【宴会】
夜になる。
ピンポーン、とインターホンが鳴った。
由美が反応し、画面越しに確認する。
そこには、茂夫の姿があった。
由美
「いらっしゃったわ。」
由美
「はーーい。」
仏間の広い部屋には、二部屋分を使って長いテーブルが用意されていた。
その上には、豪勢な食事が並んでいる。
全員、それぞれが自由に過ごしていた。
寛いでいる者。
寝転んでいる者。
ゲームをしている者。
縁側で話している者。
総本家の夜は、少しずつ賑やかになり始めていた。
由美が玄関を開ける。
そこには、茂夫と真由美が立っていた。
その気配に気づいた千代が、後ろからぱたぱたと出てくる。
千代
「あらあら、真由美さん。」
千代
「お久しぶりね~。」
真由美
「千代ちゃん、久しぶりね~。」
真由美
「話を聞いて、私もお邪魔させていただいていいかしら?」
千代
「どうぞ~~。」
千代
「嬉しいわ!」
由美
「お久しぶりにございます。」
由美は丁寧に頭を下げる。
真由美
「由美ちゃんも息災ね~!」
真由美
「元気だった?」
由美
「はい。ありがとうございます。」
茂夫と真由美は、仏間へ通された。
玄三
「来たか!」
修一
「こんばんは。」
修一
「先程はありがとうございました。」
修一は丁寧に頭を下げる。
茂夫
「ほっほっほ。」
茂夫
「こっちこそじゃ。」
茂夫
「礼を言う。」
真由美
「みんな勢揃いなのね~。」
真由美が茂夫の後ろから、ひょっこり顔を出した。
玄三
「おーー!」
玄三
「真由美さん、ご無沙汰じゃ!」
全員
「こんばんはーー!!!」
真由美は笑いながら手を振る。
真由美
「はい、こんばんは。」
真由美
「みんな元気ね~~。」
和真
「疲れたよ~~~。」
真由美
「あらあら、かずちゃんも大きくなって。」
伊織
「こんばんは。真由美おばさん。」
真由美
「いおちゃんも、こんなに大きくなったのね。」
真由美
「おばちゃんも歳をとるはずだわ!」
雄一
「こんばんは、おばさん。」
真由美
「あら~~~!」
真由美
「ゆうちゃん!?」
真由美
「こんなに大きくなったの!?」
真由美
「何歳?」
雄一
「十二歳だよ!」
真由美
「あら~~。」
真由美
「月日が経つのは早いものね~~。」
それぞれが挨拶を交わしていく。
懐かしい声。
賑やかな笑い。
張り詰めていた一日が、ようやく夜の空気にほどけていくようだった。
玄三
「立っとらんと、はよーこっち座れ!」
茂夫
「では、遠慮なく。」
茂夫は玄三の隣へ腰を下ろした。
玄三
「いや~~、久方ぶりじゃの~~。」
茂夫
「まったくじゃ。」
茂夫は、玄三の耳元へそっと顔を寄せる。
茂夫
「今日は秘蔵を持ってきた。」
茂夫
「後で飲むぞ。」
玄三
「おお~。」
玄三
「それは楽しみじゃ。」
その瞬間。
千代・真由美
「あなた。」
茂夫・玄三
「なんでもありません!」
二人の声が綺麗に重なった。
一瞬の沈黙。
そして。
全員が、どっと笑った。
笑い声が、仏間いっぱいに響く。
総本家の夜は、
賑やかに始まろうとしていた。
挨拶が済み、
それぞれが席についた。
玄三
「では!」
玄三が声を上げる。
全員
「いただきまーす!!!」
大きな声が、仏間いっぱいに響いた。
箸が伸びる。
皿が回る。
「これ美味しい!」
「あ、それ取って!」
「真奈姉、取りすぎ!」
「育ち盛りだ!」
「お前はもう育ち切ってる!」
あちこちで声が飛び交い、
長いテーブルは一気に賑やかになる。
千代
「たくさんあるから、ゆっくり食べなさいね。」
真奈
「無理。美味い。」
陸斗
「早い早い早い。」
和真
「唐揚げおかわり!」
雄一
「俺も!」
伊織
「僕も。」
隼人
「唐揚げ戦争始まったな。」
胡桃
「クスクス。」
茂夫
「ほっほっほ。相変わらず賑やかじゃのう。」
真由美
「本当に。見ているだけでお腹いっぱいになりそう。」
玄三
「食え食え。今日はよく働いたんじゃ。」
修一は、その光景を見ながら、少しだけ息を吐いた。
封印具。
結界核。
桐生蓮。
神崎組。
問題はまだ、いくつも残っている。
けれど今だけは、
この賑やかな食卓に身を預けてもいい気がした。
それぞれが賑やかに食事を囲み、
総本家の夜は、笑い声と湯気に包まれていた。
