【翌日・日中別編Ⅱ】
胡桃
「どうかしたんですか?」
紫苑
「いや。」
紫苑は視線を逸らす。
紫苑
「今日は……?」
胡桃
「え?」
紫苑
「今日は、なんでここにいる。」
胡桃
「あ~~~。」
胡桃は困ったように笑った。
胡桃
「お姉ちゃんが、有給取れって聞かなくて。」
アハハハハ、と笑う。
胡桃
「昨日怪我したから、今日は仕事休めって。」
紫苑
「……傷、痛むのか。」
胡桃
「え?」
胡桃は一瞬、自分の腕を見た。
けれど、別にいつものことだしな、と思った。
胡桃
「あ~! 大丈夫です!」
紫苑
「……。」
胡桃
「このくらい、いつもなんで!」
ニッコリ笑う。
紫苑
「……いつも?」
胡桃
「はい!」
胡桃は軽く頷いた。
胡桃
「修行でも怪我しますし、異形相手だと、無傷ってなかなか難しいので。」
紫苑
「……そうか。」
どうしたんだろう。
なんだか、落ち込んでいるような気がした。
紫苑
「強いんだな。」
胡桃
「え?」
紫苑
「お前は、強い。」
胡桃
「私が?」
胡桃は驚いたように目を丸くした。
胡桃
「いやいや! 全然!」
胡桃
「まだまだって感じですよ~。」
胡桃
「お姉ちゃん達が前線で、私は後方支援なので。」
胡桃
「これから、もっと力をつけていかなきゃって感じです!」
胡桃
「昨日も、もっと上手くできてたら、怪我しなかったと思うので。」
紫苑
「……。」
胡桃
「でも、氷室さんが無事で良かったです。」
紫苑
「……なんでだよ。」
胡桃
「え?」
紫苑
「なんで、俺なんか庇った。」
胡桃はきょとんとする。
胡桃
「目の前で危なかったからです。」
紫苑
「理由になってねぇ。」
胡桃
「え?」
紫苑
「俺は……。」
なんか、ムッとした。
助けちゃいけないような、
そんな感じの言い方に、ちょっと腹が立った。
紫苑
「俺は、助けられるような人間じゃねぇ。」
胡桃は、紫苑の隣に腰を下ろした。
紫苑
「おい。」
胡桃
「氷室さん!」
紫苑
「……。」
胡桃
「助ける時に、その人が助けられる資格があるかなんて、考えません!」
胡桃
「危ないと思ったから、助けました!」
紫苑
「……。」
胡桃
「それだけです!」
胡桃
「それに。」
紫苑
「……?」
胡桃
「氷室さん、強いじゃないですか。」
紫苑
「俺が?」
胡桃
「はい。」
胡桃は力強く頷いた。
紫苑
「昨日、何もできなかっただろ。」
紫苑
「刃も効かなかった。」
胡桃
「でも、逃げる判断はできてました。」
紫苑
「……。」
胡桃
「普通の人なら、あそこで固まります。」
紫苑
「……。」
胡桃
「氷室さんは、怖くても動ける人です。」
紫苑
「怖くなんか……。」
紫苑は言いかけて、黙った。
胡桃
「怖いって、悪いことじゃないと思います。」
紫苑
「……。」
胡桃
「怖いのに動ける人は、強いです。」
胡桃
「あんな訳の分からないものを見て、動ける人っていません。」
胡桃
「だいたいの人は、固まっちゃうか、逃げ出しますよ。」
胡桃はニッコリ笑った。
紫苑
「……お前は変だな。」
胡桃
「えっ。変ですか?」
紫苑
「変だろ。」
胡桃
「えぇ~~~。」
少し不満そうな顔をする胡桃に、紫苑の口元がかすかに緩む。
ほんの少しだけ。
胡桃
「あ、笑った。」
紫苑
「笑ってねぇ。」
胡桃
「今、ちょっと笑いました。」
紫苑
「見間違いだ。」
胡桃
「ふふっ。」




