↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/26

第10話後半 【被害者友人 真央視点】

【被害者友人 真央視点】

テレビの画面越しに、生中継のテロップが踊っている。

『-速報- 渋谷区不同意性行事件、浅野被告に懲役5年の実刑判決』

画面の中では、詰めかけたリポーターたちが興奮気味にマイクへ叫んでいた。

私はリビングのソファに深く沈み込み、冷えた指先でスマホの画面を強く握りしめていた。

——裁判に証人として呼ばれたのは、二年前のことだ。

生まれて初めて立った法廷の証言台。私は検察側の証人として、背筋を伸ばして怒りをぶちまけた。

「香織はあの日からこんなに痩せちゃって……! 犯人には厳罰を望みます!」

「あの日、私とランチで話している時も、香織はショックで泣いていました! 絶対に許せません!」

「……被告人の弁護士さん? あなたの恣意的な質問には答えたくありません!」

阿久津という不気味な弁護士を思い切り睨みつけ、私は「親友を守る女」として、思いのままに言葉を言い放った。あの時の私は、間違いなく正しいことをしていると信じて疑わなかった。

この胸に引っかかりが生まれたのは、それから一年ほどが経った頃だ。

当時の彼氏と部屋でお酒を飲んでいる時、ふと誇らしげにそのエピソードを語ったのだ。

「このニュースになってる事件、私が友達のために裁判で証言してやったんだよね。事件の翌日に友人とランチしたって書いてあるでしょ?それが実は私で——」と。

ちょっと話題を振っただけのつもりだった。『へー!?裁判の証人ってどんな感じなの?やっぱり異議あり!って言われた?』そんな風に話が盛り上がると思っていた。

…でも返ってきた反応は想像とはまるで違った。

彼は急に黙り込み、そしてその顔からはみるみる血の気が引いていく。

……なに?……なんなの?

「……なぁ」

彼は怯えたような目で私を見つめ、掠れた声で呟いた。

「……それ、お前のせいじゃね……?」

「……は? 私のせい……? 何が……?」

「いや……お前がさ、その香織って子の記憶を……歪めたんじゃないの……?」

……は?

不意に冷や水を浴びせられた感覚。心臓がドクンと嫌な跳ね方をした。

「……はぁ!? なんで私が責められなきゃいけないの!? 私が香織を励ましてあげたから、あの子は警察に行けたんじゃない!」

私は激昂して彼を追い出したが、彼が去った後の静まり返った部屋で、激しい眩暈(めまい)に襲われた。

あの日——事件の直後。

渋谷のカフェの待ち合わせ場所に現れた香織の姿を、必死に脳裏から掘り起こす。

あの日、香織は……約束の時間からだいぶ遅れて来て、二日酔いで気持ち悪そうにしていて……それから……?

……思い出せない。

記憶の霧の向こうで、私が「そんなの無理やり酒飲まされたんだよ!」「薬でも盛られたんじゃない!?」「許せない、警察に行こう!」と、パニックになる香織を追い詰めていった声だけが、嫌な音量で脳内に響き渡る。

……この事件の犯人は……私?

……いや。いやいやいや、そんなわけない。

私は悪いことなんて何ひとつしていない。傷ついた親友の痛みに共感して、親身になって話を聞いて、警察や検察の質問に正直に答えただけだ。私は親友の香織のために行動しただけだ。

私が犯人だなんて、そんなこと、あるはずがない。

——今でも、その考えは変わっていない。私は絶対に悪くない。

気がつくと、テレビの液晶が放つ青白い光の中で、スマホの画面を開いていた。

地裁のニュースで盛り上がるSNSから数回タップしてたどり着いたのは、浅野の父親が立ち上げたというクラウドファンディングのページだった。

目標額を遥かにオーバーし、刻一刻と数字が跳ね上がっていく。

画面をスクロールし、決済画面へ進む。

『支援金額を入力してください』

私は、今自分が自由に動かせるすべての預金——167万円という数字を打ち込んでいた。

海外旅行に行くために、200万円貯まったらヨーロッパ中を1ヶ月かけて巡るという夢のために、コツコツ、毎月少しずつ積み立ててきたお金。

「なにやってるの、私……」

声が出た。止めなきゃ。キャンセルしなきゃ。

私は香織の味方だ。あんな性犯罪者の男にお金を、それもこんな大金を、大事に貯めてたお金を払うなんて頭がおかしい。

なのに、指が動く。

まるで自分のものではない誰かの指のように、震える親指が「支払いを確定する」のボタンを力強くタップしていた。

口座からお金が消え、残高は『¥4,210』と表示されている。

私はスマホを放り投げ、抱きかかえた膝に顔をうずめた。

——私は悪くない。

これはただの気まぐれだ。ただ…懲役5年という重い罰に少し…ほんの少し同情しただけだ。

暗い部屋の中で、テレビのニュースキャスターが「正義が示された判決です」と誇らしげに語る声だけが、虚しく響き続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。