31.世に知れ渡り始める奴ら
【とある戦いの敗残兵】
リベンジャーに貰った資金で自分の装備を一新した。隠れ家も新しく良さそうな場所を見つけ、そこで数か月の間ほとぼりが冷めるのを静かに待っていた。
俺は組織の金を持ち逃げしてるも同然だからな。組織がリベンジャーに金を払いその金を俺が受け取るという、まるでマネーロンダリングのような形で。それを知ってる人間はあの場にいた3人だけだろうけど、外を歩く上で警戒するに越したことはない。
他にも俺が生きてると知った時点で襲いかかってくる奴もいるかもしれない。もちろん返り討ちにしてやるつもりだがそんなリスクはない方がいい。
俺は顔を仮面で隠し車を発進させ、とある外の市場に来た。ここはヤバいもんやゴミも売ってるが、ある程度の目利きと戦闘の実力があれば問題なく買い物できる場所だ。それに顔を隠している人間は多いので、仮面の俺が特別目立つことはない。
今回の目的はなじみの情報屋のところに行くことだから、買い物は帰りにちょろっとだな。
「やべぇ女の子もいたもんだ」
「見た目3歳くらいだったのに半端ねぇよな」
「ああ、あの餌食になったバカには感謝だぜ。おかげで地雷を回避できたわ」
「地雷回避か間違いねぇ。ありゃあ特大の地雷だわ」
通りすがりの男どもの会話が聞こえてきた。あっちに行くのはやめておこう。目的地まで遠回りになるが、余分なトラブルが起こるかもしれない。敵対はもうしないだろうけど目立ちたくないんだよ…
俺はしばらく歩き、そして果物を売ってる店に近寄り店番をやってるやつにコインを渡す。
「できる限りフレッシュな果物を頼むわ」
「はいよ」
そいつから果物を受け取りほどほどに歩いたところで座る。果物は真ん丸の、皮が紫のどう見ても毒です感あるものだが食えなくはない。
皮を剥くと先ほど渡したコインと、1枚の紙が出てきた。紙には座標が書いてある。その座標的に今日は市場の中に情報屋がいるようだ。
俺は次に、その座標にある武器屋に入った。
そしてコインと紙をレジにいる店員に渡す。
「この武器を頼むわ」
「あー…特注品ですね。少し後ろの方でお話を聞いても」
「もちろん」
俺は店員に案内され、店舗のバックヤードに通された。店員は倉庫のような部屋の奥にある、小さい鉄製コンテナのドアを開き……。
「こちらへ」
俺は堂々とそこに入った。中には小さなテーブルがあり、机の上にはすでに飲み物がコップに注がれた状態でおいてある。
そして対面には、見知った顔がいた。俺が昔からよく頼ってきた情報屋だ。過酷な外の世界で、久しぶりに知ってるやつに会えて、少しだけ涙が出てきそうになった。
俺はコインを机に置き、用意されていた椅子に座った。
「久しぶりだな」
「おいおいコイツは…生きていたのかよお前」
「そうだよ。……組織の生き残りは、やっぱり俺だけか?」
「…ああ。残念ながら、あんたらの組織で他に生き残りがいるって情報はどこにもねぇな。ってかお前も死んでるカウントに入ってたわ…おい!毒の飲み物は下げろ。普通の飲みモン持ってこい…いや!酒だ!良い酒持ってこい!隠語とかじゃねぇからな?マジで良い酒持ってこい」
「へい」
後ろにいた護衛の奴が離れた。そして少し待つと良い酒とやらを持ってきた。これは…
「ちまたで話題のワインか」
「おうよ、シェルター産の新鮮な果物のな。美味いぞ?」
このワインは大丈夫だろう。開けた痕跡もない完全未開封のボトルだ。コップは自前のやつを使わせてもらい、情報屋と視線を合わせる。
「生きてることに乾杯」
「生き残れたことに乾杯」
チンッ!
コップを鳴らした。そして味わうように飲む…本当に美味いなこれ。すごい高いんじゃないか?
