34.半人半煙
【某研究所 87番】
私はとある研究所で産まれた。生まれつき体が半分煙みたいになっている状態で…
私は異種配合生物というらしく、母親は人間、父親が生物兵器とある程度成長した時に教えられた。が正直どうでもよかった。
私は今生きているということだけで充分だ。人間と違うと言われても別に気にならない。
あとついでに言うなら待遇も悪くなかったし。普通にご飯が出て、後は普通の運動と、外出は許されなかったがそれ以外は自由な時間を過ごしていた。
他にも私と同じような異種配合生物もいたけど、私は他の生き物と遊んだりするのが苦手だったので一人で勉強をしていたら、いつの間にか研究所の人のお手伝いをするようになっていた。
そして私は【毒を吸収し無害化】する体質を持っていたことに気づく。異種配合生物同士のケンカで毒まみれになった32番の皮膚に触った時、私の体の煙の部分に毒が移ったのを見て…
私のこの体質は研究所のたくさんの研究員と色々実験した。もちろん私自身でも色々試した。
そしてこの体質が、卵生生物兵器の卵の中毒成分も無毒化して発散することができることが判明した。
卵生の生物兵器は産まれた時に自身の殻を食べる。卵の殻には戦うための体の使い方と、一般的な常識という様々な情報が含まれているらしい。そして最後には兵器として完成を遂げるために感情の廃棄…これらのプロセスを確実に実行させるために中毒成分含まれている。
実際研究員の一人が卵の殻を食し、脳が頭蓋の中で爆発四散したという記録も残っている。恐らく脳が大量の情報に耐えられなかったことによる事故死だと推測されている。
つまりそのプロセスを途中で妨害できれば完全な兵器になる前に普通の動物として調教できるかもしれないという仮説ができた。
そして後に持ち込まれた最前線で暴れまわってると言われる生物兵器ダイナロイドの卵が複数…
私は毒抜きを自ら率先して行ってみることにした。
しかしこの中毒成分の吸収の際、私は副作用で感情の大半がなくなってしまった。やはり最前線で戦うような生物兵器の卵の殻の中毒成分はそれだけ強力だったのだろうな。
元々薄かった感情の波が更になくなった私は、何もかもがどうでもよくなっていた。
研究所で産まれたダイナロイドが研究員によって色々実験されたり、ダイナロイドが研究所の兵士にまるで危険物のように扱われたり…実際危険物ではあるか。そして…
「なんで私だけ殺さない」
「お前はまだ生きてて貰わないと困るからだ。俺と同種の奴が人間ごときに降ってんだろ?そいつのとこに案内しろ」
研究所が、研究員が、他の異種配合生物兵器達がこのダイナロイドに皆殺しにされてもどうでもよかった。
そのダイナロイドと人間が住んでいる場所の情報は元々持っていたので案内できる。しかしその道中で…
「お?こんなところにダイナロイド…オスか。アミューじゃねぇな。誰だテメェ」
《ヘビィ》というウォーカーが私達の前に現れた。
ヘビィ…巨大で反動が強力な武器、巨大でいかついパワーアーマーが好きで、破壊力はあの人類最強の剣豪を超えると言われる化け物のような強さの人間だ。ダイナロイドはアイツをぶっ殺す気満々らしい。殺意が滲み出ている。
「《ヘカトン》下がってろ。アレは弟子のお前がまだ相手にしていいやつじゃねぇ。ケンカを売る相手を間違えるやつぁ痛い目にあってもらうぜ」
「はい!」
ヘビィに弟子ができたというのは知らなかったな…
結局ダイナロイドはヘビィを殺せなかった。そして彼の言う通り痛い目に遭わされた。ボコボコに殴られ地面に倒れたダイナロイド《グォンド》を見て、何故か胸がキュッっとなった。私にはもう感情がないはずなのに…
「ふぅ、ダイナロイドといえども群れなきゃこの程度か。サインのとこのアミューがヤバ強かったから期待してたんだかな」
「…」
「おい、そこのお前。そのダイナロイドが大事ならどっかに隠しとけよ?調べたらそいつ1億エルンの賞金兵器になってるぜ?」
「…」
「俺は賞金に興味なんぞねぇから見逃してやるけどなぁ。じゃあ帰るぞヘカトン!帰ったら俺と一緒に筋トレだ!」
「わかりました!あとカッコよかったっす!俺もヘビィみたく強い漢になりたい!」
隠す…か…
私はグォンドを引きずってランド平原に向かうことにした。今は乱戦期だから入っても大丈夫だろう。人間の領域に残ればバウンティハンターに狙われ続け、トラブルだらけのめんどくさい生活になりそうだし。
サインの家に向かうのはダメだ。研究員と兵士がダイナロイドの手懐け方を聞きに行ったが誰一人として帰ってこなかった。
今の…ボロボロのグォンドをそこに連れて行っても…
目を覚ましたグォンドは荒れに荒れた。地面を蹴飛ばし…殴りつけ…尻尾を叩きつけ…地面に頭突きをし…叫び…
私はそれを眺めながら保存食を食べていた。しかしこうまで荒れても私には手を出さないんだな。
とりあえずグォンドには…
「この先に彼女が産まれた場所がある。いずれ彼らはそこに現れるだろう」
と確証のないことを、あたかも絶対にそうなることのように伝えた…あのキュッとする気持ちにはもうなりたくない。もういっそのことずっと…
道中の兵器をグォンドが蹴散らしながらランド平原の奥に進む。
そして数日後、私達は彼女の…最初の卵を置いていた洞窟に到着した。
私は武器もパワーアーマーもないのでそこで静かに過ごした。食べ物と水はグォンドが持ってきてくれた。
時々人間の血が付着した保存食もあったな。
そして1週間後…ついに…
「来たぞ…」
「そうか…」
グォンドが透明化したまま、私につぶやく。そうか…本当に来てしまったか。私も壁越しにその男を発見することができた。私の煙になってる部分の目は壁の先も見ることができる。
そこにはあのサインがいた。ダイナロイドは見当たらなかった。恐らくグォンドと同じように透明化してるのだろう。
…ずっと聞きたいことがあった。あのサインについていったダイナロイドは暴れたという噂は一切なかった。ミートゾーンで大量のワームと戦った時には他の人間も守っていたという。
どうしたら…この気性の荒い生物兵器をそんな心優しい生き物に変えることができたのか…これを聞きたい。
「どうやってあのダイナロイドを手懐けた」
サインに問う。そしてサインは答えてくれた。
ただの友達として…違うな。家族として彼女を受け入れたのだろう。そして彼女はサインに心を許したのだ。
よく思い返してみても、研究所の…研究員や兵士の態度はまるで危険物を扱うかのようにグォンドに接していた。みんなその強力な力に恐怖していた。
少しでもそこに優しさがあれば変わっていたのかもしれないな。まあ感情を無くしてしまった私には無理な話だ。
横で地面を蹴る音が聞こえる。
グォンドが襲いかかったに違いない。
バキッ!ドゴォン!!
サインの後ろの壁に大きなヒビが入った。しかし殴られたのはグォンドだった。透明化が解けてその姿が見える…
また私の心臓がキュッとなった。




