第13章 夏祭りの灯りと、並んで歩く夜
八月に入り、近所の神社で小さな夏祭りが開かれた。
Lunetteも協力することになり、真澄はミニサイズのレモンソーダと蜂蜜クッキーを用意して屋台に出した。遥が張り切りすぎて「浴衣着て店番します!」と言い出し、結局二人で浴衣姿で屋台に立つことになった。
「真澄さん、めっちゃ綺麗! 若返って見えますよ!」
「褒めすぎ。四十過ぎのおばさんが若返ったら不気味でしょ」
真澄は笑いながらも、浴衣の帯を整えた。久しぶりに着る浴衣は、少しだけ背筋を伸ばしてくれる気がした。
祭りが始まると、Lunetteの屋台は意外な好評だった。特に子供たちに蜂蜜クッキーが大人気で、彩花とあかりちゃんも何度も顔を出した。山田老人は「爺さんには甘すぎる」と文句を言いながらも、ちゃんとクッキーを買っていった。
夕暮れ時、拓也が浴衣姿で現れた。
「似合ってるじゃない」
真澄がからかうと、拓也は少し照れくさそうに笑った。
「君の方がずっと綺麗だよ。……手伝おうか?」
二人は並んで屋台に立ち、客を出したり、ジュースを注いだりした。時折目が合うと、自然と微笑み合う。遥が「いい雰囲気〜」と横でニヤニヤしているのが、少しうるさかった。
祭りの後半、花火が上がる時間になった。屋台を閉めた後、真澄と拓也は少し離れた場所から花火を見上げることにした。
大きな花火が夜空に広がるたび、周囲から歓声が上がる。真澄は無意識に拓也の袖を軽く掴んでいた。
「綺麗……」
「うん。本当に綺麗だ」
拓也が答えた声は、真澄に向けられている気がした。
花火が終わった後、二人はゆっくりと夜の道を歩いてLunetteまで戻った。浴衣の袖が時折触れ合う距離。夏の夜の虫の声が、静かに耳に届く。
「今日は楽しかったわ。ありがとう」
「僕も。君と一緒にいると、日常が特別になる」
Lunetteの前まで来ると、拓也がそっと真澄の手を取った。先ほどより少し長く、温かく。
「また、こういう機会を作ろう。祭りじゃなくても、普通の夜でもいい」
真澄は頷き、静かに言った。
「ええ……私も、そうしたい」
拓也が帰った後、真澄は二階の部屋で浴衣を脱ぎながら、鏡の中の自分を見た。
頰が少し赤い。目が、以前より生き生きとしているように見えた。
ベッドに横になりながら、真澄は天井を見つめて呟いた。
「夏って、こんなに熱かったっけ……」
心も体も、ゆっくりと、でも確実に温められているのを感じながら、真澄はその夜、穏やかな眠りについた。
Lunetteの外では、夏の風が優しく看板を揺らしていた。




