【引き返せない者たち・後編】
冠崎家。
夜。
玄関の戸が開く音がした。
修一
「ただいま。」
由美
「おかえりなさい。」
いつもの声。
いつもの家。
けれど、修一の表情を見た瞬間、
由美は笑みを消した。
由美
「……何かあったのね。」
修一
「神崎組の件だ。」
その一言で、
居間の空気が変わった。
真奈
「退院か?」
修一
「ああ。明日には出られる。」
陸斗
「なら良かったじゃねぇか。」
隼人
「やっと一段落か?」
修一は、首を横に振った。
修一
「一段落ではない。」
真奈が、静かに目を細める。
修一
「あいつらが、霊力を強くしたいと言い出した。」
空気が止まった。
杏奈
「……本当に?」
修一
「ああ。」
由美
「それは……知らない世界に、踏み込むということね。」
修一
「そうだ。」
真奈
「親父。」
真奈
「止めなかったのか。」
修一
「止めた。」
修一
「知らない方がいい。普通に戻れるなら、その方がいいと言った。」
修一
「だが……。」
言葉が詰まる。
修一は深く息を吐く。
修一
「は~~~~~。」
由美
「……あなた?」
修一
「色々、問題が出てきた。」
修一
「親父にも相談せんといけん事だらけだ。」
由美
「ここじゃ解決できないことなのね?」
修一
「ああ。」
修一は、少し間を置いた。
修一
「まずは、桐生蓮。あいつの事だ。」
真奈
「あいつがどうかしたのか?」
由美
「桐生……。」
由美の顔色が変わる。
由美
「もしかして……。」
修一
「ああ。」
修一
「その、もしかするとだ。」
由美
「あぁぁ……。」
由美の目に、じわりと涙が滲んだ。
由美
「そうなのね……。」
由美
「やっとなのね……。」
胡桃
「お母さん……?」
修一
「まだ、そうだと決まった訳じゃない。」
修一
「ただ、確認した限りでは……そうじゃないかというだけだ。」
修一
「ここは、親父に任すしかない。」
由美
「そうね……。」
由美は小さく頷いた。
由美
「そうだったわね。」
由美
「母親としては、そうだと思いたいわ。」
由美
「麗華さん、本当に苦しんでるもの。」
真奈
「麗華……?」
真奈
「……桐生家か。」
修一
「そうだ。」
修一
「それと、結界核と封印具も戻さにゃならん。」
陸斗
「やば。」
陸斗
「頭が追いつかね~。」
隼人
「情報多すぎ。」
胡桃
「…………。」
胡桃は、黙ったまま俯いていた。
蓮のこと。
結界核のこと。
封印具のこと。
そして、神崎組のこと。
全部が、ひとつに繋がっていく気がした。
修一
「とにかく。」
修一
「今回、親父の所には全員行かなきゃならん状態になった。」
修一
「車二台で行く。」
修一
「陸斗、隼人。頼んだぞ。」
陸斗
「へ~~い。」
隼人
「俺もか……。」
真奈
「私が運転するぞ。」
陸斗
「…………。」
隼人
「…………。」
陸斗・隼人
「俺らが運転しよう。」
二人の声が、綺麗に重なった。
真奈
「なんでだよ!」
陸斗
「絶対寄り道する!!!」
隼人
「そこら中のサービスエリアへ立ち寄る!!!」
真奈
「くそ。バレたか。」
陸斗・隼人
「バレるわ!!!」
胡桃
「クスクス……。」
由美
「相変わらずね~~。」
張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩む。
けれど。
修一の表情だけは、まだ晴れなかった。
親父に相談しなければならない。
それはつまり、
冠崎家だけでは判断できないほどの事態だということだった。




