第30章 夏至の光と、一年の足跡
六月に入り、Lunetteは夏の強い陽射しに包まれていた。
店の前の木々は青々と茂り、窓を開けるとセミの声が遠くから聞こえてくる。真澄は朝の準備をしながら、ふとカレンダーを見た。この店を開いてから、もう四年目の夏が来ている。
「あっという間だったわね……」
山田老人がいつもの席でブラックコーヒーを飲みながら言った。
「君がここに来てから、この街の空気が少し変わったよ。優しくなった」
真澄は微笑んで頷いた。確かに、最初は不安だらけだった日々が、今はかけがえのない日常になっている。
午前中、彩花家族と佐々木夫妻が立て続けに訪れ、店内は穏やかな賑わいになった。遥もバイトに入り、「真澄さん、今年の夏は特別ですね!」と元気に働いていた。
午後、拓也が顔を出した。手に小さな箱を持っている。
「これ、Lunetteの四周年を記念して。……ささやかだけど」
箱を開けると、中には丁寧に包装された銀のスプーンが入っていた。柄の部分に「Lunette」と小さく刻まれている。
「拓也……ありがとう。嬉しいわ」
真澄はスプーンを手に取り、胸が熱くなるのを感じた。拓也は静かに微笑んだ。
「君がこの店を守ってきた時間を、僕も一緒に祝いたかった」
二人はカウンターに並んで座り、いつものようにコーヒーを飲んだ。特別な言葉は少ない。でも、その静かな時間が、何より尊く感じられた。
夕方、常連さんたちが自然と集まり、小さな「四周年のお祝い」のような雰囲気になった。山田老人が「これからもよろしく」と頭を下げ、彩花が手作りの花束を渡し、遥が「真澄さん、大好きです!」と大きな声で言った。
真澄は目頭を熱くしながら、皆に礼を言った。
「ありがとうございます。皆さんがいてくれるから、私はここにいられるんです」
閉店後、拓也と二人で店内を片付けながら、真澄は窓の外を見た。夏至の長い陽射しが、ゆっくりと沈んでいく。
「ねえ、拓也。この一年で、本当にいろんなことがあったわね」
「うん。君と出会って、一緒に歩いて……これからも、隣にいたい」
拓也が真澄を抱き寄せ、優しくキスをした。真澄もその温もりに身を委ねた。
夜、二階の部屋に戻った真澄は、新しい銀のスプーンをテーブルに置き、ノートを開いた。
『夏至の光。
Lunetteは四年目を迎えた。
私は今、たくさんの人に支えられ、大切な人と並んで立っている。
この日常を、これからも大切に紡いでいこう。』
外では、夏の夜風が優しく看板を揺らしていた。
真澄は静かに微笑み、灯りを消した。




