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祓ノ血族(はらいのけつぞく)  作者: ハルヤ
【祓ノ血族】-本編-
128/193

【封印具・結界核】

総本家から、さらに奥へ進む。


山の中にある、小さな神社。


派手ではない。


けれど、空気がまったく違った。


胡桃

「……空気が違う。」


杏奈

「ここは地脈の上に建っているの。」


真奈

「だから、結界核を安置するにはここが一番いい。」


玄三

「そして、ここを守っておるのが宗方じゃ。」


その時だった。


境内の奥から、声がした。


宗方茂夫

「遅いぞ、玄三。」


玄三

「年寄りを急かすな。」


茂夫

「わしも年寄りじゃ。」


玄三

「貉の年寄りと人間の年寄りを一緒にするな。」


茂夫

「はっはっは!」


豪快な笑い声が、山の中に響いた。


茂夫

「真奈よ。この前はご苦労さん。」


茂夫

「眠れたかの?」


真奈

「睡眠大事!」


真奈は親指を立てた。


茂夫

「ほっほっほ。」


茂夫

「何より何より。」


そこで茂夫の表情が、少しだけ引き締まる。


茂夫

「さて、行くか。」


茂夫

「これより奥じゃ。」


茂夫

「真奈が結界を張ってくれたお陰で、異質なものは近づかんようになった。」


茂夫

「じゃが、まだ残っとるものが出てくるでの。」


茂夫

「すまんが、陸斗。」


茂夫

「祓ってくれんか?」


陸斗

「オッケーイ!」


陸斗が軽く笑う。


そのまま、全員は道なりに奥へ進んだ。


しばらく歩いた、その時。


空気が、急に重くなる。


胡桃

「……っ。」


和真

「なに、これ……。」


伊織

「空気、変わった。」


茂夫

「真奈の結界が、ここで限界か。」


修一

「陸斗。」


修一

「祓え。」


陸斗

「よっしゃー!」


その瞬間、地面から大剣が現れた。


陸斗の足元が、淡いオレンジ色に光る。


次の瞬間。


陸斗の姿が消えた。


いや。


目にも止まらぬ速さで、駆け抜けたのだ。


重く淀んだ空気の中。


何かが蠢く気配。


形になりきれない異質なもの。


それらを、陸斗は次々と斬り祓っていく。


祓われたものは跡形もなく、

霧のように消えていった。


陸斗

「邪魔すんなよ。」


陸斗

「ここは、冠崎家の道だ。」


最後の一振りで、重かった空気が割れる。


すると、閉ざされていたような道が、

自然に開けていった。


茂夫

「見事じゃ。」


真奈

「相変わらず足だけは速いな。」


陸斗

「足だけってなんだよ!」


隼人

「いや、今のは普通に速すぎだろ。」


雄一

「兄ちゃん、すげー!」


伊織

「かっこよかった!」


和真

「もう一回見たい!」


陸斗

「見世物じゃねぇ!」


そう言いながらも、陸斗は少し得意げだった。


やがて、神社の最奥にたどり着く。


茂夫

「この中じゃ。」


そこには、社の下へ続く扉があった。


玄三

「開けるぞ。」


玄三が手をかざす。


ゴゴゴゴ……。


低い音を立てて、扉が開いた。


玄三が中へ入ると、

奥へ向かって、ぽっ、ぽっ、ぽっと蝋燭に火が灯っていく。


中は、静かだった。


外の山とは別の場所のように、

音が吸い込まれていく。


奥には、台座があった。


玄三は、封印具を両手で持ち、

ゆっくりと台座へ置く。


その瞬間。


眩い光が、地下全体を包み込んだ。


光は渦を巻きながら、

次第に封印具へ集まっていく。


そして。


一本の光の筋が、天へ伸びた。



外では、社の上から一本の光の柱が立ち上がっていた。


光は空へ伸び、

そこから四方八方へ広がっていく。


山を包むように。


地脈をなぞるように。


やがて、その光はゆっくりと薄れていった。



玄三

「茂夫。」


玄三

「祝詞じゃ。」


茂夫

「うむ。」


茂夫は、静かに前へ出た。


そして、ゆっくりと祝詞を上げ始める。


低く、深く。


山の底に響くような声だった。


封印具が、淡い紫色に光る。


閉じていた花弁が、

一枚、また一枚と開いていく。


中央の結界核が、ふわりと宙に浮かんだ。


紫色の光をまといながら、

ゆっくりと回り始める。


外では、薄い膜のようなものが、

神社全体を覆っていた。


その膜が広がるにつれ、

残っていた異質なものたちは、跡形もなく霧となって消えていく。


やがて、茂夫の祝詞が終わった。


封印具の花弁は、結界核を守るように開いたまま、

静かに光を宿していた。


玄三

「……これで、大丈夫じゃ。」


雄一・伊織・和真

「すごーーーい!!!」


陸斗

「言葉が出てこね~。」


隼人

「俺も。」


真奈

「ふ~~。」


真奈

「間に合ったか。」


杏奈

「安心ね。」


胡桃

「すごい……。」


修一

「は~~。」


修一

「肩の荷が降りた。」


由美

「お疲れ様、あなた。」


玄三

「やれやれじゃ。」


茂夫

「ほっほっほ。」


茂夫

「良きかな。良きかな。」


すると、役目を終えたかのように、

宙に浮いていた結界核は、ゆっくりと回りながら封印具の中へ沈んでいった。


開いていた花弁が、

一枚、また一枚と閉じていく。


和真

「閉じるよ。」


茂夫

「いいんじゃよ。」


茂夫

「結界が張られた後は、封印具が結界核を護ってくれる。」


茂夫

「中で結界核は回り続け、ずっと結界を張り続けてくれるんじゃ。」


和真

「そうなんだ。」


茂夫

「ほっほっほ。」


和真は、閉じていく封印具をじっと見つめた。


綺麗だった光は、少しずつ落ち着いていく。


けれど、消えたわけではない。


花弁の隙間から、

淡い紫色の光が静かに漏れていた。


玄三

「やれやれじゃ。」


玄三

「やっと元に戻ったの。」


玄三は封印具を見つめたまま、静かに息を吐く。


玄三

「他にも、無くなった神社はあるのか?」


茂夫

「いや。」


茂夫

「今のところは確認されとらん。」


玄三

「そうか。」


玄三

「なら、綻びや歪みはなんなんじゃろな?」


茂夫

「さ~~の~~。」


茂夫は、のんびりとした声でそう言った。


けれど、その目だけは笑っていなかった。


茂夫

「まっ、上がろうや。」


玄三

「……そうじゃな。」


全員で外へ出た。


社の外には、清々しい風が吹いていた。


先ほどまでの重さは消え、

山全体が、深く息をついたようだった。


胡桃

「……空気が、軽い。」


杏奈

「結界が戻ったのね。」


真奈

「ああ。」


真奈

「とりあえず、ここは大丈夫だ。」


修一

「……とりあえず、か。」


その言葉に、玄三と茂夫がわずかに視線を交わす。


社の外には、清々しい風が吹いていた。


先ほどまでの重さは消え、

山全体が、深く息をついたようだった。


けれど、玄三と茂夫の表情だけは、

まだ晴れてはいなかった。


結界核は戻った。

それでも、綻びと歪みの理由は、

まだ誰にも見えていない。

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挿絵(By みてみん)


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