32.アミューとの出会いの地 ランド平原へ
【サイン視点】
兄妹達がヤミイチに連れられ、そして次の日トラッパーが帰って静かになった隠れ家で俺とアミューは前線に行く準備をしていた。
だらけ過ぎて訛りきった体を少しでも動かして関節のサビ抜きを…今回はだらけ過ぎた。
食べ物が家に山のようにあるから外出の必要もなく好き勝手しすぎたなぁ。
数日後、とりあえず軽く動く分には問題がないくらいにはなったので今日早速出かける。
「ねぇ、サイン。サインって私と会う前は一人で前線に行ってたんだよね。」
「ん?ああ、そうだぞ」
「サインが一人で前線に行くとこ見てみたいな」
「いいけど、アミューにとって退屈にならないか?俺は基本戦わねぇぞ?やるときは不意打ちだ」
「そんなの知ってるよ?でも見てみたい」
つまりアミューがいないつもりで前線を探索すれば良いってことか。アミューが見たいなら俺もそのつもりでやってみるか。
というわけでアミューがいないつもりで荷物を組む…あでもいないつもりでも、アミューの飯用スペースは必要か。
いつもの基本的なセットを入れ武器は…
スカベンジズのハイエンドライフル2丁とヤミイチ製ショットガン1丁。ニン剣を4本でいいか。後は隠れる用の煙玉もたくさん。
予備マガジンも多めだ。賞金兵器が跋扈してるらしい外、今回は重さを度外視して武器を持っていく。
車にも予備を乗せて…
「良し!行くか!」
「うん!」
俺とアミューは車に乗り込み、そして発進させ外に出た。今回の目的地はアミューと出会った場所…《ランド平原》だ。
ランド平原付近に車を隠し罠を仕掛け、俺は一人のつもりで前線に突入する。アミューは俺の邪魔にならないようにどこかで透明になっているのだろう。位置はわからん。
ランド平原は生物兵器と機械兵器が戦っている中心地になることが多い場所。地面は穴だらけ、兵器が掘り抜いた洞窟も多い。
なので隠れる場所も多く、最前線に近いところにもわりかし安全に行ける。さらに兵器同士のぶつかり合いが激しいため、希少武器や部品を拾いやすい場所でもある。
デメリットは…
「兵器同士のぶつかり合いに巻き込まれやすいってところだなぁ」
ランド平原に入って数十分、俺は既にピンチだった。
岩陰に身を潜めてる俺の後ろでは高さ3メートルもある機械兵器が同じくらいデカい…両腕が異様に長く太く…ついでに体も太い二足歩行の生物兵器によって引きちぎられている。すげぇ筋肉だ…
「ギチギチギチギチ」
「Bee!Bee!」
引きちぎられた機械兵器は無残に床に散った。
…俺、あいつにバレてねぇよな?
バレてるな。足音がこっちに向かってきてるわ…
しかし引きちぎられた機械兵器の最後のあがきか。俺の頭上をレーザーが走る。
ぐちゃ…
太い胴と腕を切り離された生物兵器は地面をもがくだけのものとなった。乱雑に振り回される残った腕と、倒れた機械兵器の挙動に注意しつつキモマッチョ生物兵器の頭をニン剣で突きトドメを刺す。
ふぅ、早速お願いお姉ちゃん先生になってしまうところだったぜ。
俺は引きちぎられた機械兵器に近寄り使えそうなプレートを剥ぎ取る。パワーアーマーの材料になるんだよな。
これは帰りにカゴに入れて運ぶので岩陰に隠しておこう。今拾うには重すぎるからだ。もし無くなってたらその時は諦める。
最後のあがきで撃っていたレーザー兵器は残念ながらエネルギー切れになっていたので放置だ。
俺は周囲を警戒しながら前に進むとお次は…
ドゴォン…グチャ…ブォン…グチャ…
金属でできた拳をブースターを使って超加速させ叩きつける機械兵器が暴れていた。
相対しているのは【オクトパス】と呼ばれる生物兵器で、大きさが2mくらい。たくさんの触手で相手を絡め取り、触手から出る溶液で溶かしてしまうおっかないやつだ。それが群れで機械兵器1体を襲っていた。
オクトパスがものすごい勢いで殴られ、まるで弾丸のような速度であちこちに飛び散っている。
巻き込まれたらもれなく俺が『ぐちゃぁ…』だな。
俺は飛び散ったオクトパスの胴体の皮を剥ぎ取り体に巻き付ける。オクトパス自身の皮は溶液に耐性があるのだ。
後は溶液まみれのオクトパスの残骸に擬態しながら先に進み拳機械兵器をやり過ごしエリアを通り抜けた。
このポイントは隠れる場所が少ないからしょうがなくこの方法でやるんだ…皮の内側に付いていたオクトパスの血が体に付着して気持ち悪い。
なんなんだ今日は…新種や新兵器祭りじゃないか。来るの早まったか?
