34.代償
私は、サクの為にも、薬から断つ事を考えた。今までは、双極性障害という病、いわゆる、精神病という名の拷問は治せないだろうと、諦めていた。全てに、おいて。だって、みんな言うから。医者もみんな。「上手く付き合っていくしかないね。治すことは、不可能」だと。だから、諦めていた。そして、言われるがままに、薬を沢山呑まされていた。20歳の頃から、呑まされ、どんどん、三大欲求が、無くなっていった。そして、私自身も、居なくなった。
それに、ようやく気づいた。サクと繋がることが、出来ていないのと、自分は誰なのか、何をしたいのか、性格や喋り方、考え方、思考すらも、支配されていく。ふと、サクの可愛い、クルクルとした毛先と安心した顔立ちのサクを見る。サクの髪の毛をそっと、優しく撫でる。スースー寝ているサクは、まだまだ、夢の中。私の、一番気にしていた、サクの心の状態は、濡れていなかった。真っ白なシーツのまま、タオルケットに、身を包み、寝息を立てて、長い睫毛が、下りていて、愛おしく感じる。だが、サクの頭の中でも、恐ろしい事が、再び起きてしまっていた...。
「痛い!!アァーー」小さなサクは、冷たい床で、裸で、泣いている。泣いても泣いても、サクの頭に、手が飛んでくる。髪の毛を捕まれ、振り回される。痛みと恐怖から、再び泣き出す。そして、どんどん声が大きくなっていく。金切り声をあげ、背中を後ろに、反りながら「母さん!!母さん!!」と何度も、声をあげる。
しゃくり泣きが、酷くなるサクは、落ち着こうとするが、リョウ(彼氏)の声だけで、ビクッとしてしまう。恐くて恐くて、仕方ないからだ。泣けば泣くほど、拷問のような遊びが、始まる。ひょいと、リョウに、持ち上げられ、サクの奥の部屋の押し入れに、入れようとするリョウは、恐くて、パニックに、なっているサクを再び、遊びだす。ギャーギャー泣きに、変わり「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!」ひきつけに、近くなるサクを見て、リョウが、手を止めた。サクのお腹が、上下に、速く波打った。かわいいクルクルの髪の毛も、ぐちゃぐちゃに、なっている。自分で、リョウから、暴れて下りて、布団の中に、くるまるサク。
恐くて、毛布から、少し目を出す。そして、一言、呟いた。「母さんに、会いたい...」睨み付けるリョウは、サクの状態を見ている。「母さんに、会いたい...母さんに、会いたい...」どんどん、大きくなる声と、寂しくて、不安で、甘えたくなるサク。
ガチャ。戸が、ゆっくり開き始め「ただいま...」ユリ(母親)が、帰ってきた。夢にまで、見たサクの会いたかった気持ちが、爆発してしまった。大泣きするサクは、ユリのもとへと、走っていく。「どうしたの?」ニッコリ笑うユリ。この頃は、優しい母さんだと思っていた。だけど、本当は、ニッコリ笑う奥底に、偽りの優しさが、あった。その事に、気づくことは、知る由もない、幼いサク。ユリに、ベッタリなサク「なんでもない...ただ、母さんに、会いたかった....」抱き締めてくれるユリに、サクが、甘え泣きをする。咳をしながら「母さん...」と、裸のまま、真冬の寒い姿のまま、甘えるサク。
「服着ようか...」
「やだ...」
「じゃあ、トーマスの服着るかな?」
「........」
少し、モジモジするサク
「今日、買ってきたんだよ」ニッコリ笑う母さんと、機関車の絵柄のついた、青とグレーの長袖パジャマに、ニコニコする。「サク...触んないの」
「うーん...」手を止めるサクだが、どうしてもやめられない。
「だって、ここ出てるんだもん...」
「だめ...バイキン入っちゃうでしょ」
心理的に、考えると、安心するために、触っていたのだろう。男の子は、誰しもが、通る道。サクも、その一人だ。
涙で、濡れているサクの身体と顔。そんな姿を見ても、何も気にしようとしないユリ。だが、サクは、まだ、わからない。
トーマスの、パジャマをユリに、着させてもらい、有頂天に、なるサク。色白の肌に、ほっぺたが、うっすらと赤くなり、飛び跳ねる。その姿をリョウは、ずっと憎たらしそうに、見ている。
「ねんねしたい...」その言葉に、ニコニコするユリは、サクを寝室に、連れていく。甘えたくて、泣き真似をするサク。どんどんグズグズに、なりながら、ユリの愛情を確かめる
「エホッ...エホッ...んあっ...あぁぁぁぁぁぁぁあ」
甘えたくて、仕方なく、2歳くらいの赤ちゃんを演じる
「どしたの?」
「ねんねしたくない...」
「じゃあ、どうしたいの?」
グズグズな、サクは、何度も首を横に振る。
「トーマスに、なりたいの」
「そっか。トーマスに、なりたいのね」
「うん...」
泣きつかれたサクの目が、どんどん、虚ろに、なっていく。その度に「母さん...母さん...」と、何度も泣こうと、頑張る
「眠い...」
そっと、サクの髪の毛を撫でて、寝かしてあげるユリ。重たい瞼が、ゆっくり開いては、閉じていく...。
現実が、訪れる。
目が覚めると、泣きたくなるサク。「オト...」肝心な私は、まだ寝ている。「オト...」薬で、眠っているのも、あるが、疲れが溜まり、起きれない。サクの、思いが、爆発する。
「オト...オトってば!」
それでも、起きない私に、甘えたくて仕方なくなる。仰向けで、寝ている私の腕に、寄り添うサク。「エホッ..んあっ...オトぉ...」とうとう、泣いちゃうサク。サクの、弱く波打つお腹が、腰に当たる。
「オト...」寝返りをサクの方に、向ける私は、だんだん、サクの声が、聞こえてきた。いつものことだが、スイッチが、入るとサクは、赤ちゃんのように、甘えだす。私は、眠たい目を擦り、そっと瞼を開けた。もぅ、見た目が、2歳児のように、口がへの字に、なり、グズグズなサク。
「どしたの?サク」
「オトが...」
「私?」
「違う...」
「じゃあ、何?」
「夢見たの...」
「あぁ...」
「オト...甘えたい...」
「いいよ...」
抱きついてくるサクの肩が、又震えている。泣いてばっかりのサクに、大丈夫かな?とは思うが、このままにしておくかと、言い聞かせる。「オト...オト」
ずっと、名前を呼びながら、私に甘えてくる。正直なところ、疲れてくる。減薬したら、サクは、大丈夫だろうか、やっぱり、私達は、離れた方が、お互いのためなのではとも、思ってしまう。好きなんだけど........。なんか、悲しい。




