【過去の精算】
食事が終わる頃。
玄三は、静かに湯呑みを置いた。
玄三
「さて。」
その一言で、空気が変わった。
玄三
「昨日の続きを話す。」
玄三
「全員、座敷へ来い。」
そう言われ、玲央達は神棚と仏壇のある居間へ通された。
そこにあった神棚は、今まで見たことがないほど立派だった。
仏壇もまた、大きく、重厚な存在感を放っている。
全員が、思わず息を飲んだ。
玲央
「なんだこれは……。」
海斗
「でかい……。」
紫苑
「……。」
蓮
「……。」
鷹臣
「……。」
一樹
「……。」
黙っていた蓮、鷹臣、一樹が、ふと顔を見合わせる。
三人
「……え?」
玄三
「アッハハハ!」
玄三
「そうか。よく分かった。」
玄三
「まっ、全員座れ。」
困惑したまま、それぞれが座布団へ腰を下ろす。
玄三は神棚と仏壇の前に座った。
その隣に、修一が胡座をかいて座る。
修一
「全員、足を崩していいよ。」
修一
「まずは、君達が関わってしまったことを話そう。」
玲央達は、そう言われてもすぐには動けなかった。
目の前には、玄三と修一。
その背後には、威厳と尊厳を放つ神棚と仏壇。
あまりにも、日常とかけ離れた部屋だった。
何かに見られている。
いや。
見透かされているような感覚がある。
「足を崩していいよ」と言われても、簡単には動けない。
玄三
「ふむ。」
玄三
「取って食いやせん。楽にせい。」
玄三
「このままでは、足が痺れてのたうち回るぞ。」
修一はフッと軽く笑みを浮かべた。
修一
「緊張するか。」
修一
「だが、その緊張感は大事だ。」
修一
「ただ、話は長くなる。崩していいよ。」
それを聞いて、玲央達はようやく足を崩した。
修一は、その様子に小さく笑う。
そして、ここまでの経緯を掻い摘んで話し始めた。
異形の暴走。
結界核と封印具の盗難。
そこから広がった残滓の影響。
黄泉連。
骸。
そして、神崎組が狙われた理由。
修一
「詳しい部分は、まだ分かっていない。」
修一
「だが、確かなことがある。」
玲央達の視線が、修一へ向く。
修一
「結界核と封印具が盗まれた。」
修一
「その影響で、各地の歪みが広がっている。」
修一
「君達が遭遇した異形も、その一つだ。」
修一
「そして、その裏で動いている組織がいる。」
修一
「黄泉連。」
その名が出た瞬間、部屋の空気が重くなった。
修一
「目的は不明。」
修一
「だが、結界そのものを壊そうとしている可能性が高い。」
沈黙。
玲央は、ゆっくりと息を吐いた。
玲央
「……結界って、そもそも何なんですか。」
修一
「その話をするには、まず冠崎家の役目から話す必要がある。」
そこで、玄三がゆっくりと口を開いた。
玄三
「わしらはな。」
玄三
「まだ妖や妖怪の力が強かった時代から、役目を受け継いできた者達なんじゃよ。」
玄三
「それこそ、弥生や飛鳥の時代まで遡る。」
玲央
「……そんなに前から。」
玄三
「ああ。」
玄三
「表向きは、現代社会で生きる。」
玄三
「だが、裏では淀みや歪みを整え、必要以上の干渉が起きんようにする。」
玄三
「悪戯が過ぎるもの。」
玄三
「力を持ちすぎたもの。」
玄三
「人の世に害を成すもの。」
玄三
「そういうものを祓う。」
玄三
「それが、冠崎家の役目じゃ。」
海斗
「祓うって……妖怪とかを?」
玄三
「全部ではない。」
玄三
「妖や妖怪にも、こちらに干渉せず生きておる者は多い。」
玄三
「わしらが祓うのは、均衡を崩すものじゃ。」
一樹
「均衡……。」
修一
「人の世と、あちら側の世。」
修一
「その境目を守っているのが、結界だ。」
玲央
「結界……。」
修一
「ああ。」
修一
「君達が見たものは、その結界の綻びから漏れ出したものだ。」
玲央
「漏れ出した……?」
修一
「ああ。」
修一は、渋い顔をした。
修一
「あちこちで、綻びや歪みが出てきている。」
修一
「理由が分からなかった。」
修一
「だが今回、黄泉連の存在が見えたことで、全国の護りは警戒態勢に入っている。」
玲央
「全国……。」
修一
「ああ。」
修一
「しかも、結界核と封印具の盗難が分かった。」
修一
「これは、完全に非常事態だ。」
沈黙が落ちる。
玄三
「無論、こんな広い国を冠崎家だけで守れる訳がない。」
玲央
「え?」
玄三
「西には妖狐。」
海斗が、わずかに眉を動かした。
玄三
「中部には烏天狗。」
一樹の視線が揺れる。
玄三
「九州には狢。」
鷹臣が、黙ったまま目を細めた。
玄三
「東には鬼。」
蓮の口元から、笑みが消えた。
玄三
「それぞれが役目を持ち、均衡を守っておる。」
修一
「冠崎家は、その一角だ。」
玲央
「……それが、なぜ俺達に?」
玄三
「多分じゃが。」
玄三
「偶然が、偶然を呼んだ。」
玄三
「そう言った方が近いじゃろうな。」
玲央
「偶然……。」
玄三
「ああ。」
玄三
「お前達が裏社会におったこと。」
玄三
「異形の現場に関わったこと。」
玄三
「冠崎家と繋がったこと。」
玄三
「黄泉連に見つかったこと。」
玄三
「それらが、重なった。」
玄三
「ただな。」
玄三は、玲央達を見た。
玄三
「悪いことばかりとも限らん。」
海斗
「……どういう意味だよ。」
玄三
「お前達にとっては、これは転機かもしれん。」
玄三
「過去の清算。」
玄三
「いや。」
玄三
「過去に囚われたままの自分を、見つめ直す機会じゃ。」
その言葉に、誰もすぐには返せなかった。
過去。
清算。
試練。
その言葉は、軽く流せるものではなかった。
玲央
「……俺達の過去を、知る必要があるということですか。」
玄三
「ああ。」
玄三
「知らなければ、また利用される。」
玄三
「何を持っているのか。」
玄三
「何が隠されているのか。」
玄三
「そして、何を背負ってきたのか。」
玄三
「それを知らぬままでは、守ることもできん。」
玄三は、静かに玲央達を見た。
その目は、今だけを見ていなかった。
これから先。
彼らが向き合うもの。
堕ちるか。
踏みとどまるか。
その分かれ道を、すでに見据えているようだった。




