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Lunetteの午後三時  作者: 蒼狐


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16/17

第16章 秋の予感と、ふたりの朝

九月に入り、朝の空気が明らかに澄んできた。


Lunetteの窓辺には、梨とシナモンのタルトが並び始めた。甘い香りにほのかなスパイスの香りが混ざり、店内を優しく包んでいる。真澄はこの新しい味を気に入っていた。


「秋は、私に合ってるのかもしれないわね」


朝一番に山田老人が来て、タルトを一口食べて目を細めた。


「これはいい……。夏より、深みがあるな」


「ありがとうございます。秋仕様に変えてみました」


午前中は穏やかな客足だった。彩花があかりちゃんを連れて来て、「最近夫と少しずつ話が進んでる」と嬉しそうに報告してくれた。真澄は温かい紅茶を淹れながら、静かに耳を傾けた。


午後、拓也が書店から顔を出した。最近はすっかりLunetteの常連の顔になっていた。


「旅行の件だけど……来週の週末、どうかな? 少し離れた温泉街にいいところを見つけたんだけど」


真澄はカウンター越しに拓也を見て、少しだけ迷ったあと、微笑んだ。


「いいわよ。楽しみにしてる」


拓也の顔が明るくなった。その瞬間、真澄は自分の心が軽やかに弾むのを感じた。怖さはまだ少し残っている。でも、それ以上に「行ってみたい」という気持ちが強くなっていた。


夕方、遥がバイトに入り、店内が少し賑やかになった。遥は旅行の話を聞いて大興奮した。


「えー! 温泉旅行ですか!? 真澄さん、絶対に浴衣着て、拓也さんと仲良くしてくださいね!」


「遥、はしゃぎすぎ。まだただの旅行よ」


「ただの旅行で終わるわけないじゃないですか!」


真澄は苦笑しながらも、遥の明るさに救われる思いだった。


閉店後、真澄は一人で店内を片付けながら、ふと祖母の遺した手紙を読み返した。


『無理はしないで。自分のペースでいいのよ』


真澄は手紙を胸に当てて、静かに微笑んだ。


「ばあちゃん……今、私は自分のペースで、少しずつ前に進んでるよ」


その夜、拓也からメッセージが届いた。


『旅行楽しみにしてる。

無理せず、気軽にいこうね』


真澄はすぐに返信した。


『私も楽しみ。

ゆっくり、行きましょう』


ベッドに横になりながら、真澄は天井を見つめた。


夏が終わり、秋が来る。

自分の人生にも、新しい季節が訪れようとしている。


Lunetteの外では、夜風が少しひんやりと看板を揺らしていた。

風鈴の音が、優しく秋の訪れを告げているようだった。


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