表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルティメイト ~最凶な世界でもエンジョイライフ~  作者: ちょばい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/132

39.欲張り

【サイン視点】 


現在の最悪な状況を、脳内で一度冷静に整理しよう。


突然、このランド平原に、本来ならここにあるはずのない最前線級の狂った兵器どもがゴロゴロと現れ始めた。


即座に撤退・脱出の判断を下した俺達だったが、度重なる生物兵器の襲撃によってランド平原から脱出できずにいる。


おまけに、この俺が地下深くの空洞へと落下し、それにアミューやみんなが「お供します!」と言わんばかりに連鎖的に飛び込んできたせいで、地上への脱出ステップがさらに遠のいた。


俺からパワーアーマー用の予備バッテリーを受け取ったゴザルが、多種多様な最前線の生物兵器どもを文字通りバッサバッサと一刀両断に斬り倒して先陣を切ってくれているおかげで、この無茶苦茶な強行軍がギリギリ成り立っている。


だが、さすがにそろそろ地上へ抜けないと、全員まとめてバッテリー切れで詰むぞ。


「い、忙しすぎるでござるよぉぉぉ!! 」

「俺だって珍しく戦ってやってんだからごちゃごちゃ言うんじゃねぇよ」

「ゴザル! あそこ! 天井の影!!」


ア……ポ……ア……ポ……。


地下洞窟の天井の岩肌に、無数の巨大な「アポアポ君」がびっしりとぶら下がり、一斉に自由落下してくるのが視界の端に映った。


なんだよあいつら、行きの索敵の時には影も形もなかったぞ。多すぎだろ!


あいつらに効いてた弾薬『くすぐり弾』は、もう一発残らず使い切っちまった。


逃げるか。ここは幸いにも洞窟だ。地上ではない。あのアポアポ君の巨体なら、この起伏の激しい地下路では満足に移動スピードが出せないはずだ。――地中に生き埋めになるリスクをガン無視してトップスピードで追いかけてこなけりゃなぁ!


先頭を走るゴザルも、これ以上の戦闘によるエネルギーの消耗を避けるため、あいつらを無視して全力で逃げることを選んだようだ。


――……ドッッッカァァァァァーーーーンッッッ!!!!


突如、空間を引き裂くような強烈な爆音とともに、洞窟の岩盤に激しい衝撃波が走った。

視界を揺らしながらチラリと背後を振り返ると、落下してきたアポアポ君の巨体が、機械兵器【ナックラー】によって殴り飛ばされていた。


アミューの蹴りをも耐えたアポアポ君をぶち飛ばす殴り…つまり、あのナックラーは、まごうことなき最前線級の機械兵器だということだ。

 

ってことは、ランド平原の最前線化の予兆はあったわけだ。ナックラーを見かけたら次からは即撤退を選ぶとしよう。


背後でナックラーとアポアポ君の群れが、大怪獣決戦を始めてくれたおかげで、俺たちへの追手は一旦綺麗に消滅した。


激しい戦闘の余波から少し離れた安全圏の分岐路で、俺たちは一度荷物を広げ、短時間での装備の再点検を行うことにした。アミューに担がれていた俺も降ろしてもらった。


少し離れた場所で、グォンドと煙女がそんな俺たちの手際をじっと見つめていた。


メインウェポンの駆動よし! パワーアーマーのバッテリー残量ゼロ! 新しいやつに入れ替えだ! 回復薬(紫)はさっき消費したから、アーマーの薬剤自動投与スロットに予備を再装着! 銃の弾薬は……もうこの際、『爆発弾』に切り替えるか。ここまで大騒ぎのド乱戦になったら、音の隠密性もクソもないわ。


合体ゴザルの体からは、たくさんのアームが飛び出てきた。そして、戦闘で火花を散らしていた不良箇所を精密機械の速度で自己修理している。ゴザルにくっついた機械兵器の女の子達も頑張っているのだろうな。


俺の点検が終わるのとほぼ同時に、ゴザルの身体から伸びていた修理アームがシュルンと体内へ引っ込んだ。お互いに言葉を交わすまでもなく、無言のまま同時に立ち上がる。それが次の強行軍の合図だ。


そして、再び全員で荒野の地下を走り出す。


しかし、その直走るルートの途中で、どうしても見過ごせないものを捉えてしまった。

アレは、間違いない……っ! 今この瞬間のタイミングを逃したら、今後の人生で二度とお目にかかれないかもしれない程の、超希少なレア素材だ!


