【翌日・夕方 夕暮れの帰り道】
その後、紫苑が立ち上がった。
紫苑
「送る。」
胡桃
「え? 大丈夫ですよ。」
紫苑
「昨日怪我した奴を、一人で帰せるか。」
胡桃
「でも……。」
紫苑
「いいから。」
胡桃は少し困ったように笑った。
胡桃
「……じゃあ、お願いします。」
二人は並んで歩き出した。
公園の木々の間を、風が抜けていく。
胡桃は、隣を歩く紫苑の横顔をそっと見た。
昨日は、ただ知っている人だった。
血の匂いがして。
鋭い目をして。
近づいてはいけない人だと思った。
でも今は。
少し不器用で。
少し優しくて。
笑うのが下手な人。
胡桃
「……。」
胸の奥が、少しだけ跳ねた。
紫苑
「何見てんだ。」
胡桃
「えっ、あっ、何でもないです!」
胡桃は慌てて前を向く。
紫苑
「……変な奴。」
胡桃
「また変って言いました!」
紫苑
「事実だろ。」
胡桃
「違います!」
紫苑は、ほんの少しだけ口元を緩めた。
胡桃はそれに気づいて、また胸が跳ねた。
どうしてかは、まだ分からない。
ただ。
隣を歩くこの時間が、少しだけ嬉しかった。
胡桃
「氷室さん、今日は少し顔色良くなりましたね。」
紫苑
「……そうか?」
胡桃
「はい。」
胡桃
「最初、すごく苦しそうでした。」
紫苑
「……。」
胡桃
「少しでも楽になったなら、良かったです。」
紫苑
「……お前は、誰にでもそうなのか。」
胡桃
「え?」
紫苑
「そうやって、助けるのか。」
胡桃
「ん~~……。」
胡桃は少し考えた。
胡桃
「目の前で困ってる人がいたら、放っておけないだけです。」
紫苑
「……危なっかしいな。」
胡桃
「よく言われます。」
胡桃は、へへへっと笑った。
紫苑
「笑うところじゃねぇ。」
胡桃
「えぇ~~。」
紫苑
「本当に危なっかしい。」
胡桃
「でも、氷室さんも助けてくれそうです。」
紫苑
「……。」
胡桃
「昨日、前に出ようとしてくれました。」
紫苑
「……何もできなかった。」
胡桃
「でも、助けようとしてくれました。」
紫苑は黙った。
胡桃は、また少し笑った。
胡桃
「だから、ありがとうございます。」
紫苑
「……礼を言われるようなことはしてねぇ。」
胡桃
「私は、嬉しかったです。」
紫苑は何も言わなかった。
ただ、歩く速度がほんの少しだけ、胡桃に合わせてゆっくりになった。




