第37章 紅葉の頃と、温かい時間
十月に入り、Lunetteの周りは本格的な紅葉に染まり始めていた。
朝の空気が澄み渡り、木々の葉が赤や黄色に色づく。真澄は窓を開けながら、深呼吸をした。秋が深まるにつれ、店内の空気もどこか落ち着いたものになっている。
「紅葉が綺麗になってきたわね」
山田老人がいつもの席でコーヒーを飲みながら言った。
「今年の秋は、君の表情が特に穏やかだよ」
真澄は微笑んで頷いた。確かに、遠出の余韻がまだ心に残っていて、毎日が優しく感じられた。
午前中、彩花があかりちゃんを連れて来た。秋らしいさつまいものタルトを注文し、親子で楽しそうに過ごしていった。遥もバイトに入り、「真澄さん、最近すごく柔らかい雰囲気ですよ」と何度もからかってきた。
午後、拓也が顔を出した。手に小さな紙袋を持っている。
「書店で紅葉をモチーフにしたしおりを作ったんだ。Lunetteの焼き菓子と一緒に置いてみようかと思って」
「いいわね。秋らしいコラボになりそう」
二人はカウンターでアイデアを出し合い、時折笑い合った。仕事の話なのに、自然と距離が近くなる時間が続いていた。
閉店後、二人は近所の公園を歩いた。紅葉が夕陽に照らされ、地面に色とりどりの葉が散っている。
「ねえ、拓也。こうして季節を一緒に過ごすの、本当に嬉しいわ」
「僕もだよ。君といると、普通の日常が特別になる」
拓也が真澄の手を握り、静かに引き寄せた。二人は木陰で短いキスを交わし、しばらく並んで紅葉を眺めた。
夜、二階の部屋に戻った真澄は、窓を開けて夜風に当たった。紅葉の香りが、どこか懐かしく感じられる。
彼女はノートに書いた。
『紅葉の頃。
秋が深まり、心も静かに満たされていく。
私は今、誰かと温かい時間を重ねる幸せを、深く噛みしめている。
この穏やかな日々を、これからも大切に紡いでいこう。』
外では、秋の夜風が優しく看板を揺らしていた。




