【戻れない夜】
神崎組別荘。
帰ってきてから、紫苑はずっと荒れていた。
紫苑
「くそっ!!!」
壁に拳を叩きつける。
鈍い音が、部屋に響いた。
紫苑
「なんでだよ……!」
もう一度。
拳が壁を打つ。
紫苑
「なんで!!!」
海斗
「おい、紫苑~~~。」
海斗
「ちょっと落ち着けって。」
鷹臣
「…………。」
蓮
「おい紫苑!」
蓮
「やめとけ!」
紫苑
「うるせぇぇぇ!!!」
紫苑が振り向いた瞬間。
鋭い気配が、弾けた。
蓮
「うわっ!!!」
蓮は思わず尻もちをついた。
紫苑
「あっ……。」
紫苑の顔が強張る。
蓮は驚いた顔で、紫苑を見上げていた。
怒りではない。
恐怖でもない。
ただ、何が起きたのか分からない顔。
紫苑
「……っ。」
紫苑は、自分の拳を握りしめた。
紫苑
「クソ……!」
その場の空気が、重く沈む。
誰もすぐには口を開かなかった。
一樹
「また、助けられたのか。」
静かな声だった。
責めているわけではない。
けれど、その一言は、紫苑の奥へ深く刺さった。
紫苑
「…………。」
蓮
「一樹……。」
蓮は困惑した表情で一樹を見る。
一樹は、紫苑から目を逸らさなかった。
一樹
「図星か。」
紫苑
「……黙れ。」
一樹
「黙っても、変わらないだろ。」
紫苑の拳が震える。
だが、何も言い返せなかった。
あの時。
胡桃が前に出た。
自分を庇った。
傷を負った。
それなのに。
あの女は、笑った。
“大丈夫です。”
“氷室さんが無事で、良かった。”
紫苑
「……ふざけんなよ。」
小さく呟いた声は、
怒りなのか、悔しさなのか、
自分でも分からなかった。
玲央
「紫苑。」
紫苑
「…………。」
玲央
「今は何を言っても届かないだろうな。」
紫苑は答えなかった。
鷹臣は、黙ったまま立ち上がる。
海斗
「鷹。どこ行くんだよ。」
鷹臣
「ちょっと外だ。」
海斗
「……。」
誰も止めなかった。