真奈
「唐揚げ、もう一個。」
陸斗
「何個目だよ。」
真奈
「数えるな。飯がまずくなる。」
隼人
「食いすぎの自覚はあるんだな。」
そんなやり取りに、笑い声が起こる。
その時だった。
修一のスマホが震えた。
画面を見た瞬間、
修一の表情が少しだけ変わる。
由美
「あなた?」
修一
「……巌だ。」
箸の音が、少しだけ止まった。
玄三
「出てこい。」
修一
「ああ。」
茂夫
「ほう。」
修一は一度、玄三を見る。
玄三は静かに頷いた。
玄三
「ただの連絡じゃろ?」
修一
「……ああ。」
修一は席を立ち、スマホを耳に当てた。
修一
「巌か。」
少し間があった。
修一の表情が、さらに険しくなる。
修一
「……分かってるよ。」
修一
「段取りもあるだろ。」
また少し間が空く。
修一
「……ああ。」
修一
「話した。」
修一
「心配するな。」
次の瞬間、修一はスマホを少し耳から離した。
修一
「叫ぶな。」
修一
「耳が痛い。」
その一言に、空気が少しだけ緩む。
真奈
「叫んでんのか。」
陸斗
「桐生のおっさん、元気だな。」
玄三
「相変わらずじゃの。」
修一
「……ああ。」
修一はもう一度スマホを耳に戻す。
修一
「分かった。」
修一
「だが、こっちにも準備がある。」
修一
「明日には、そっちへ帰る。」
修一
「話はそれからだ。」
少し間があった。
修一
「……ああ。」
修一
「じゃあな。」
ピッ。
通話を切ると、修一は深く息を吐いた。
修一
「ふ~~~~。」
そのため息だけで、
内容を聞いていた者たちは大体を察した。
茂夫
「……なるほどな。」
茂夫
「そうか。」
玄三
「なるようにしかならん。」
茂夫
「そうだの~~~。」
茂夫はのんびりと頷く。
そして、何でもないことのように言った。
茂夫
「結界、張ろか?」
修一
「……頼めるか。」
茂夫
「ほっほっほ。」
茂夫
「その顔で頼まれたら、断れんわ。」
玄三
「強めにな。」
茂夫
「分かっとる。」
真奈
「え、そんなに?」
修一
「可能性の話だ。」
玄三
「可能性で屋敷を失うのは御免じゃ。」
陸斗
「本邸の二の舞は勘弁。」
隼人
「地下もないしな。」
真奈
「だから私も張るって。」
杏奈
「私も張るわ。」
胡桃
「私も、霊糸で補強する。」
茂夫
「ほう。」
茂夫
「冠崎の娘たちが張るなら、相当固いの。」
玄三
「それくらいせんと安心できん。」
修一
「……悪いな。」
茂夫
「なに。」
茂夫
「古い付き合いじゃ。」
茂夫
「それに、桐生の名が出たなら、わしらも無関係ではおれん。」
その言葉に、場の空気が少しだけ引き締まった。
先ほどまでの賑やかな食卓は、
まだそこにある。
湯気も、笑い声の余韻も、残っている。
そうして、賑やかな夜は更けていった。
翌朝。
冠崎家は帰宅するため、早々に帰路につくことになった。
和真
「まだ居たかった~。」
伊織
「僕も。」
雄一
「ばあちゃんのご飯、また食べたい。」
千代
「あらあら、またいつでもおいで。」
玄三
「騒がしくなりすぎん程度にな。」
真奈
「無理だな。」
玄三
「即答するな!」
修一
「どうせまた来るようになる。」
その言葉に、玄三と千代が少しだけ目を細めた。
ただの帰省ではない。
これから先、
総本家へ来る理由は確実に増える。
けれど、今はまだ誰も深くは触れなかった。
真奈
「帰りはサービスエリアな!」
隼人
「マジかよ。」
陸斗
「まだ言ってんのか。」
真奈
「当たり前だろ。行きで我慢したんだぞ。」
由美
「真奈!」
真奈
「いいじゃん! な!」
和真
「行きたい!」
雄一
「俺も!」
伊織
「僕も行きたい。」
修一
「は~~~。」
修一は大きくため息をついた。
修一
「仕方ない。」
修一
「寄ってやれ。」
真奈・和真
「いえーーい!!!」
陸斗
「結局こうなる。」
隼人
「予想通りすぎる。」
杏奈
「平和ね。」
胡桃
「ふふっ。」
車が走り出す。
総本家の門が、少しずつ遠ざかっていく。
重い話も、まだ残っている。
桐生蓮のこと。
神崎組のこと。
そして、綻びと歪みの原因。
けれど帰り道の車内には、
サービスエリアで何を食べるかという話題で、
いつものように騒がしい声が響いていた。




