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祓ノ血族(はらいのけつぞく)  作者: ハルヤ
【祓ノ血族】-本編-
134/193

【帰宅.....そして】

夜。


二台の車は、無事に冠崎家へ到着した。


真奈

「あ~~。長かった~。」


隼人

「寄り道し過ぎだろ!」


真奈

「いいじゃん。楽しかったろ?」


隼人

「ん!!」


隼人

「まっ……ま~な。」


隼人

「って! 誤魔化されないぞ!」


真奈

「アハハハハ!!!」


胡桃

「もぅ、お姉ちゃんったら。」


真奈

「いいじゃん。」


真奈

「胡桃も美味しかったろ?」


胡桃

「あそこ最高!!!」


胡桃

「今度も寄ろうね。」


真奈

「だろ?」


真奈は、へへへっと笑った。


由美

「ほらほら、荷物。」


陸斗

「くそ~~~。」


陸斗

「穴場は把握していたか~~。」


杏奈

「お姉ちゃんが知らないわけないでしょ。」


賑やかな声が、夜の冠崎家に戻ってくる。


荷物を持ち、

それぞれが家の中へ入ろうとした。


その時だった。


真奈が、一瞬だけ足を止めた。


雄一

「姉ちゃん?」


雄一も、すぐに顔を上げる。


雄一

「……ん。」


修一

「どうした。」


真奈

「下位か?」


修一も気配を探るように目を細める。


修一

「多分な。」


修一

「気配はそうだが……。」


真奈は、ほんの少し考えた。


それから、振り返る。


真奈

「隼人。」


隼人

「ああ。」


真奈

「杏奈。」


杏奈

「分かったわ。」


真奈

「胡桃。」


胡桃

「うん。」


真奈

「三人でいけるか?」


隼人

「任せろ!」


杏奈

「大丈夫よ。」


胡桃

「いける!」


真奈

「無理はするな。」


真奈

「何か異変があれば、すぐ知らせろ。」


由美

「気をつけて。」


修一

「頼んだぞ。」


胡桃は小さく頷いた。


杏奈が手をかざす。


淡い薄紫の光が、三人の足元に広がる。


次の瞬間。


三人の姿は、冠崎家の玄関先から消えた。


夜。


人気のない裏通り。


紫苑は、標的の動きを見ていた。


今回の依頼は、表には出せないものだった。


権力。

利権。

金。

表に出せない取引。


そういったものが絡んだ、汚れた依頼。


いつもの仕事だった。


いつものように終わるはずだった。


だが。


暗殺対象の傍にいたボディガードが、突然、上を向いたまま動かなくなった。


紫苑

「……?」


一瞬。


街灯が、ちかりと揺れる。


影が伸びた。


人の形をしていた男の身体が、不自然に痙攣する。


ゴキリ。


骨が軋むような音がした。


男の首が、ありえない角度で紫苑を向く。


紫苑

「……なんだ、てめぇ。」


男の口元が裂けた。


人ではない笑み。


次の瞬間、男の身体から黒い霧のようなものが溢れ出した。


紫苑は反射的に後ろへ跳ぶ。


黒い腕が、地面を抉った。


紫苑

「ちっ……!」


刃を抜く。


だが、斬った感触がない。


紫苑の刃は、黒い霧を裂いただけだった。


霧はすぐに集まり、再び形を作る。


紫苑

「……効かねぇのかよ。」


異形は、紫苑を見ていた。


まるで。


紫苑だけを狙っているように。


紫苑は後退する。


だが、異形の動きは速かった。


一瞬で距離を詰められる。


紫苑

「っ……!」


避けきれない。


黒い爪が、紫苑の胸元へ伸びた。


その時。


淡い光が、夜を走った。


紫苑

「――!」


目の前に、誰かが飛び込んでくる。


小さな背中。


淡い霊光。


紫苑の前に立ったその人物が、両手を広げた。


胡桃

「させない!!!」


黒い爪が迫る。


その寸前。


淡い桃色の霊糸が空中に広がり、異形の腕を絡め取った。


ギシッ。


異形の動きが止まる。


胡桃

「捕まえた……!」


その声に、紫苑の身体が固まった。


聞き覚えがあった。


忘れられるはずがなかった。


紫苑

「冠……崎?」


胡桃

「え?」


胡桃が振り向く。


視線が合った。


胡桃

「氷室……さん?」


一瞬。


時間が止まった。


紫苑

「お前……なんで……」


胡桃が何か言おうとした、その瞬間。


霊糸が大きく震えた。


異形が暴れ始める。


胡桃はすぐに前を向く。


胡桃

「これは、動けば動くほど締まる!」


霊糸が、異形の身体へ食い込んでいく。


胡桃

「逃がさない!」


紫苑

「おい!」


胡桃

「大丈夫!」


胡桃は紫苑を見ずに言った。


胡桃

「私は、やられない!」


その声は、震えていなかった。


次の瞬間。


淡い紫の結界が、周囲を包む。


杏奈

「胡桃、そのまま押さえて。」


胡桃

「うん!」


隼人

「さっすが胡桃。」


隼人が、胡桃の横を風のように抜ける。


隼人

「後は任せろ。」


二刀が抜かれた。


銀の軌跡が、夜を斬る。


