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第8話後半【革命党党首 沢田視点】

【革命党党首 沢田視点】

党本部の執務室。エアコンの無機質な風が流れる部屋で、私は静かに受話器を置いた。

「——あなたの言った通り、あの広告代理店の会長に櫻田取締役という方の行動を止めるよう告げておいたわ。穂村さん」

ソファーに深く腰掛け、アイスコーヒーのストローを弄んでいた穂村が、満足そうに口元を吊り上げた。

「さすが沢田代表、仕事が早いですね。会長の反応はどうでした?」

「平謝りよ。『ひとりの役員が独断で動いていたようで、大変申し訳ない。すぐに撤収させます』とね。」

「へえ。随分と殊勝な態度ですね。日本のメディアを牛耳る広告代理店の会長ともあろう人が」

「……当たり前でしょう。性加害の隠蔽工作に大手広告代理店が組織ぐるみで加担しているなんて国会で追及されたら、来期の政府系広告の受注はすべて吹き飛ぶんだから」

「なるほど。感服しました」

「それに、あの会社のコンプライアンス委員長を務める外部取締役は私たち革命党と志を同じくするあの人権派弁護士先生。一介の現場上がりの役員とは影響力が違うのよ」

「わあ。さすが革命党——」

わざとらしくおべんちゃらを使う穂村を尻目に、私は窓の外に広がる永田町の街並みを眺め、ふっと鼻で笑った。

今回の事件は、我が『革命党』にとっても、協力関係にあるフェミニズム団体や人権団体にとっても、まさに願ってもない格好の「戦場」だ。

「酒に酔わせた女性への性加害」「それを認めず悪足掻きする卑劣な加害者とその弁護士」という分かりやすい構図。ここで被害女性を徹底的に守り、男どもを徹底的に糾弾し社会的に抹殺することこそが、党の支持率向上とジェンダー平等の争点化を訴える最大のパフォーマンスになる。

そこへ、昭和の価値観を引きずったおせっかいなおじさんが「顔を合わせて丸く収めよう」などと首を突っ込んできたのだ。邪魔者以外の何者でもない。事件が有耶無耶になれば、党が掲げる「司法における性暴力被害の救済」という政治的プロパガンダの火が消えてしまう。

「それにしても穂村さん、よくその男の動きを察知できたわね」

「まあ、ジャーナリストとしての私のアンテナと人脈ですよ」

穂村はクスクスと含み笑いを漏らした。

「あの熱血漢の櫻田取締役、良かれと思って現場を仕切るのが大好きな人ですから。和解なんてされたら、私たちの『格好のネタ』が台無しになるところでした」

「ふふ、優秀なジャーナリストが味方で助かるわ」

私の評価に、穂村が嬉しそうに目を細める。

…この穂村という女は今まで私たちからの要求をのらりくらりかわし、付かず離れずの一定の距離を保ってきたように見えていた。

それが私に頼み事をして、借りを作るなんて。

心変わりでもしたのかしら…?

まあいいわ。理由はどうあれ、櫻田という邪魔者はこれで消えた。……これで障害はない。

「さて……攻勢をかけるわよ。邪魔者を排除しただけで終わらせちゃ意味がないわ」

私は手元の受話器を再び取り、広報担当の党幹部へと内線をつないだ。

「明日の午後、緊急の記者会見をセッティングしなさい。テーマは『性的同意のない性暴力被害者への、党をあげた全面的な法務・精神的支援の表明』よ。……そう、あの事件の被害女性を我が党が全面的にバックアップすると大々的にアピールするの」

電話を切ると、穂村が「流石ですね」と目を輝かせた。

「各テレビ局や新聞社の中にいる『うちのシンパ』の記者たちにも、すでに話は通してあるわ」

「いますもんね。各テレビ局、各新聞社に。それに各局またがって仕事をするワイドショー番組制作会社にも」

穂村がにこやかに頷く。

「会見の映像は明日の夕方のニュースでトップで扱わせる。専門家として党お抱えのフェミニスト弁護士をコメンテーターで送り込み、『二次加害に苦しむ被害者と、卑劣な被告側の主張』というストーリーで世論を完璧に固めさせるわ」

ネットの炎上など、所詮は局所的な打撃に過ぎない。

メディアと政治権力が手を取り合い、「正しい正義のストーリー」として全国のお茶の間に流し込むことこそが、最も美しく、最も確実な社会的抹殺だ。

「公判をこのまま継続させ、あの被告の男も、くだらない屁理屈を捏ね回す弁護士も……私たちの掲げる『正義』の足元で、徹底的に踏みつぶしてあげるわ」

今頃、宇都宮駅でその櫻田という男の秘書のスマホに、会長から直々の『即時撤収命令』の電話が入っているはずだ。

一丸となって進む我々の巨大な運動の前に、時代遅れの男たちが飲み込まれていく様を思い浮かべ、私は静かに冷笑を深めた。

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