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祓ノ血族(はらいのけつぞく)  作者: ハルヤ
【祓ノ血族】-本編-
146/193

【翌日・日中 知らない世界】

紫苑

「……お前は、怖くねぇのか。」


胡桃

「え?」


紫苑は、湖を見たまま言った。


紫苑

「俺が。」


胡桃

「……。」


紫苑

「俺は、お前が知ってるような普通の人間じゃねぇ。」


胡桃は少しだけ黙った。


そして、首を傾げる。


胡桃

「普通って、何ですか?」


紫苑

「……。」


紫苑は答えられなかった。


普通。


自分には縁のない言葉だった。


人を斬る。

命令を受ける。

暗い場所で生きる。


そんな自分が、胡桃の隣にいていいはずがない。


そう思っていた。


けれど。


胡桃は、まっすぐ紫苑を見た。


胡桃

「私は、氷室さんが危ない時に立ち向かったところを見ました。」


紫苑

「……。」


胡桃

「それで十分です。」


紫苑は何も言えなかった。


その言葉は、あまりにも真っ直ぐだった。


自分の過去も。

立場も。

血の匂いも。


胡桃は、全部を知らない。


それでも。


昨日の自分を見て、そう言った。


紫苑

「……変な女。」


胡桃

「えっ。また変って言いましたね。」


紫苑

「変だろ。」


胡桃

「むぅ……。」


胡桃は少し頬を膨らませた。


その時。


胡桃が紫苑の顔を見て、ふと目を瞬かせる。


胡桃

「……氷室さん。」


紫苑

「なんだ。」


胡桃

「また、難しい顔してます。」


紫苑

「してねぇ。」


胡桃

「してます。」


紫苑

「……。」


胡桃

「それに、怖いかって聞かれたら……。」


胡桃は少し考える。


胡桃

「昨日の異形は怖かったです。」


紫苑

「……。」


胡桃

「でも、氷室さんは怖くないです。」


紫苑は、ゆっくり胡桃を見る。


紫苑

「……なんで。」


胡桃

「だって、氷室さんは私を傷つけようとしてないからです。」


紫苑

「……。」


胡桃

「それに。」


胡桃

「氷室さん、ストロベリーアイス。美味しかったですか?」


紫苑

「……は?」


紫苑は視線を逸らした。


紫苑

「……意味分かんねぇ。」


胡桃

「でも、美味しかったでしょ?」


紫苑

「……。」


少し間を置いて。


紫苑

「……悪くなかった。」


胡桃

「ほら。」


胡桃は嬉しそうに笑った。


紫苑は、その笑顔を見る。


怖くない。


そう言われたことが、

胸の奥に静かに落ちていく。


紫苑

「……変な女。」


胡桃

「また言った!」


紫苑

「何回でも言う。」


胡桃

「ひどいです。」


紫苑の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。

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