「ゴザル!後は頼んだ!」

「!わかったでござる!」


共に並走していたアミューに手信号で指示を出し、俺たちは全体の進行方向から急角度で進路を変えた。グォンドと煙女は一瞬こちらを訝しげに見ながらも、足を止めることなく、そのまま確実にゴザルの背中に付いていった。


ゴザルももちろん、「何があったんだ」だとか、そんな余計な質問は一切口にしない。この一分一秒を争う極限状態において、言葉を交わす時間すら最大のロスになることを、アイツも理解しているのだ。


ゴザル達の背中があっという間に洞窟の闇の向こうへと消え去る。

方向転換した俺とアミューは、俺が発見した、その巨大な生物兵器の新鮮な死骸の前に到着した。


恐らく、さっきのナックラーの鉄拳に正面からクリーンヒットを喰らって殺されたのだろう。生物側の自慢の超硬質甲殻が、ナックラーの拳の形に沿って大きく陥没し、バキバキにひび割れていた。その亀裂の隙間からは、不気味な紫色の体液と、内臓組織がドロドロとこぼれ落ちている。


この生物兵器の名前は…


【ダンゴロムシ】


アミューのパワーアーマーの装甲のベースになりえる、最高峰の強度を持つ、特上の甲殻の塊だ。









【ゴザル視点】


「ねぇ、あの二人……完全に置いてきちゃったけれど、本当に大丈夫なの?」


グォンド殿の広い背中にがっしりと背負われている女性が、拙者の背中に向かって小さな声をかけてきた。

話し声が小さすぎて頭に装着されている「コノハ」が音を拾ってくれなかったら、並走する足音にかき消されて気づけなかったでござるよ。


「何の問題もないでござるよ! サイン殿はきっと、この命懸けの逃走劇よりも遥かに価値のある『大事な何か』を、見つけ出したのでござるよ」


拙者に「護衛をしてくれ」と頼んでおきながら、現場のノリで「やっぱなしで!」と進路を裏切るあたり、なかなかに自己中心的なおっさんでござる…とは、少し思う。しかし、この最悪な状況下で脱出を一時中断してでも手に入れたい何かがそこにあるのだという確信が、切羽詰まった声色から伝わってきた。


それに、何よりも、そもそも――。


あの2人なら、拙者の護衛などなくとも、自力でこの程度の地下洞窟など無傷で突破して脱出できるでござろう。最初から拙者が今、最優先で命を守らなければならないのは、この地獄のような状況下でも死に物狂いで拙者の背中に付いてきている、後ろの2人のなのだ。彼ら……いや、特にあのダイナロイド『グォンド』にとっては、この最前線級の強行軍は少々、体の許容量を超えて酷すぎる環境でござるからな。


「……そう、ならいいけれど」


それにしても、彼女……グォンド殿に大人しくおぶられている、87番と呼ばれるこの女性の様子は、どうにも奇妙でござる。

これだけの死線に晒されながら、その声にも瞳にも、最前線の冷徹な生物兵器並みに「感情の起伏」というものが一切感じられない。いや、今は無駄な思考を巡らせる時間ではないでござるな!


