【幻灯楼の灯子】
真奈が中へ入った瞬間。
カウンターの奥にいた灯子が、にやりと笑った。
灯子
「あら。いらっしゃい。」
灯子
「昼間っから珍しいじゃない。」
真奈
「いいだろ、別に。」
灯子
「荒れてるの?」
真奈
「普通。」
灯子
「普通の女は、昼間からそんな顔でここに来ないわよ?」
灯子は、クスクスと笑った。
真奈
「酒。」
灯子
「はいはい。」
灯子は、笑いながらグラスを取った。
灯子
「バイクは置いて帰りなさいよ。」
真奈
「分かってるよ。」
灯子は、細い指でグラスを撫でるように取った。
その仕草だけで、
人ではないものだと分かる。
真奈がグラスを受け取った時。
灯子は、カウンターの下で小さく指を動かした。
誰にも見えない狐火のような光が、
一瞬だけ灯る。
真奈
「……今、何した。」
灯子
「何も?」
真奈
「嘘つけ。」
灯子
「荒れてる子には、見張りが必要でしょう?」
真奈
「灯子。」
灯子
「はいはい。酒、濃いめね。」
そう言いながら、灯子は真奈の酒を作っていた。
真奈は深いため息をつきながら、周りの様子を見る。
人。
人ならざる者。
様々な者達が、ドリンク片手に踊っている。
ソファに腰掛け、女を口説いている者。
友人同士で談笑している者。
同族同士で肩を組んで笑っている者。
人間と妖が、当たり前のように同じテーブルを囲んでいる。
各々が、好き勝手に楽しんでいた。
真奈
「変わらず……か。」
灯子が、グラスを差し出した。
灯子
「何がよ?」
真奈
「いや、こっちの話。」
そう言って、真奈は酒を飲む。
真奈
「濃い!!!」
真奈
「濃すぎだろ!」
灯子
「あら、ごめ~~ん。」
灯子は、クスクスと笑っていた。
灯子
「で?」
灯子
「何があったの?」
灯子
「周りは密かに、てんやわんやじゃない。」
真奈
「色々。」
灯子
「また、一人で解決しようとしてないでしょうね?」
真奈
「今回は、そうもいかないよ。」
真奈
「全員だよ。」
灯子は前のめりになり、
カウンターに両肘をついて真奈を見た。
灯子
「あんたも、もう三十過ぎたんだよ。」
灯子
「男の一人や二人、いないの?」
真奈
「何の話だよ!」
灯子
「あんたは昔っから、男との色恋沙汰なんざ聞いたことがないからねぇ。」
灯子
「わたしゃ、心配なんだよ~~。」
真奈
「面白がってるだけだろ。」
灯子
「惚れた腫れたの話はないのかい?」
真奈
「あるわけないだろ。」
真奈
「面倒臭いだけ。」
真奈
「そんな暇があるなら、私は寝る。」
灯子
「も~~~~!!!」
灯子は、カウンターを軽く叩いた。
灯子
「あんたって子は、本当に色気のない返事しかしないねぇ!」
真奈
「うるさいな。」
真奈
「色気で結界は護れないだろ。」
灯子
「そういうところだよ!!」




