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祓ノ血族(はらいのけつぞく)  作者: ハルヤ
【祓ノ血族】-本編-
144/193

【翌日・日中 好きな味】

胡桃

「着きました。」


紫苑は顔を上げた。


目の前にあったのは、明るく可愛らしい看板の店だった。


淡い色合いの外観。

丸みのある文字。

ガラス越しに見える、色とりどりのアイス。


紫苑

「……。」


どう見ても、自分が入るような場所ではなかった。


胡桃

「ここのストロベリーが美味しいんです!」


胡桃は嬉しそうに言った。


胡桃

「でも、私は今日チョコミント食べたいので、チョコミントにします!」


紫苑

「……。」


胡桃

「氷室さん?」


紫苑

「……ここに、入るのか?」


かなり戸惑った声だった。


胡桃

「はい!」


紫苑

「……。」


胡桃

「行きましょう!」


紫苑

「いや、待て。」


胡桃は紫苑の手首を握ったまま、ぐいっと引っ張る。


紫苑

「お、おい!」


そのまま、紫苑は店の中へ引きずり込まれた。


店内は明るかった。


甘い匂いがする。


女性客が多い。

けれど、男性客もちらほらいる。


それでも紫苑は、明らかに浮いていた。


紫苑

「……。」


完全に場違いだった。


胡桃

「氷室さん、何味にします?」


紫苑

「……。」


紫苑はメニューを見る。


だが、そこには想像以上の種類が並んでいた。


ストロベリー。

バニラ。

チョコレート。

チョコミント。

キャラメル。

抹茶。

クッキー。

季節限定。


紫苑

「……こんなにあるのか?」


胡桃

「ありますよ!」


胡桃は楽しそうに笑う。


胡桃

「美味しそうでしょ?いつも迷うんですけど、私は……」


紫苑

「チョコミント、だろ。」


胡桃は少し驚いた顔をした。


胡桃

「……はい!」


すぐに、ぱっと笑顔になる。


紫苑

「……。」


その笑顔に、紫苑は少しだけ視線を逸らした。


胡桃

「氷室さんは?」


紫苑

「……どれがいいか分からねぇ。」


紫苑はメニューを睨むように見る。

挿絵(By みてみん)


紫苑

「お前が選んでくれ。」


胡桃

「え~~~。」


胡桃は真剣にメニューを見上げる。


胡桃

「ん~~……今日は初めてですからね。」


紫苑

「……。」


胡桃

「じゃあ、オススメのストロベリーで!」


紫苑

「ああ。」


胡桃は店員に注文した。


胡桃

「チョコミントと、ストロベリーをお願いします。」


しばらくして、二人はアイスを受け取った。


胡桃

「ありがとうございます。」


紫苑

「……。」


紫苑は、手の中のストロベリーアイスを見る。


淡いピンク色。


どうにも、自分の手には似合わなかった。


胡桃

「外で食べましょう。」


二人は店を出た。


店の外に出ると、少しだけ空気が軽く感じた。


胡桃はさっそくチョコミントを一口食べる。


胡桃

「ん~~~~!」


目を輝かせる。


胡桃

「チョコの甘さと、ミントのスッキリ感が絶妙です~~~。」


紫苑

「……そんなにか。」


胡桃

「はい!」


紫苑も、自分のアイスを見た。


少し迷ってから、一口食べる。


冷たい。


甘い。


それから、甘酸っぱさがゆっくり広がった。


ふわりと、苺の香りが鼻に抜ける。


紫苑

「……。」


たぶん、今までにも食べたことはあった。


だが。


こんなふうに、味を感じたことはなかった。


何を食べても、腹に入れば同じだった。


甘いとか。

美味いとか。

好きとか。


そんなことを、考えたことがなかった。


胡桃

「氷室さん。」


紫苑

「……。」


胡桃

「アイス、どうですか?」


紫苑はもう一度、アイスを見た。


紫苑

「……ああ。」


少し間を置いて、言う。


紫苑

「美味いな。」


胡桃

「良かった!」


胡桃は本当に嬉しそうに笑った。


その笑顔を見ていると、紫苑は妙な気持ちになる。


自分が美味いと言っただけで。

この女は、こんな顔をするのか。

胡桃

「氷室さん、この後用事とかありますか?」


紫苑

「いや。」


胡桃

「じゃあ、公園で食べましょーー!!!」


紫苑

「は?」


胡桃

「近くに、座れる公園があるんです!」


紫苑

「いや、ここで……。」


胡桃はまた、紫苑の手首を掴んだ。


紫苑

「おい。」


胡桃

「行きましょう!」


紫苑

「……。」


振り払おうと思えば、簡単に振り払えた。


けれど。


紫苑は、振り払わなかった。


困惑した顔のまま、胡桃に引かれて歩き出す。


紫苑

「……お前、意外と強引だな。」


胡桃

「えっ? そうですか?」


紫苑

「そうだろ。」


胡桃

「でも、公園で食べた方が美味しいですよ。」


紫苑

「アイスはアイスだろ。」


胡桃

「違います。」


紫苑

「何が違うんだよ。」


胡桃

「気分です!」


紫苑

「……。」


胡桃

「美味しいものは、楽しく食べた方がもっと美味しいんです。」


紫苑

「……変な理屈だな。」


胡桃

「えぇ~~~。大事ですよ。」


紫苑は、胡桃の横顔を見る。


包帯を巻いた腕。


楽しそうな声。


自分を怖がらない距離。


紫苑

「……。」


昨日は、血の匂いがしていた。


今日は、甘い匂いがする。


たった一日で、世界が違って見えた。


胡桃

「氷室さん、溶けちゃいますよ。」


紫苑

「……ああ。」


紫苑は、もう一口ストロベリーを食べた。


甘酸っぱい味が、また口に広がる。


悪くない。


そう思った。


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