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【朝の縁側】
縁側へ出ると、そこに玄三がいた。
玄三
「起きたのか。」
蓮
「……ああ。」
玄三は縁側に座り、煙管を吸っていた。
朝の光の中で、白い煙が細く揺れる。
蓮は、その横顔を見た。
昨日。
玄三は、急に名前のような言葉を口にした。
巌。
その一言だけで、胸が押し潰されそうになった。
息が詰まり、膝をついた。
その理由が、今も分からない。
蓮
「……。」
玄三
「何じゃ。」
玄三
「知りたいか?」
蓮
「いや。」
玄三
「顔に出とるぞ。」
蓮
「何が。」
玄三
「分からん、とな。」
蓮
「……分かるのかよ。」
玄三
「なんとなくじゃ。」
玄三は庭を見たまま、軽く笑った。
玄三
「この世はな、分からんことだらけじゃ。」
玄三
「じゃから、人は必死に何かを掴もうともがく。」
蓮
「……。」
玄三
「この世は、皆に等しく優しい。」
玄三
「そして、等しく厳しい。」
玄三
「何を掴むか。」
玄三
「何を手放すか。」
玄三
「それは、己次第じゃ。」
蓮は、ただ玄三の言葉を聞くしかなかった。
重い言葉だった。
けれど、不思議と押し潰される重さではない。
胸の奥に沈んでいたものを、少しだけ浮かせるような。
そんな重さだった。




