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Lunetteの午後三時  作者: 蒼狐


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14/24

第14章 雨の午後と、素直な気持ち

夏祭りの翌週、Lunetteは強い雨に包まれた。


朝から激しい雨音が屋根を叩き、客の入りはいつもより少なかった。真澄はカウンターで窓の外を眺めながら、珍しくゆっくりした時間を味わっていた。


「雨の日は、店が自分の家みたいになるわね」


山田老人がいつもの席でコーヒーを飲みながら言った。


「そうだな。雨音がいいBGMだ」


午後二時を過ぎても雨は止まず、店内には山田老人と、たまに顔を出す近所の常連さんだけが残っていた。


遥がバイトで来ていたが、雨で大学が休講になったと言って、早めに帰した。店内に二人きりになった頃、真澄はふと思いついて、特別に温かいココアを作った。


「山田さん、甘いもの大丈夫でしたよね?」


「今日は特別だな。付き合ってやるよ」


二人はカウンター席に並んで座り、雨音を聞きながらココアを飲んだ。山田老人は珍しく昔話をしてくれた。亡くなった奥さんのこと、定年後の寂しさ、そして真澄の店がこの街にできたことを嬉しく思っていること。


「君がここを開いてくれて、本当に良かったよ。……おばあちゃんも、きっと喜んでる」


真澄の目頭が熱くなった。


「山田さん……ありがとうございます。私、最初は本当に不安で。誰にも必要とされないんじゃないかって」


「必要としてる人は、ちゃんといるさ。今は気づいてない奴も、これから気づく」


午後五時過ぎ、雨が少し弱まった頃、拓也が傘を差して店に入ってきた。濡れた肩を軽く払いながら、真澄に微笑んだ。


「雨の中、すまない。様子を見に来た」


「ちょうどよかった。ココア、淹れようか?」


三人は少しの間、雨の音を背景に話をした。山田老人は空気を読んで早めに帰り、「若い者同士、ゆっくり話せ」と残していった。


店内に二人きりになると、拓也が真澄の手をそっと握った。


「祭りの夜から、ずっと君のことを考えてる」


真澄は少し視線を落として、素直に答えた。


「私も……考えてる。拓也さんのこと」


静かな告白のような言葉だった。拓也は驚いたあと、優しく笑った。


「ゆっくりでいいって言ったけど……少しずつ、君の隣にいていいかな」


「ええ……隣、いいわよ」


雨が再び強くなった。店内の照明が柔らかく、二人の影を長く伸ばす。


真澄は拓也の手に自分の手を重ね、静かに言った。


「私、怖い部分もあるの。もう傷つきたくないって思ってる。でも、君といると……また信じてみようかなって、思える」


拓也は何も言わず、ただ温かく手を握り返した。


その夜、閉店後、真澄は二階の部屋で雨音を聞きながらノートに少しだけ言葉を綴った。


『雨の日は、心の奥が見える。

私は今、ゆっくり恋をしている。』


夏の雨は、Lunetteの窓を優しく濡らしながら、夜通し降り続けた。

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