【翌日・夕方 家の近くまで。】
街中から外れ、住宅街に入る。
人通りは少しずつ少なくなり、
夕方の空気が静かに流れていた。
胡桃
「氷室さん、ここまででいいですよ。」
紫苑
「え?」
紫苑
「家、この辺なのか?」
胡桃
「はい。」
胡桃
「次の路地を曲がったら家なので。」
紫苑は少し考え込んだ。
胡桃は、きょとんとした顔で首を傾げる。
胡桃
「氷室さん?」
紫苑
「……家の近くまで、送る。」
胡桃
「え? いやいや。すぐですから。」
紫苑
「……送るから。」
その声は、静かだった。
けれど、妙に譲る気がなさそうだった。
胡桃は、ふぅと小さく息を吐く。
諦めたように笑った。
胡桃
「分かりました。」
胡桃
「近くまでお願いします。」
ニコッと笑う。
紫苑
「……ああ。」
二人は路地を曲がり、胡桃の家の近くまで歩いた。
胡桃
「ここです。」
胡桃
「ありがとうございました。」
紫苑
「……。」
胡桃
「氷室さん?」
紫苑
「……連絡先。」
胡桃
「え?」
紫苑
「また会うなら、必要だろ。」
胡桃
「あ、そうですね!」
胡桃は慌ててスマホを取り出した。
そのあまりにも素直な反応に、
紫苑は一瞬だけ固まる。
胡桃
「はい、これで大丈夫です。」
紫苑
「……警戒心ねぇな。」
胡桃
「え?」
紫苑
「いや、何でもねぇ。」
胡桃はクスクス笑った。
胡桃
「氷室さん、悪い人じゃないので。」
紫苑
「……。」
紫苑は何も言えなかった。
その言葉が、妙に胸に残った。
紫苑
「いや、何でもねぇ。」
胡桃はクスクス笑った。




