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祓ノ血族(はらいのけつぞく)  作者: ハルヤ
【祓ノ血族】-本編-
125/193

【戻り始めた日常】

別荘。


山の中腹にあるその場所にも、朝が来ていた。


窓は開け放たれ、

昨日まで埃っぽかった室内には、少しだけ人の気配が戻っている。


海斗

「……筋肉痛なんだけど。」


「掃除で筋肉痛ってどういうことだよ。」


海斗

「退院直後に大掃除したからだろ!」


一樹

「動ける範囲でいいと言った。」


海斗

「言ったけど、結果全員ガチだったじゃん!」


鷹臣

「綺麗にはなったな。」


玲央

「ああ。」


紫苑

「…………。」


紫苑だけは、窓の外を見ていた。


木々が揺れている。


鳥の声。


朝の光。


普通の山の朝。


けれど、昨日からずっと、胸の奥に違和感が残っていた。


海斗

「紫苑?」


紫苑

「……いや。」


紫苑

「何でもない。」


一樹

「仕事の準備だ。」


一樹

「今日、機材が色々運ばれてくる。」


一樹

「準備しろ。」


海斗

「俺たちの日常……か。」


ぽつりと呟いた海斗の声に、

一瞬だけ空気が止まる。


一樹

「待たせてるからな。」


一樹

「早くしろ。」


玲央

「……ああ。」


「動ける範囲で、だろ?」


一樹

「当たり前だ。」


鷹臣

「…………。」


鷹臣は、時折感じていた。


一瞬。


本当に、ほんの一瞬だけ。


妙な違和感と、奇妙な音。


何かが、引きずられているような音。


ズ……。


ズル……。


ズ……。


けれど、振り向いても何もない。


周りを見渡しても、誰もいない。


あるのは、朝の光と、開け放たれた窓と、

少し埃の残った部屋だけだった。


一樹

「鷹臣?」


鷹臣

「……え?」


鷹臣

「ああ、何でもない。」


鷹臣

「準備、始めとくよ。」


一樹

「頼むぞ。」


鷹臣

「ああ。」


鷹臣は何事もなかったように歩き出した。


その背中を、紫苑は遠目に見ていた。


「紫苑?」


「どした?」


紫苑

「…………。」


紫苑

「いや、何でもない。」


紫苑はすぐに踵を返し、その場を去った。


「…………。」


蓮だけが、その場に残る。


紫苑の様子。


鷹臣の反応。


そして、自分の中に残る、説明のつかない感覚。


「……なんだよ。」


小さく呟いた声は、誰にも届かなかった。


それでも、時間は進む。


運び込まれる機材。


鳴り続ける連絡。


片付けなければならない仕事。


滞っていたものを一つずつ処理していくうちに、

あの違和感は、少しずつ薄れていった。


気のせいだったのかもしれない。


退院直後で、まだ感覚が戻っていなかっただけかもしれない。


そう思えるほどに、

日常は忙しかった。


けれど。


完全に消えたわけではなかった。


胸の奥に、小さな棘のように残ったまま。


神崎組の日常は、

静かに動き始めていた。

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