【次の日】
翌朝。
早朝に目が覚めたのは、蓮だった。
目を開けた瞬間、違和感があった。
体が軽い。
いつもと違う。
布団の中で、蓮はしばらく動かなかった。
呼吸が、楽だった。
胸の奥にあった重たいものが、少しだけ薄くなっている。
そんな感覚だった。
闇側にいた頃から、ずっとそうだった。
何をしても、満たされなかった。
何を得ても、残らなかった。
何を言っても、空気のようにすり抜けていく。
口から出る言葉には、意味なんてなかった。
ただ、その場に並べただけの音。
笑っても。
怒っても。
誰かをからかっても。
何かが胸の奥に届くことはなかった。
それなのに。
昨日。
真奈が狙われた瞬間。
胸の奥が、燃えた。
理由もなく。
意味も分からず。
ただ、許せなかった。
そして今。
この総本家の朝の空気の中で、蓮は初めて、自分の中に何かが残っていることに気づいた。
蓮
「……なんなんだよ。」
小さく呟く。
答える者はいない。
その時。
不意に、太ももを思いきり蹴られた。
蓮
「いでぇ!!!」
隣を見る。
大の字で寝ている海斗の足が、蓮の太ももに乗っていた。
蓮
「……。」
蓮
「お前かよ。」
海斗
「んが……。」
蓮
「……よく寝れるな。」
海斗は、まったく起きない。
蓮はゆっくりと起き上がった。
障子の向こうが、薄く明るい。
朝の気配。
鳥の声。
畳の匂い。
どれも、妙に鮮明だった。
部屋を見回す。
いつもなら朝には必ず起きている玲央と一樹まで、深く眠っていた。
玲央は静かな寝息を立てている。
一樹も、眼鏡を外したまま、微動だにしない。
蓮
「……マジかよ。」
あの二人が、ここまで寝ている。
それだけで、この家が普通ではないことは分かった。
いや。
普通ではないのは、昨日から分かっていた。
風呂。
飯。
布団。
空気。
全部が、身体の奥に入り込んでくる。
蓮
「……。」
蓮は、小さく息を吐いた。
眠っている全員を起こさないように、静かに布団から出た。




