【本家へ向かう朝】
翌朝。
冠崎家の玄関は、朝から騒がしかった。
陸斗
「おい、和真。荷物それだけか?」
和真
「うん。」
隼人
「いや、少なすぎだろ。」
和真
「だって、一泊じゃないの?」
陸斗
「親父の話聞いてたか?」
和真
「聞いてたけど、途中で真奈姉ちゃんがサービスエリアの話してたから忘れた。」
真奈
「私のせいにするな。」
隼人
「いや、九割姉貴のせいだろ。」
真奈
「一割は?」
陸斗
「元から話聞いてない和真。」
和真
「えっ。」
胡桃
「ふふっ。」
由美
「はいはい。朝から喧嘩しないの。」
杏奈
「喧嘩というより、いつもの確認作業ね。」
真奈
「確認作業ってなんだよ。」
杏奈
「真奈がどこまで本気で寄り道する気かの確認。」
真奈
「本気に決まってるだろ。」
陸斗
「だから運転させねぇって言ってんだよ!」
隼人
「本家に着く前に全サービスエリア制覇される。」
真奈
「旅の醍醐味だろ。」
修一
「今日は旅じゃない。」
修一の声で、少しだけ空気が止まった。
けれどすぐに、由美が柔らかく笑う。
由美
「でも、ちゃんと朝ご飯は食べてから行きましょうね。」
雄一
「やった。」
伊織
「おにぎりある?」
由美
「あるわよ。」
真奈
「唐揚げは?」
由美
「あります。」
真奈
「よし、出発できる。」
陸斗
「目的変わってんだよ。」
胡桃
「クスクス。」
朝の光が、玄関に差し込んでいた。
大きな問題を抱えたままでも、
冠崎家の朝は、いつも通り騒がしい。
それが少しだけ、胡桃を安心させた。
修一
「……行くぞ。」
全員が荷物を持つ。
冠崎家が、本家へ向かう朝だった。
修一
「あれは?」
胡桃
「大丈夫!」
胡桃
「私が霊糸で巻いてる。」
杏奈
「私が補助具で結界を張ってるわ。」
真奈
「私が邪気祓いしたから、問題ない。」
修一
「そうか……。」
修一は、ようやく少しだけ息を吐いた。
その様子を見て、真奈が首を傾げる。
真奈
「お父さんさ~~。」
修一
「なんだ?」
真奈
「もっと気楽に行こ?」
修一
「……なに?」
真奈
「今からそんなにピリピリしたって、しょ~がないじゃん。」
真奈
「なるようにしかならないし。」
真奈
「向こうに着いてからしか分かんないのに、分からないものを考えても分かりません!!!」
修一
「…………。」
修一は、呆然とした。
全員も、思わず固まった。
数秒後。
修一
「くっ……。」
修一
「くっくっくっ……。」
肩が震える。
そして。
修一
「ハッハッハッーー!」
修一が、突然大笑いし始めた。
真奈
「やば。」
真奈
「壊れた。」
杏奈・胡桃
「おねーーちゃん!!!」
陸斗
「いや、壊したのお前だろ!」
隼人
「親父が朝からバグった。」
由美
「あらあら。」
修一
「くっくっくっ……。」
修一は目元を拭う。
修一
「真奈の言う通りだ。」
修一
「なるようにしかならんか。」
修一
「そうだな。」
修一
「その通りだ!!!」
修一の顔から、少しだけ力が抜けた。
修一
「気楽に出発するぞ!!」
全員
「おーーー!!!」
真奈
「よし! サービスエリア寄るぞ!」
陸斗
「寄らねぇ!!!」
隼人
「気楽の意味を履き違えるな!!!」
胡桃
「クスクスクス。」
由美
「本当に、騒がしい朝ね。」
そう言いながらも、由美の表情は柔らかかった。
騒がしい声。
呆れたようなツッコミ。
誰かの笑い声。
重い問題をいくつも抱えているはずなのに、
冠崎家の朝は、いつも通りだった。
だからこそ、少しだけ救われる。
胡桃は、荷物を抱えながら小さく笑った。
胡桃
「行こう。」
真奈
「おう!」
杏奈
「忘れ物はない?」
陸斗
「真奈姉の寄り道欲以外はな。」
真奈
「だから置いていけるなら置いていきたいって言っただろ。」
隼人
「置いてけ。今すぐ置いてけ。」
修一
「……行くぞ。」
その声に、全員が顔を上げた。
玄関の扉が開く。
朝の光が、家の中へ差し込んだ。
いつものようで、
いつもとは違う朝。
冠崎家は、騒がしいまま、
本家へ向かって動き出した。