「グォンド殿!少しペース落とした方がいいでござるか?」

「いや…これで…いい」

「脱出まであと少しでござる!踏ん張りどころでござるよ?」









【サイン視点】


俺とアミューは、発見したダンゴロムシの甲殻をのんびりと解体……している余裕など当然ないので、一旦その巨大な死骸の影に身体を滑り込ませ、周囲の生体反応や機械兵器の駆動音が落ち着くのをじっと待つことにした。


できるだけ気配を隠すため、俺はアミューの身体を自分の胸元へと強く抱き寄せる。アミューも俺の意図を察したのか、俺の腰の周りにしなやかな両腕を回し、嬉しそうにぎゅっと抱きついてきた。


って、おい、お前の着てるパワーアーマーのフレームがなんかミシミシと不穏な音を立ててますよ!? もう少しだけ、中身のおっさんを労わるように抱き着いて!! 死んじゃう!


「サイン、なんかいい匂いするー。すんすん」

「そ、そうか……? 激しく動き回って汗だくだぞ、俺」


それ、世間一般では「おっさんの悲しき加齢臭」って呼ばれてるやつだと思うんですが……アミューの鼻はどうなってやがんだ。


「ねぇ、サイン…ごめんね」

「ごめんって、さっき地下空洞へ落っこちた時の、あの不時着の衝撃のやつか? 大丈夫だ、あの程度の高さならアーマーで…」

「違うの……それじゃない、別のこと」


それじゃない、だと?

それ以外で、アミューがこの俺に対して、こんな風にしおらしくシュンとなって謝ってくるような事案件なんて、何かあっただろうか。


「サインが地下の底に落ちていく時ね……私、サインが出した指示……わざと、無視しちゃったの」

「……ああ、あの時のことか」


てっきり、落下の爆音のせいで、俺の声が聞こえていなかっただけだと思ってたやつか。


「サイン……私ね、サインなら、たった一人で地下に落ちても絶対に大丈夫だって、頭ではちゃんと分かってたの。でもね、一秒でもサインと離ればなれになるのが、どうしても嫌だったの……私はね、サイン。自分が戦って死ぬのは怖くないけど、サインが死ぬことだけは、絶対に嫌。私の手の届かない見えないところで、サインに何かあったらって思ったら……怖くて耐えられなかったの。だから……ごめんなさい」

「…」


なるほどな。それで、俺の指示を認識した上で、わざと地下の闇へ向かって俺の後を追いかけて飛び込んじまったわけか。

アミューにとっては、自分が助けられない範囲に、この俺が行ってしまうことが許せないらしい。


アミューをこれまで大切に育て、過保護なまでに懐かせてしまった結果の、これが弊害というやつか。

――だが、まぁ。決して悪い気分じゃない。

俺は苦笑しながら、いつものようにアミューの頭を撫でてやる。


「いつも守ってくれてありがとな、アミュー。でもな、それは俺だって同じだぞ。アミューが俺の目の届かないところで死んだら、俺だって嫌だ。よし、あの指示は無かったことにしよう。お前の気持ちに、俺の配慮がなさすぎた。俺の方こそ、すまなかったな」


「………うん………すぅ……すぅ……」


俺の手のひらで頭を心地よさそうに撫でられながら、アミューはそのまま俺の胸元に体重を預け、規則正しい寝息を立てて眠ってしまった。


…寝た?いやちょっと待ってください…ここ、まだ最前線級の化け物が跋扈してる戦場のド真ん中ですが!?


いや、落ち着け、きっとアミューなら殺気を向けられたら起きるに違いない。起きてくれるよな?


俺は周囲の暗闇にハラハラと視線を走らせながら、腕の中のこの上なく可愛い寝顔のアミューを引き剥がすこともできず、彼女が自発的に目を覚ますまで、死体の影でじっと石のように硬直することを選んだ。……暇潰しに、手元の情報端末を開く。


『拙者達は全員、ランド平原を脱出したでござるよ』

『そうか、助かった。俺たちは素材のキープでまだ時間がかかりそうだ。アミューが俺の胸の中で寝ちまった』


煙女とグォンドも、無事にゴザルが送り届けてくれたか。一安心だ。……そういや、なんで俺はあのお荷物二人組のことを、あんなに過保護に気にかけていたんだっけ。まぁいい。


『なあ、ゴザル…暇だからチャットで雑談しようぜ』

『しないでござる』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