隼人の動きは速かった。


紫苑の目でも、追いきれないほどに。


異形の身体が裂ける。


斬られた部分が、黒い霧となって散っていく。


紫苑

「……なんだよ、これ。」


人間の戦いではなかった。


裏社会の殺し合いでもない。


紫苑が知っている世界の外側にある戦いだった。


隼人

「杏奈!」


杏奈

「分かってる。」


結界がさらに狭まる。


逃げ場を潰すように、紫の光が異形を囲んだ。


だが。


異形の身体の一部が、霧にならずに残った。


それは蛇のようにうねり、胡桃へ向かって飛ぶ。


杏奈

「胡桃!」


隼人

「っ、まずい!」


結界が間に合わない。


それでも胡桃は、霊糸を放さなかった。


次の瞬間。


黒い残片が、胡桃の腕を掠めた。


赤い血が散る。


紫苑

「――っ!」


紫苑の中で、何かが切れた。


紫苑

「うわぁぁぁぁ!!!」


紫苑が飛び出そうとする。


だが。


白い霊糸が、紫苑の身体を縛った。


紫苑

「っ……!」


胡桃

「行ってはダメー!!!」


紫苑

「離せ!!!」


胡桃

「ダメよ!!!」


胡桃の声が、夜に響く。


胡桃

「残滓を受ける!」


胡桃

「氷室さんが触ったら、身体の中に入る!」


紫苑

「でも、お前……!」


胡桃

「大丈夫!」


胡桃は痛みに顔を歪めながらも、紫苑を見た。


胡桃

「私は大丈夫だから!」


紫苑

「……っ。」


動けなかった。


霊糸に縛られているからではない。


胡桃の腕から流れる血が、目に焼き付いて離れなかった。


自分を庇った。


自分のために、傷ついた。


その事実が、紫苑の胸を締め付けた。


その時。


隼人の刃が、残った黒い残片を斬り裂いた。


黒い霧が弾ける。


異形の気配が、完全に消えた。


隼人

「胡桃!!!」


杏奈

「胡桃!」


二人が駆け寄る。


胡桃

「大丈夫。かすり傷よ。」


胡桃は、少しだけ笑った。


胡桃

「残滓は飛ばした。」


杏奈が胡桃の腕に手をかざす。


淡い紫の光が、傷口を包む。


杏奈

「……大丈夫。」


杏奈

「残滓はない。」


杏奈は小さく息を吐いた。


杏奈

「少し出血してるけど、かすり傷よ。」


隼人

「はぁ……。」


隼人

「ビビらせんなよ。」


胡桃

「ごめん。」


隼人

「謝るな。」


隼人

「よく止めた。」


胡桃

「うん。」


隼人は、ふと紫苑を見る。


紫苑はまだ、その場に立ち尽くしていた。


隼人

「氷室?」


紫苑

「……ああ。」


隼人

「お前が、神崎組の?」


紫苑

「……そうだ。」


隼人は一瞬だけ紫苑を見る。


責めるでもなく。


問い詰めるでもなく。


ただ、状況を確認するように。


隼人

「そうか。」


遠くから、サイレンの音が聞こえ始めた。


隼人

「すぐ戻れ。」


紫苑

「……。」


隼人

「警察が来るぞ。」


紫苑は動かなかった。


視線は、胡桃の腕に向いたままだった。


胡桃

「氷室さん……?」


紫苑

「……。」


隼人

「……。」


隼人は杏奈と顔を見合わせた。


杏奈も、何も言わない。


隼人

「ふ~~~。」


隼人がため息をついた、その時。


別の足音が近づいてきた。


玲央

「紫苑!」


玲央が駆け込んでくる。


そして、現場を見た。


消えかけた結界の残光。


胡桃の腕の傷。


動けなくなっている紫苑。


そして、冠崎家の三人。


玲央の表情が変わる。


玲央

「……冠崎家か?」


隼人

「ああ。」


玲央

「……何があった。」


隼人

「説明してる時間はない。」


サイレンが近づいてくる。


隼人は、紫苑を顎で示した。


隼人

「こいつ、動けてない。」


隼人

「連れて帰れ。」


玲央は紫苑を見る。


紫苑はまだ、胡桃を見ていた。


玲央

「……すまない。」


隼人

「謝る相手は俺じゃない。」


玲央は一瞬、胡桃を見る。


胡桃は小さく首を振った。


胡桃

「大丈夫です。」


その言葉に、紫苑の顔が歪む。


紫苑

「……大丈夫じゃねぇだろ。」


胡桃

「大丈夫です。」


胡桃は、少しだけ笑った。


胡桃

「氷室さんが無事で、良かった。」


紫苑は、何も言えなかった。


隼人

「行くぞ、胡桃。杏奈。」


杏奈

「ええ。」


胡桃

「はい。」


三人の姿が、淡い結界の光に包まれる。


紫苑

「待っ……」


言葉は、最後まで出なかった。


光が揺れる。


次の瞬間。


冠崎家の三人は、夜の中から消えた。


残されたのは、静かな裏通り。


近づくサイレン。


そして。


動けないままの紫苑と、玲央だけだった。


玲央

「紫苑。」


紫苑

「……。」


玲央

「戻るぞ。」


紫苑は、ようやく一歩を踏み出した。


だがその目は、

胡桃が消えた場所から離れなかった。

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