35.可哀想なダイナロイド
【アミュー視点】
サインの情報端末に映っていた、私と同じダイナロイドが目の前にいる…
最初に私はアイツを見た時、凄い可哀想な奴だと思った。映像越しでも見ただけでわかる。圧倒的に栄養が足りていない。
鱗が黄ばんでいるし顔色も土っぽくなっているし頬もゲッソリ。合わない環境でストレスもかなり溜まってるんだ。
私はサインにたくさん美味しいものを食べさせてもらっていた。楽しいこともたくさんした。だから今私はこうして元気に生きている。
でも…なんとなく…私が映像のアイツに重なってしまった。もし私があっちの立場だったら…サインと出会っていなかったら…
そんな可哀想な境遇のアイツをこれ以上見たくなくて興味がないと言って目を逸らした。
でもそれはそれ。これはこれ。
アイツは私を蹴飛ばしサインにぶち当て殺そうとしている。
これは許さないよ。
蹴りを回転しながら避け、そのままの勢いで尻尾をぶん回し体にぶつける。尻尾に骨が折れる感触が伝わってくる。でもすぐに治るだろう。私達の体なら。治るのなら問題ない。
私はアイツを許さないけど可哀想だから殺さない。
アイツは私がお仕置きしてやる!
【サイン視点】
あー良かった!マジで良かった!
ふっ飛ばされたのがアミューじゃなくて!
アイツあれじゃん!動画で見たぞ!賞金兵器のダイナロイドのグォンドだ!
お、おっかねぇ…顔が…煙女が言ってた話が本当ならアミューとグォンドは姉と弟なんだろうけど…やっぱり似てないぞ!
今のこの状況、俺の命の危機でもあるんだろうがアミューの顔に余裕が見えるのできっと負けることはないだろう。つまり俺は少しアミューから離れ、どっしりと構え、この戦いを見ていればいい。アミューを信じて。
…チラリとあの87番さんを見るとすっげぇ歯ぎしりしそうな、嫌そうな顔をしていた。
もしかしてこれは…俺の…形だけどっしり構えてるのがバレてるな。内心はビビリまくって足がガクガクしてるのが…見栄張ってんじゃねぇぞってか。壁越しにも俺の動きを見抜ける奴だ。そのくらいできてもおかしくない。
だって本当に怖いんだもんあのダイナロイドの顔…アミューの愛嬌の良さを分けてやりたいくらいだ。
「クソが…!なんで避けられた」
「来い!お前の弱さを今から叩き込む!」
地面にめり込んだグォンドが壁から出てくる。まだやる気のようだ。そしてアミューに殴りかかる。早いな。なんとなくだがアミューよりも動きが早い気がする。
しかしアミューはなんなく攻撃を避け、受け流し、カウンターを顔面に入れる。
カウンターが入った時の音がヤバい。メキョキョキョキョ…って…超痛そう。グォンドの動きが早いから威力も倍増だ。
しかしグォンドは倒れずにまた速度を上げて殴りかかる。どの攻撃も風を切る音が異常だ。たまにパァンッて…鞭を空ぶった時のような音が鳴っている。
あの筋肉で蹴りなんてやったらどんな威力になるんだ?衝撃波的なのものが飛ぶんじゃないか?ちょっと見てみたい気もするがアミュー相手に蹴り技は隙が大きすぎるようだ。
恐らく蹴ろうとしたグォンドの上がった足とは別の、軸足を素早く足払いされて盛大にこけた。大砲がぶち当たったような音が洞窟内に響く。あれ人間にやったら足もげるで…
「ふん、自分の体を全然使いこなせていないね。普通に戦ったらお前のが強いはず。でも私には勝てないよ」
グォンドは今度は立ち上がらずに倒れたままだ。アミューはまだ余裕そう…全力で戦うほどでもなかったというわけか。
突然グォンドの右腕がウニョウニョし始めた。
「ダメ、サインを攻撃するのは許さない」
アミューがそのウニョウニョ部分を踏み潰した。何!今俺何かされそうになったの!
