第38章 晩秋の静けさと、心の行方
十月も後半に入り、Lunetteの周りは晩秋の静けさに包まれていた。
紅葉がピークを過ぎ、葉が徐々に散り始めている。朝の空気は一段と冷たくなり、真澄は窓を開けながら、薄手のカーディガンを羽織った。
「秋が、終わろうとしてるわね」
山田老人がいつもの席で温かいコーヒーを飲みながら言った。
「今年の秋は、君にとって特別だったんじゃないか」
真澄は微笑んで頷いた。確かに、拓也との遠出や、紅葉の季節を一緒に過ごした時間が、心に深く残っていた。
午前中、彩花があかりちゃんを連れて来た。寒くなってきたせいか、親子で温かいドリンクを注文し、ゆっくりと過ごしていった。遥もバイトに入り、「真澄さん、冬メニューの準備はもう始めてますか?」と元気に聞いてきた。
午後、拓也が顔を出した。手に小さな紙袋を持っている。
「書店で冬のギフトセットを考えているんだ。Lunetteの焼き菓子を中心にできないかと思って」
「いいわね。一緒に内容を考えましょう」
二人はカウンターでアイデアを出し合い、時折指先が触れ合う。晩秋の穏やかな陽射しが、店内を優しく照らしていた。
閉店後、二人は店のテラス席に座り、温かい紅茶を飲んだ。散り始めた葉が、風に乗ってゆっくりと舞っている。
「ねえ、拓也。秋が終わるのが、なんだか寂しいわ」
「そうだね。……でも、次の季節も一緒に迎えられる。それが嬉しいよ」
拓也が真澄の手を握り、静かに引き寄せた。二人は短いキスを交わし、しばらく並んで晩秋の夕暮れを眺めた。
夜、二階の部屋に戻った真澄は、窓を開けて夜風に当たった。冷たい空気が、頰を優しく撫でる。
彼女はノートに書いた。
『晩秋の静けさ。
季節が移ろい、心も静かに次を見つめている。
私は今、誰かと季節の終わりを共有する幸せを感じている。
この穏やかな日々を、これからも大切に生きていこう。』
外では、晩秋の夜風が優しく看板を揺らしていた。




