第35章 秋の山道と、寄り添う時間
九月に入り、Lunetteの周りは本格的な秋の気配に包まれていた。
朝の空気が澄み、木々の葉が少しずつ色づき始めている。真澄は店を遥に任せ、拓也と約束していた秋の遠出に出ることにした。
「今日はゆっくりしていってくださいね、遥」
「任せてください! 楽しんできてください、真澄さん!」
二人は電車を乗り継ぎ、少し離れた山あいの小さな町へ向かった。紅葉はまだ早いけれど、山の空気は清々しく、肌に優しい。
到着したのは、静かな温泉宿と、その周辺の散策路。荷物を置いた後、二人はゆっくりと山道を歩き始めた。
「空気が違う……。体が軽くなるみたい」
「だね。君とこうして歩くの、本当にいいよ」
拓也が真澄の手を自然に握る。真澄も抵抗せず、その手に身を委ねた。落ち葉を踏みしめながら歩く音だけが、静かに響く。
途中、小さな展望台に立ち止まり、二人は並んで景色を眺めた。遠くの山々が淡い緑と黄色に染まり始めている。
「ねえ、拓也。私たち、こうして季節を一緒に重ねてるのね」
「うん。春も夏も、そしてこの秋も。……これからも、重ねていきたい」
拓也が真澄を見つめ、静かに言った。真澄は少し頰を染めながら、小さく頷いた。
昼食は山の近くの素朴な食堂で食べ、その後は温泉に浸かった。湯気の中でリラックスした真澄は、心から「来てよかった」と思った。
夕方、宿に戻った二人は、部屋の縁側で温かいお茶を飲んだ。山の夕暮れがゆっくりと沈んでいく。
「今日はありがとう。すごく充実した一日だったわ」
「僕もだよ。君といると、普通の景色が特別になる」
拓也が真澄の肩に腕を回し、優しく引き寄せた。二人はしばらく何も言わず、ただ寄り添って夕陽を見つめた。
夜、真澄は宿の部屋でノートを開いた。
『秋の山道。
季節を一緒に歩くことが、こんなに幸せだなんて。
私は今、誰かと寄り添う時間を、心から求めている。
この穏やかな恋を、大切に育てていこう。』
窓の外では、秋の夜風が優しく木々を揺らしていた。