とりあえず太い腕の生物兵器は【ギガント】、拳機械兵器は【ナックラー】と呼ぶことにしよう。
わかりやすさ重視だ。
ナックラーの先は道が細くなっていった。この先に兵器はいなさそうだが…人がいるな。泣いてるっぽい。
先に進むと少しだけ、人が数人座れるくらいの空間でこちらに涙目でボロボロの銃を向けてる男がいた。そいつは俺が人間だと気づくと銃を降ろし、ホッとしていた。
「よ、か…助け…」
喉がカラカラになってるのか声はスカスカだ。
無視して進むか。
「まへ…まへよ…助けて…」
「何をしにこの前線にお前が来たのかは知らんが、前線探索は全部自己責任だ。俺を巻き込むな」
今回はあの兄妹のように助けるつもりもない。俺も本気で稼がなきゃならん。日帰りで済ますためにも他のやつに関わってる余裕などない。
「わかっ…自己せ…金…1千万エル…はら…」
「…それは救助依頼か?」
男が頷く、そして情報端末を取り出し自分の口座画面を俺に見せた。こいつ…20億エルンも貯金がある。報酬1千万エルン、支払い能力があるのは間違いない。
そしてここで俺に自分の貯金を全て見せるのはきっとこいつなりに誠意を見せてるのだろう。それか俺の気を引くためか…
俺が情報端末を奪うような悪いやつだったらどうすんだ。鍵屋に渡したら普通に引き出せるぞそれ。
まあ、アミューも見てるしダサいマネはしないでおこう。それにこの額の依頼料なら普通に受けない選択肢もない。
飲み物…ただの水を渡して少し話を聞いてやるか。
「ほら、これ飲めよ。そのままじゃまともに喋れんだ(バシッ)…毒入りかもとか疑えよ」
我慢できなかったのか、男は俺からひったくるように水筒を奪いガブ飲みしている。よく見ると砂ぼこりに塗れて汚らしいがイケメンの若い男だな。
「生き返る…ってこういうことを言うんだな…水全部飲んじまった…すまねぇ」
「気にすんなまだある。もっと飲んでもいい。が依頼の内容を先に詰めよう。お互い納得できる条件が決まるかわからんからな」
「ああ…」
男が緊張した面持ちになる。
「まず俺から2つ案を提案する。気に入ったのがあればそれで。1つは俺についてくることだ。俺はまだ先に進まなきゃいけない。だから俺に付いてくるとなれば死ぬリスクがかなり高い。そして俺はお前を助ける実力もない。トラブルがあった場合は自己対処してくれ。この案は前金で500、成功報酬で500払ってくれればいい」
「…」
「そしてもう1つは俺から物資を買って一人で帰る案だ。俺も物資は限られてるから何でもかんでも売るとはいかないがな。だが俺の装備や物資はどれもそれなりの値段のもんだ。それを前線価格の倍で売りつけるつもりだから金はかなり消費するぞ?その貯金なら買っても大丈夫だろうが」
俺が案を言い終えると男は少し考え、笑った。
「…あんた優しいな。どっちの案も健全だ。正直俺の貯金を見てもっとボッてくると思ってたぞ」
「カッコつけだよ。恥ずかしい人間だと思われたくないからな」
「誰にカッコつけてんだよ…2つ目の案にさせてもらうわ。武器と食いもん、医療品を買わせてくれ」
「わかった。俺から売り出せるもんはこんくらいだ」
俺はバッグの中身を出した、武器、食べ物、水、医療品…言った通りどれも最高品質だ。俺だって億の貯金…あったんだよ。全部使っちまったけどな。
「おいおい、本当に全部高級品じゃねぇかよ。食べ物すらも数百万のしろもんじゃねぇか…」
男はやはり金持ち故か、目利きが鋭いようで俺の物資の価値を正確に見抜いているようだ。
「全部買いだ…と言いたいところだけど、流石に厳しいな。やっぱり前線に行くにはこれくらい必要なのか…」
「普段の物資はこれの半分くらいだ。たまたま今日はどんな状況にも対応できるように色々持ってきてるだけだな」
