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祓ノ血族(はらいのけつぞく)  作者: ハルヤ
【祓ノ血族】-本編-
177/193

【過去の精算】

食事が終わる頃。


玄三は、静かに湯呑みを置いた。


玄三

「さて。」


その一言で、空気が変わった。


玄三

「昨日の続きを話す。」


玄三

「全員、座敷へ来い。」


そう言われ、玲央達は神棚と仏壇のある居間へ通された。


そこにあった神棚は、今まで見たことがないほど立派だった。


仏壇もまた、大きく、重厚な存在感を放っている。


全員が、思わず息を飲んだ。


玲央

「なんだこれは……。」


海斗

「でかい……。」


紫苑

「……。」


「……。」


鷹臣

「……。」


一樹

「……。」


黙っていた蓮、鷹臣、一樹が、ふと顔を見合わせる。


三人

「……え?」


玄三

「アッハハハ!」


玄三

「そうか。よく分かった。」


玄三

「まっ、全員座れ。」


困惑したまま、それぞれが座布団へ腰を下ろす。


玄三は神棚と仏壇の前に座った。


その隣に、修一が胡座をかいて座る。


修一

「全員、足を崩していいよ。」


修一

「まずは、君達が関わってしまったことを話そう。」


玲央達は、そう言われてもすぐには動けなかった。


目の前には、玄三と修一。


その背後には、威厳と尊厳を放つ神棚と仏壇。


あまりにも、日常とかけ離れた部屋だった。


何かに見られている。


いや。


見透かされているような感覚がある。


「足を崩していいよ」と言われても、簡単には動けない。


玄三

「ふむ。」


玄三

「取って食いやせん。楽にせい。」


玄三

「このままでは、足が痺れてのたうち回るぞ。」


修一はフッと軽く笑みを浮かべた。


修一

「緊張するか。」


修一

「だが、その緊張感は大事だ。」


修一

「ただ、話は長くなる。崩していいよ。」


それを聞いて、玲央達はようやく足を崩した。


修一は、その様子に小さく笑う。


そして、ここまでの経緯を掻い摘んで話し始めた。


異形の暴走。


結界核と封印具の盗難。


そこから広がった残滓の影響。


黄泉連。


骸。


そして、神崎組が狙われた理由。


修一

「詳しい部分は、まだ分かっていない。」


修一

「だが、確かなことがある。」


玲央達の視線が、修一へ向く。


修一

「結界核と封印具が盗まれた。」


修一

「その影響で、各地の歪みが広がっている。」


修一

「君達が遭遇した異形も、その一つだ。」


修一

「そして、その裏で動いている組織がいる。」


修一

「黄泉連。」


その名が出た瞬間、部屋の空気が重くなった。


修一

「目的は不明。」


修一

「だが、結界そのものを壊そうとしている可能性が高い。」


沈黙。


玲央は、ゆっくりと息を吐いた。


玲央

「……結界って、そもそも何なんですか。」


修一

「その話をするには、まず冠崎家の役目から話す必要がある。」


そこで、玄三がゆっくりと口を開いた。


玄三

「わしらはな。」


玄三

「まだ妖や妖怪の力が強かった時代から、役目を受け継いできた者達なんじゃよ。」


玄三

「それこそ、弥生や飛鳥の時代まで遡る。」


玲央

「……そんなに前から。」


玄三

「ああ。」


玄三

「表向きは、現代社会で生きる。」


玄三

「だが、裏では淀みや歪みを整え、必要以上の干渉が起きんようにする。」


玄三

「悪戯が過ぎるもの。」


玄三

「力を持ちすぎたもの。」


玄三

「人の世に害を成すもの。」


玄三

「そういうものを祓う。」


玄三

「それが、冠崎家の役目じゃ。」


海斗

「祓うって……妖怪とかを?」


玄三

「全部ではない。」


玄三

「妖や妖怪にも、こちらに干渉せず生きておる者は多い。」


玄三

「わしらが祓うのは、均衡を崩すものじゃ。」


一樹

「均衡……。」


修一

「人の世と、あちら側の世。」


修一

「その境目を守っているのが、結界だ。」


玲央

「結界……。」


修一

「ああ。」


修一

「君達が見たものは、その結界の綻びから漏れ出したものだ。」


玲央

「漏れ出した……?」


修一

「ああ。」


修一は、渋い顔をした。


修一

「あちこちで、綻びや歪みが出てきている。」


修一

「理由が分からなかった。」


修一

「だが今回、黄泉連の存在が見えたことで、全国の護りは警戒態勢に入っている。」


玲央

「全国……。」


修一

「ああ。」


修一

「しかも、結界核と封印具の盗難が分かった。」


修一

「これは、完全に非常事態だ。」


沈黙が落ちる。


玄三

「無論、こんな広い国を冠崎家だけで守れる訳がない。」


玲央

「え?」


玄三

「西には妖狐。」


海斗が、わずかに眉を動かした。


玄三

「中部には烏天狗。」


一樹の視線が揺れる。


玄三

「九州には狢。」


鷹臣が、黙ったまま目を細めた。


玄三

「東には鬼。」


蓮の口元から、笑みが消えた。


玄三

「それぞれが役目を持ち、均衡を守っておる。」


修一

「冠崎家は、その一角だ。」


玲央

「……それが、なぜ俺達に?」


玄三

「多分じゃが。」


玄三

「偶然が、偶然を呼んだ。」


玄三

「そう言った方が近いじゃろうな。」


玲央

「偶然……。」


玄三

「ああ。」


玄三

「お前達が裏社会におったこと。」


玄三

「異形の現場に関わったこと。」


玄三

「冠崎家と繋がったこと。」


玄三

「黄泉連に見つかったこと。」


玄三

「それらが、重なった。」


玄三

「ただな。」


玄三は、玲央達を見た。


玄三

「悪いことばかりとも限らん。」


海斗

「……どういう意味だよ。」


玄三

「お前達にとっては、これは転機かもしれん。」


玄三

「過去の清算。」


玄三

「いや。」


玄三

「過去に囚われたままの自分を、見つめ直す機会じゃ。」


その言葉に、誰もすぐには返せなかった。


過去。


清算。


試練。


その言葉は、軽く流せるものではなかった。


玲央

「……俺達の過去を、知る必要があるということですか。」


玄三

「ああ。」


玄三

「知らなければ、また利用される。」


玄三

「何を持っているのか。」


玄三

「何が隠されているのか。」


玄三

「そして、何を背負ってきたのか。」


玄三

「それを知らぬままでは、守ることもできん。」


玄三は、静かに玲央達を見た。


その目は、今だけを見ていなかった。


これから先。


彼らが向き合うもの。


堕ちるか。


踏みとどまるか。


その分かれ道を、すでに見据えているようだった。

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