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祓ノ血族(はらいのけつぞく)  作者: ハルヤ
【祓ノ血族】-本編-
123/193

【退院後の居場所】

――翌朝。


病室には、晴れない表情の六人がいた。


退院の手続きは済んだ。


荷物もまとめた。


タクシーの手配も終わっている。


本来なら、喜ぶべき日だった。


ようやく病院を出られる。


ようやく、いつもの場所へ戻れる。


けれど、誰一人として、

心から安堵している者はいなかった。


玲央

「行くぞ。」


短くそう言って、玲央が先に歩き出す。


六人は荷物を持ち、病室を出た。


廊下には、いつも通り看護師が行き交っている。


患者の話し声。


ナースコールの音。


消毒液の匂い。


何も変わらない。


昨日、鷹臣が聞いたという音など、

最初から存在しなかったかのようだった。


病院の外へ出る。


眩しい光。


車の音。


風の匂い。


外の空気は、普通だった。


あまりにも、普通だった。


けれど。


見える世界は、もう前と同じではない。


海斗

「……外だぁ。」


「やっと出られたな。」


一樹

「まだ無理はするな。」


「分かってるっつーの。」


鷹臣

「……。」


鷹臣は、ふと病院の方を振り返った。


何もない。


何も聞こえない。


だが、昨日の音だけが、まだ耳の奥に残っていた。


ズ……。


ズル……。


ズ……。


鷹臣

「…………。」


その時だった。


紫苑の背後を、何かがすっと通り過ぎた。


気配。


風ではない。


人でもない。


だが、確かに何かがいた。


紫苑は、すぐに振り向く。


紫苑

「…………。」


そこには誰もいなかった。


病院の出入口。


行き交う人。


停まっている車。


普通の朝。


普通の景色。


紫苑

「……今、何かいたか?」


玲央

「何がだ?」


海斗

「おい~~~。紫苑もかよ~~~。」


「お前まで言い出したら洒落にならねぇぞ。」


紫苑

「…………。」


紫苑はもう一度周囲を見る。


何もない。


何も見えない。


紫苑

「……いや。」


紫苑

「気のせいだ。」


その時、ちょうどタクシーが到着した。


手配してから、まだ五分も経っていない。


海斗

「早っ。」


一樹

「乗るぞ。」


六人は、荷物を積み込むとタクシーへ乗り込んだ。


向かう先は、山の中腹にある別荘。


本邸は半壊。


地下も壊滅。


戻る場所は、もう以前の場所ではなかった。


車が病院を離れていく。


紫苑は、窓の外を見る。


遠ざかる病院。


人通り。


朝の光。


そのどれもが普通に見える。


だが、胸の奥に残った違和感だけは、消えなかった。

挿絵(By みてみん)



別荘は、山の中腹にあった。


人目につきにくく、

街からも少し離れている。


神崎組が一時的に身を置くには、都合が良い場所だった。


タクシーが停まり、六人は荷物を下ろす。


海斗

「うわ、久しぶりだなここ。」


「本邸があれじゃ、しばらくここか。」


玲央

「ああ。」


玲央

「しばらくはここを使う。」


紫苑が鍵を開ける。


扉を開けた瞬間、

少し埃っぽい空気が流れ出た。


鷹臣

「けほっ。」


鷹臣

「埃が……。」


海斗

「うわ、空気悪っ。」


一樹

「窓を全部開けろ。」


一樹

「掃除するぞ。」


「退院初日から掃除かよ。」


一樹

「退院初日だからだ。」


一樹

「汚い場所で休む気か?」


「……正論が一番うぜぇ。」


玲央

「動ける範囲でいい。」


玲央

「無理はするな。」


海斗

「はーい。」


鷹臣

「とりあえず換気だな。」


紫苑

「……。」


紫苑は黙って窓へ向かう。


次々と窓が開けられ、

山の空気が部屋の中へ流れ込んだ。


冷たい風。


木々の匂い。


遠くで鳴く鳥の声。


少しずつ、埃っぽさが薄れていく。


全員

「お~~。」


誰からともなく声が上がり、

六人は掃除を始めた。


雑巾。


箒。


荷物の整理。


埃を払い、窓を開け、

少しずつ部屋に人の気配が戻っていく。


病院での重い沈黙が、

ほんの少しだけ薄れていった。


けれど。


紫苑が最後の窓を開けた時。


ふと、山の奥から風が吹いた。


冷たい。


妙に冷たい風だった。


紫苑

「…………。」


窓の外には、木々が揺れているだけだった。


何もいない。


何も見えない。


それでも紫苑は、

しばらくその場所から目を離せなかった。

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