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祓ノ血族(はらいのけつぞく)  作者: ハルヤ
【祓ノ血族】-本編-
131/193

【高位の存在】

最後に、真奈は白い小皿へ唐揚げを取り分けた。


神棚へ供えるためのものだった。


真奈は皿を両手で持ち、

静かに神棚の前へ進む。


先ほどまで騒がしかった食卓が、

少しだけ静まった。


真奈は膝をつき、

丁寧に皿を置く。


そして、深く頭を下げた。


真奈

「……いつも、ありがとうございます。」


静かな声だった。


その瞬間。


空気が、ふわりと変わった。


何かが降りてくる。


そんな気配。


けれど、姿は見えない。


輪郭もない。


ただ、そこにあるだけで、

部屋の空気が一段重くなる。


真奈

「来たか。」


真奈が、当たり前のように呟いた。


その直後。


陸斗の背筋が、ぞわりと震えた。


陸斗

「あ。」


陸斗

「ヤバ。」


陸斗

「来る!」


陸斗の横に、守護神の姿が現れる。


まるで、主を守るように。


いや。


それ以上に、

目の前の“何か”に反応したように。


全員

「うわ!!!」


雄一

「なに!?」


伊織

「急に出た!」


和真

「びっくりした!」


陸斗

「俺もびっくりしたわ!」


真奈

「あっ。」


真奈

「そっか。」


陸斗

「そっかじゃねぇよ!」


隼人

「何が来たんだよ!」


真奈

「いや……。」


真奈は神棚を見上げる。


そこには、白い皿に乗った唐揚げ。


そして、見えないはずなのに、

確かに何かがそこにいる気配。


真奈

「上の方。」


陸斗

「上の方って雑すぎるだろ!」


杏奈

「……名前を呼ばない方がいいわね。」


真奈

「ああ。」


真奈

「呼ぶと、たぶん面倒くさい。」


玄三

「真奈。」


玄三

「言い方。」


真奈

「だって本当だろ。」


神棚の前の空気が、

ほんの少しだけ揺れた。


まるで、笑ったように。


千代

「あらあら。」


千代

「お気に召したのかしら。」


真奈

「唐揚げ好きだからな。」


全員

「唐揚げ好きなの!?」


真奈

「たぶん。」


陸斗

「たぶんで供えるな!」

和真

「なんで、陸斗兄ちゃんが反応したの?」


陸斗

「あ~~~。」


陸斗は神棚の方を見ながら、少し困ったように頭をかいた。


陸斗

「姉ちゃんの傍についてる方はな、俺についてくださってる方と縁が近い方なんだよ。」


和真

「縁?」


陸斗

「そう。」


陸斗

「だから、降りて来られたら、こっちも反応する。」


陸斗の横に現れた守護神の姿が、淡く揺れる。


その場にいる全員が、思わず息を呑んだ。


見えている。


聞こえている。


けれど、それが当たり前のように会話へ混ざっている。


異様な光景だった。


真奈

「…………。」


真奈は、神棚の方を見たまま固まっていた。


次の瞬間。


真奈

「……ぶはっ!」


急に吹き出した。


杏奈

「お姉ちゃん?」


真奈

「陸斗。」


真奈

「“相変わらず派手じゃの~”だって。」


陸斗

「え~~~。」


陸斗

「それ俺のせい?」


陸斗が不満そうに言った、その直後。


今度は陸斗が口元を押さえた。


陸斗

「…………。」


陸斗

「ブフッ!」


陸斗も笑い出す。


陸斗

「姉ちゃんこそ。」


陸斗

「“相変わらずの食いしん坊で何より”だって。」


陸斗

「あーハッハッハッ!」


真奈

「うるさいわ!」


陸斗

「俺じゃねぇよ!」


真奈

「笑ったのお前だろ!」


陸斗

「言ったの俺じゃねぇ!」


真奈

「伝えた時点で同罪だ!」


陸斗

「理不尽!」


雄一

「え、今、神様同士が喋ってるの?」


伊織

「唐揚げ見ながら?」


和真

「神様も唐揚げ食べるの?」