「なるほど。じゃあこのアサルトライフルと弾とマガジン、他の食べ物とかの物資は今出てる分の半分…いや、飲み物は少し多めで頼む」
「いいぞ。値段は…ちょっと待てよ」
俺は情報端末の電卓機能を起動して計算する…
正直値段がよくわからんのもあるから正確な数字じゃないが、
とりあえず一億くらいの結果になった。
「値段は端数を割り引いて1億エルンにしてやる」
「ああ、その値段で俺も文句はない。取り引き成立だ」
俺の口座の情報を渡したら即入金してくれた。売れ残りはバッグに戻す。
「ああ…これなら生きて帰れそうだ」
「幸運を祈るぜ。その金使い切れずに死んだら後悔しか残らねぇだろ」
「ホントそれな」
「あっ、その銃にマガジン付けるのは後にしてくれよ?俺が見えなくなってからだ」
「それは当然の警戒だ。俺としては命の恩人に仇を返すつもりは一切ないが…俺の名前はレンだ」
「俺はサインだ」
「サイン、俺はこの恩は忘れない。生きて帰れたらお礼をさせてくれ」
「お礼か…貴重な前線武器があったら欲しいな」
「OK、楽しみにしてくれよ…未来の話ができるのは良いことだな。生き残る気しかしねぇぜ」
「フラグになりそうなこと言うなよ…じゃあな」
「ああ、俺はもう少し休んでから移動するよ」
俺はレンと別れまた移動を再開する。レンとの接触は少しリスキーだったが、いきなり金がドンと増えてウハウハだ。
ぶっちゃけこれだけで今回の探索は大黒字。俺の趣味の武器拾いにカゴの空きスペースが使い放題だやったぜ!…結局アミューの腹に収まっちまうんだが。
表情は変えず、しかし気分はウキウキルンルンな足取りで歩いたせいか少し躓いてしまった…危ない危ない。
【レン視点】
…はぁ、とんだ厄日だったぜ。
他の仲間はでけぇ生物兵器に千切られ死んだ。
物資を積んであった小型装甲車は機械兵器に殴られ爆散した。
武器は触手の溶液で溶かされドロドロになった。
ただ、一つ幸運だったのは生き残った俺の前に割とマトモな方の外の人間が現れたことだ。
そいつの実力は歩き方を見るに明らかに俺以下だが、俺以上の質の武器とパワーアーマーを装備していた。恐らくそれであのオクトパスの群れを切り抜けたのだろう。体に付着しまくったオクトパスの血が戦いの激しさを物語っていた。
「俺も…俺達もいい装備を付けとくべきだったな。1億エルンの賞金兵器を狩りに来たのに1億以上の出費をしてどうするとか言ってケチったのが敗因か…そして俺は結局1億以上の損をしたと…はぁ…」
気分が落ち込む…さっきの取り引きはこの場では圧倒的好条件だったので文句はないんだが、この状況に陥った自分の無能さに泣けてくる。
俺は買った高級保存食を開け食べる…美味いのは当然だな。しかしこの高級品は無臭なのが良い。生物兵器に察知されにくいように配慮されている。
ガワだけ偽装し中身だけを入れ替えるパチモンでもなかったか。ここまで裏表のねぇ取り引きは久しぶりだったぜサイン。
しかしサインは大丈夫なのだろうか。
サインの後ろにはピッタリとくっつくような距離で透明な何かがいた…
最初はサインの仲間がステルス迷彩で隠れているのかと思っていた。しかしサインの、後ろに全く配慮のない動作を見て確信した。
サインは後ろのソレに気づいていないと。
指摘しようかとも思ったが、俺が何か指摘した瞬間に死ぬかもしれないと思い直して言わなかった…
そいつはサインが移動を始めると、サインにまたくっつくように移動していく。視線はもちろん俺に向けてだ。
ジーッと…まとわりつくような視線が向けられ続けて落ち着かなかった…
「見方を変えればアレはサインを守ってるようにも見えたし…大丈夫だろう…きっと…うん…それよりも…」
……高級保存食…もう一つ開けようかな。これが最後の晩餐になるかもしれないし…いや、やっぱいくら高級品でも保存食が最後の晩餐は嫌だな。さて、頑張って帰るとしましょうかね!




