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祓ノ血族(はらいのけつぞく)  作者: ハルヤ
【祓ノ血族】-本編-
152/193

【冠崎家の朝】

冠崎家。


朝のリビングには、いつもの空気が流れていた。


真奈と杏奈は、すでに起きていた。


由美は台所で朝食の準備をしている。


修一は、いつもの席で新聞を広げ、コーヒーを飲んでいた。


ただ。


その顔には、隠しきれない困惑が滲んでいた。


真奈

「……。」


杏奈

「……。」


二人は黙って、修一を見ていた。


しばらくして。


真奈

「……父さん。」


修一

「なんだ?」


真奈

「一つ聞いてもいい?」


修一

「だから、なんだ?」


真奈

「……新聞。」


修一

「新聞がどうした。」


真奈

「反対からでも読めたんだね。」


修一

「……ああ。」


修一は何気なく頷いた。


そして。


修一

「……ん?」


真奈

「だから、父さんは反対からも読めるんだね。文字。」


修一

「は?」


修一は、手元の新聞を見た。


新聞は、見事に逆さまだった。


修一

「……。」


杏奈

「悩む気持ちも、困惑する気持ちも分かるけど。」


杏奈は静かにコーヒーを飲む。


杏奈

「陸斗と隼人の餌になるわよ。」


修一

「分かっている。」


修一は大人しく新聞を元に戻した。


その瞬間。


陸斗

「父さんの頭脳には恐れ入るよ。」


廊下から、陸斗が現れた。


陸斗

「俺には無理だ。新聞を逆さまに読むなんて。」


隼人

「それができたら、バスケで世界一取れる。」


隼人も続いて入ってくる。


真奈・杏奈

「遅かったな。」


二人は同時に修一を見る。


修一

「……。」


修一は静かに新聞を畳んだ。


修一

「仕事へ行く。」


陸斗

「逃げた。」


隼人

「完全に逃げた。」


修一

「仕事だ。」


真奈

「父さん。」


修一

「なんだ。」


真奈

「新聞は置いていきなよ。今日は逆さまだから。」


修一

「……。」


由美

「クスクス。」


台所から、由美が笑いながら顔を出す。


由美

「行ってらっしゃい。気をつけて。」


修一

「……ああ。」


修一は鞄を持つ。


だが、玄関へ向かう直前で足を止めた。


修一

「真奈。」


真奈

「何?」


修一

「胡桃は。」


杏奈

「もうそろそろ起きるわよ。今日から仕事よ。怪我も心配ないし。」


修一

「……そうか。」


杏奈

「そろそろ動く頃かしら?」


空気が少し変わる。


杏奈

「神崎組も、こちらを調べ始めてるはず。」


真奈

「玲央なら調べるだろうね。」


修一

「ああ。」


修一の表情から、先ほどまでの困惑が消える。


総帥の顔になる。


修一

「だから、こちらから連絡する。」


陸斗

「玲央に?」


修一

「ああ。」


隼人

「説明するのか?」


修一

「全ては話さない。」


修一は静かに言った。


修一

「だが、昨夜の依頼については確認する必要がある。」


真奈

「罠だった可能性が高い?」


修一

「高い。」


杏奈

「神崎組を狙ったのか、冠崎家を炙り出すためか。」


修一

「あるいは、その両方だ。」


一瞬、沈黙が落ちる。


その時。


階段の方から、足音が聞こえた。


胡桃

「おはよう~~~」

目を擦りながら寝ぼけた声。


髪を少し乱した胡桃が、リビングに入ってくる。


胡桃

「ん……?」


全員の視線が、胡桃に向いた。


胡桃

「え?」


真奈

「胡桃。」


胡桃

「なに~~?」


真奈

「スマホ鳴ってる。」


胡桃

「え?」


胡桃は慌ててスマホを見る。


画面には、通知が一つ。


氷室紫苑。


『昨日は、アイス美味かった。ありがとう』


胡桃

「……。」


一瞬、胡桃の頬がふわっと赤くなる。


胡桃

「……ふふ。」


その小さな笑いを。


真奈も。


杏奈も。


陸斗も。


隼人も。


修一も。


全員が見逃さなかった。


陸斗

「父さん。」


修一

「なんだ。」


陸斗

「新聞、また逆さまになるぞ。」


修一

「……仕事へ行く。」


隼人

「今度こそ逃げた。」


由美

「あらあら。」


胡桃

「え?え?何ですか?」


真奈

「胡桃。」


胡桃

「ん?。」


真奈

「返信するなら、落ち着いてからにしな。」


杏奈

「変な文章送らないようにね。」


胡桃

「へ、変な文章って何!?」


胡桃

「送らないから!!!」


隼人

「でも胡桃なら、間違えて送る可能性ある。」


胡桃

「ない!!!」


真奈

「ある。」


杏奈

「あるわね。」


胡桃

「えぇぇぇ!?」


朝の冠崎家に、いつもの騒がしさが戻る。


けれど。


修一は玄関へ向かいながら、スマホを取り出していた。


表示された番号を見つめる。


神崎玲央。


修一

「……さて。」


扉を開ける。


朝の光が差し込む。


修一

「こちらから、動くか。」

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