第39章 初冬の風と、温もりの場所
十一月に入り、Lunetteの周りは初冬の気配に包まれていた。
朝の空気が一段と冷たくなり、吐く息が白く見える日が増えた。真澄は窓を開けながら、薄手のコートを羽織り、店内の暖房を少し強めた。
「冬が、近づいてきたわね」
山田老人がいつもの席で温かいコーヒーを飲みながら言った。
「今年の冬も、ここが一番落ち着く場所だよ」
真澄は微笑んで頷いた。晩秋から初冬への移り変わりが、静かに、でも確かに感じられた。
午前中、彩花があかりちゃんを連れて来た。寒さ対策で温かいココアを注文し、親子でゆっくりと過ごしていった。遥もバイトに入り、「真澄さん、冬メニューの試作はもう始めますか?」と元気に聞いてきた。
午後、拓也が顔を出した。手に小さな紙袋を持っている。
「書店で冬のギフトセットの試作をしたんだ。Lunetteの焼き菓子を中心にしたものだけど、味見してくれないか?」
「いいわよ。一緒に確認しましょう」
二人はカウンターで試食をし、感想を交わし合った。温かい飲み物を傾けながら、自然と距離が近くなる時間が続いていた。
閉店後、二人は店のテラス席に座り、温かい紅茶を飲んだ。初冬の風が冷たく、木々の葉がほとんど散り尽くしている。
「ねえ、拓也。冬が来るのが、なんだか待ち遠しいわ」
「そうだね。……君と一緒に迎える冬は、特別になりそうだ」
拓也が真澄の手を握り、静かに引き寄せた。二人は短いキスを交わし、しばらく並んで初冬の夕暮れを眺めた。
夜、二階の部屋に戻った真澄は、窓を開けて夜風に当たった。冷たい空気が、頰を引き締めるように感じられる。
彼女はノートに書いた。
『初冬の風。
季節が移ろい、心も静かに次を見つめている。
私は今、誰かと温もりを分け合う場所がある幸せを感じている。
この穏やかな日々を、これからも大切に生きていこう。』
外では、初冬の夜風が優しく看板を揺らしていた。




