【総本家の湯】
案内された座敷に荷物を置き、神崎組はリビングへ向かった。
そこには、真奈が勝手口の近くで煙草を吸っていた。
真奈
「お前たち、先に風呂入れ。」
玲央
「え?」
真奈
「え? じゃねぇ。入れ。」
千代
「これ、真奈。」
千代
「そんなふうに言うもんじゃないよ。」
真奈
「はいはい。」
千代
「お風呂はこっちじゃよ。」
千代
「着替えを持っておいで。」
玲央
「は、はい。」
全員は一度座敷に戻り、着替えを持って廊下へ出た。
そこには、千代が待っていた。
千代
「大丈夫かい?」
千代
「こっちだよ。」
千代に案内され、長い廊下を歩く。
しばらく進むと、縁側へ出た。
その先には、綺麗に手入れされた日本庭園が広がっていた。
海斗
「すげ~~。」
一樹
「綺麗だな。」
千代
「おやおや、ありがとねぇ。」
千代
「玄三さんの趣味なんだよ。」
鷹臣
「趣味のレベルじゃねぇだろ。」
千代
「ほほほ。」
千代
「老後はゆっくりしたくてねぇ。」
千代
「まあ、色々やることもあるけどね。」
千代
「それでも、植物や風や水、土に触れていると、心が落ち着くんだよ。」
紫苑
「……お婆さんも、一緒に?」
千代
「ああ。」
千代
「私は他にも、畑なんかもしてるんだよ。」
千代は柔らかく笑った。
千代
「ほら、ここが風呂だよ。」
引き戸を開ける。
そこにあったのは、普通の脱衣所とは思えないほど広い空間だった。
蓮
「広っ!!」
千代
「ほほほ。」
千代
「全員集まると、これでも狭くなる時があるんだよ。」
神崎組は、全員呆然とした。
千代
「ああ、それと湯なんだけどね。」
千代
「ちょっと染みるかもしれない。」
玲央
「染みる?」
千代
「ああ。」
千代
「でも、しっかり温もって出るんだよ。」
千代
「少しだけど、穢れが落ちるからね。」
玲央
「穢れ……?」
千代
「ほほほ。」
千代
「まあ、入ったら分かるよ。」
千代
「出たらリビングへおいで。」
千代はにっこり笑うと、そのまま戻っていった。
全員、まずは湯を身体にかけた。
その瞬間。
玲央
「な、なんだ……!」
身体のあちこちが、傷があるわけでもないのに痛み出した。
海斗
「いて~~……!」
一樹
「うわ、顔が痛い。」
紫苑
「……体中に、針が刺さるみたいな痛みが来る。」
鷹臣
「うわ。マジで顔が痛ぇ!」
蓮
「う……!」
蓮は胸を押さえた。
蓮
「胸が……なんか、染みる。」
それぞれが鈍い痛みを受けながら、身体を流していく。
そして、湯に浸かった。
海斗
「いててて……。」
玲央
「う~~……これは、痛いな。」
一樹
「両手と頭が痛い。」
紫苑
「……くっ。」
鷹臣
「ひ~~~~。」
蓮
「……。」
蓮は胸を押さえたまま、眉を寄せる。
だが、しばらくすると。
蓮
「……あれ?」
玲央
「どうした。」
蓮
「俺、あんまり痛くなくなった。」
全員
「え?」
蓮
「え?」
全員の視線が、一斉に蓮へ向いた。
海斗
「何それ。ずるくない?」
蓮
「知らねぇよ。」
一樹
「胸は?」
蓮
「まだ少し染みるけど……さっきほどじゃねぇ。」
玲央
「……。」
しばらくすると、鷹臣が顔を上げた。
鷹臣
「あれ?」
海斗
「今度は何?」
鷹臣
「俺もだ。」
鷹臣
「痛みが引いてきた。」
海斗
「は~~?」
海斗は自分の腕を見る。
海斗
「……あれ?」
玲央
「どうした。」
海斗
「俺も、少し楽になってきた。」
一樹
「……確かに。」
一樹は両手を見た。
一樹
「手の痛みが引いている。」
紫苑
「……。」
紫苑も黙ったまま、少しだけ息を吐いた。
体中を刺すような痛みが、少しずつ薄れていく。
湯の中へ溶けていくように。
重かった身体が、わずかに軽くなっていく。
玲央
「……なんだったんだ。」
誰も、すぐには答えられなかった。
少しだけど、穢れが落ちるからね。
千代の言葉が、全員の頭をよぎった。




