、今この円卓で幕を開けようとしていた。

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