↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lunetteの午後三時  作者: 蒼狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/43

第31章 真夏の風と、変わらぬ場所

七月に入り、Lunetteは本格的な夏の暑さに包まれていた。


店の前の木陰が貴重になり、窓を開けると熱気とともにセミの声が勢いよく飛び込んでくる。真澄は朝の早い時間に店を開け、冷たい水出しコーヒーの準備を始めた。


「夏はこうして、体が求める味が変わるわね」


山田老人がいつもの席で、冷たいコーヒーを飲みながら言った。


「君の店は、季節ごとにちゃんと顔が変わる。それがいい」


真澄は微笑んで頷いた。四周年を過ぎてからも、店の空気は穏やかに続いていた。特別な祝賀ムードは自然に日常に溶け込み、またいつものLunetteに戻っている。


午前中、彩花があかりちゃんを連れて来た。夏休みに入り、親子で涼しい店内を楽しんでいるようだった。


「真澄さん、ここがあると助かります。家だと暑くて……」


「いつでもおいで。あかりちゃんの分のクッキーも用意してあるわよ」


午後、遥がバイトに入り、大学の夏季休暇の話をしながら元気に働いていた。時折「真澄さん、今年の夏は拓也さんと旅行とか行くんですか?」と聞いてくるので、真澄は軽く「まだ決めてないわよ」と返した。


夕方、拓也が顔を出した。手に冷たいレモンサワーの材料を持っている。


「今日は閉店後に、軽く一杯どう? 夏らしいもの用意してきた」


「いいわね。ちょうど疲れてたところよ」


閉店後、二人はカウンターに並んで座り、レモンの効いたサワーを傾めた。窓の外では、まだ明るい夏の夕暮れが続いている。


「四周年のとき、みんなに祝ってもらって……なんだか夢みたいだったわ」


「僕もだよ。君がここを守ってきた時間が、ちゃんと形になってる」


拓也が真澄の手を握り、静かに微笑んだ。二人は特に大きな話をせず、ただ夏の風を感じながら過ごした。その穏やかさが、今の二人にはちょうどよかった。


夜、二階の部屋に戻った真澄は、窓を開けて夜風に当たった。遠くで花火の音が小さく聞こえる。


彼女はノートに書いた。


『真夏の風。

Lunetteは変わらずここにある。

特別な日が過ぎても、日常は優しく続いていく。

私は、この変わらぬ場所を、心から愛している。』


外では、夏の夜風が優しく看板を揺らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。