「…ぜ、なぜ!あんな男が大切なんだよ!人間だぞ!クソ雑魚だぞ!」
「クソ雑魚だから私が守ってる!」
・サインは心に10のダメージを受けた▼
今度はグォンドの左手腕がウニョウニョして、ゆっくりと剣の形になっていく。アレはニン剣だな…そしてフラフラと立ち上がる。アミューは今度は見ているだけだ。
「ふん!(シャキンッ!)」
「!」
アミューは左腕を振り、そしてグォンドに見せつけるように左腕を一瞬でニン剣に変えた。グォンドの顔が明らかに驚いているといった表情になった。
…もしかしてアミューが体の一部を武器に変える速度って他のダイナロイドと比べてかなり早いのだろうか。
アミューがニン剣をグォンドに向ける。
グォンドは剣を降ろしたまま俯いてしまった。
自分とアミューの差に気づいてしまったのだろう。戦意喪失してしまったようだ。
「もう…殺せ」
「殺さない」
ほう、アミューさんはグォンドを殺さないおつもりのようだ…あれ?追い1億エルンは?そいつ殺したら1億貰えるんですが…俺もうちょっとお金欲しいなぁ~。
「殺せ」
そうだ!やっちまえ!
「殺さない!」
はい、殺さないんですねわかりました…
「なんで!なんで俺より強い奴らはみんな俺を生かそうとすんだ!意味がわからねぇ!もう死にたいから人間を殺しまくった!暴れまくった!そうすれば俺より強い奴が来てぶっ殺してくれると思った!お前に襲いかかったのもそうだ!お前なら俺を殺してくれると思った!サインってやつを殺そうとすれば!なのになんで殺さないんだよ…」
…荒んでんなグォンドは。マジでどんな育てられ方をしたんだよ。ちょっと可哀想じゃねぇか。でも自分が死ぬために俺を殺そうとするのはやめてくれないか?
ってか今『奴ら』って言ったな。アミューの他にもグォンドをボコったやつがいるのか。そいつもバケモンだぜ…
「他のお前を殺さなかった奴は知らないけど、私はお前が可哀想だと思ったから殺さない。お前はこの世界の本当の楽しさを知らない。サイン、アレちょうだい」
ア!アレ?アレって何!
いや考えるな!勘だ!5秒で行動しろ!
アミューに幻滅されないように!
アミュー=楽しい=食事…飯だ!缶詰!
俺は最初からわかってますよフェイスを保ちながらバッグからメロン缶を取り出しアミューに投げ渡す。
「そうこれ」
良かった合ってた…
「それはなんだい?」
興味を持ったらしい煙女が俺の後ろにいつの間にかいた。俺超びっくり…耳元から声が聞こえてきて心臓が止まると思った。
「アミューの大好物、新鮮なメロンの缶詰だ。家でもしょっちゅう食べてるやつだぜ」
俺はメロン缶をもう一つ取り出し煙女に渡してやった。
煙女は興味深そうに缶詰にプリントされた緑の果物のイラストを眺める。
「メロン…確かかなりの高級品ではなかったか?一介のウォーカーが買えるような代物ではないはずだが…」
「俺はその一介のウォーカーじゃねぇんだわ」
本当は正々堂々戦ったら一介のウォーカーよりも弱いけどそこは内緒だ。煙女の疑いの目がチクチク…いやまあねぇ…これは実際買ってないしね?ウキウキ♪フロントラインウォーカー部の缶詰工場で作ったのをドクターから貰ったやつだから…
「さあ!食べる!早く!」
「…」
あっちはあっちで戦いとは別の盛り上がりを見せてる。アミューがグォンドの顔に缶詰を押し当ててるな…
これは…もう戦いが終わったってことでいいのか?