真奈

「食べる方は食べる。」


陸斗

「雑な説明やめろ。」


杏奈

「……慣れてるはずなのに、こうして見ると迫力あるわね。」


胡桃

「うん……。」


胡桃は、神棚の前に置かれた白い皿を見た。


供えられた唐揚げ。


それを囲むように漂う、目には見えない気配。


真奈の傍にいる高い存在。


陸斗の横に立つ守護神。


そのどちらも、確かにそこにいる。


なのに、真奈と陸斗はいつものように言い合っていた。


なんだか、異様な感じだった。


けれど。


少しだけ、温かかった。

すると。


ふわり、と何かが真奈の横を通った。


姿は見えない。


けれど、確かにそこにいる。


その気配は、ゆっくりと台所の方へ向かっていった。


全員が、同時にびくりと肩を揺らす。


次の瞬間。


それぞれの傍についていた守護神たちが、

ゆらり、と気配を漂わせた。


まるで、

相手を迎えるように。


あるいは、

礼を尽くすように。


修一

「……マジか。」


修一

「初めてだ。」


玄三

「いや。」


玄三

「真奈が生まれてきた時以来か。」


その言葉に、空気が変わった。


真奈

「…………。」


由美は、静かに背筋を伸ばす。


千代

「お久しゅうございます。」


千代は、深く頭を下げた。


由美

「お久しぶりにございます。」


由美もまた、丁寧に頭を下げる。


由美

「あの子の出産の時は、助けていただきました。」


ふわり。


ふわり。


返事の代わりのように、

柔らかな気配が揺れる。


それは、ひとりひとりの傍を通っていった。


修一の前で、少し止まる。


玄三の前で、静かに揺れる。


千代の前では、懐かしむように。


由美の前では、

まるで労うように、ふわりと空気が温かくなった。


そして。


真奈の前に戻る。


真奈

「……久しぶり。」


真奈の声は、いつもより少しだけ静かだった。


それと同時に、

それぞれの守護神たちもまた、何かを交わしているようだった。


言葉は聞こえない。


けれど分かる。


これは、ただの挨拶ではない。


冠崎家に連なる者たちと、

その傍に在る者たち。


その全てを、確かめている。


そんな時間だった。


雄一

「……すごい。」


伊織

「見えないのに、いる。」


和真

「なんか、あったかい。」


胡桃は、そっと胸元に手を当てた。


怖くはない。


けれど、軽くもない。


あまりにも大きくて、

あまりにも近い。


そんな気配だった。

和真

「あったか~~い。」


和真が、ぽつりと呟いた。


その瞬間、

ふわりと漂っていた気配が、和真の前で止まった。


ふわり。


ふわり。


まるで、和真を覗き込むように。

まるで、そっと撫でるように。


和真

「……?」


和真が首を傾げる。


すると。


和真の傍に、

小さな影が浮かび上がった。


それは、和真と同じくらいの背丈をした子どものようだった。


柔らかく、淡い光をまとい、

和真の横に寄り添うように立っている。


和真

「あっ。」


和真の顔が、ぱっと明るくなる。


和真

「いつも一緒!」


その子は、にっこり笑った。


声はない。


けれど、和真には分かっているようだった。


次の瞬間、

その姿はふわりと溶けるように消え、

また気配だけに戻った。


和真

「いなくなっちゃった。」


真奈

「いなくなったんじゃない。」


真奈

「見えなくなっただけだ。」


和真

「そっか。」


和真は、嬉しそうに笑った。


和真

「じゃあ、いるね。」


真奈

「ああ。」


真奈

「ずっといる。」


その言葉に、胡桃は胸の奥が少し温かくなるのを感じた。


見えないだけで、

いないわけじゃない。


冠崎家の傍には、

いつだって、そういう存在が寄り添っている。

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