「さて、じゃあここからは商売のお時間だな。お前がどうして生き残っていたのか。これは金になる情報か?」
そう、商売のお時間だ。情報屋と久しぶりにあって気楽に雑談…ってわけにもいかない。ここでの雑談は物の売り買いに等しい。親しい仲でも、そこだけはきっちりしないと関係が拗れる。
「ああ、流石にこの質のワイン代になるかは怪しいがな」
「気にすんなよ。これはマジのサービス、再会祝いだ。俺個人としては、お前が生きててくれただけで嬉しいからな」
「ハハッ、じゃあその生き残った経緯から話していくか」
俺は全てを話した。
俺達の組織の金を積んだ車が、あの子供達にパクられたこと。
パクった奴らから金を取り返すために、リベンジャーを雇って襲撃したこと。
その襲撃の最中に、あの災害を起こした、ワーム共が再び地中から沸いてきて、仲間が俺以外全員喰われたこと。
そしてリベンジャーと子供達はグル…じゃないな。そいつらは仲間で、裏では組織の本拠地も襲撃され、気がついた時には完全に詰んでいたこと。
しかもこれは狙って起こされた事象ではなく、本当にたまたま偶然の重なった出来事だったということ…これに関しては向こう側の言い分だが嘘はないと思っている。俺に嘘をつく理由もねぇしな。
で、見逃してもらい、今俺はこうして生きている。
「まあ、そんな感じだ」
「おお…運が悪いにも程があるぜ。ご愁傷さまってやつだな。子供ってアレか?もしかして今市場で話題になってるガキ共か?」
「俺は直に見てねぇからなんとも言えないが、特徴からして恐らくな。3歳くらいの幼女と、10歳くらいの少年だ」
「…間違いないだろうな。あの孤高の商人『ヤミイチ』が連れていたとかいうやべぇガキのことで、裏じゃホットな話題になってんだよ」
「ヤミイチ?なんでヤミイチがあいつらを…ってことはヤミイチもリベンジャーの仲間だったってことか!」
俺は驚愕する。孤高の商人ヤミイチは有名だ。一人で商品を補充し、一人で売り捌き、そして一人で戦う。この厳しい外の世界で一人で行商人をしてるのはアイツくらいだろう。
誰とも組まずに良くやるなと思っていたが…
「ヤミイチにも、裏にはご立派な仲間がいたってことか…」
「リベンジャーとヤミイチが裏で同じ組織として組んでるっていうのは、すげぇ特上の情報だぜ……。でお前は、今日俺になんの情報を求める? 組織を襲った奴らの情報か?」
…襲った奴の情報は気になるが、そもそもやり返すつもりはさらっさらないので聞かなくてもいい。それよりも…
「『姉御』って人物について聞きたい」
「姉御……どの姉御だ? 外じゃ姉御って呼ばれるやつはごまんといるだろ。人を絞るために、もっと情報を寄越せ」
「すげぇちっちゃい女の子だ…身長は50cmくらいで白くて短い髪、青いマフラーを付けてたな…」
「おい待て!ストップだ」
「どうした?」
情報屋が顔色を変えて、俺にこれ以上喋るなと手で制した。…やはりアレは、リベンジャーを従えていたアレは…俺の予想だと…
「姉御って呼ばれ方は俺は知らねぇが、その特徴は……恐らく【魔女】だ。あんまり一般人が関わるもんじゃねぇよ」
「やっぱりアレが魔女か…おとぎ話の世界の人物かと思ってたがやはりアイツが…」
「おとぎ話じゃねぇよ。魔女のやべぇ噂は大体事実だ」
魔女の噂……。
曰く、人類が今も辛うじて生き残っているのは魔女のおかげである。
曰く、魔女は世界の全てを知る、神のような人物である。
曰く、一人で万を超える機械兵器や生物兵器を容易く破壊する化け物である。
曰く、気分が悪いと人間を惨殺し、愉悦に浸る悪魔である。
曰く、死んだ人間を生き返らせることができる、死の否定者である。
曰く……魔女は数百年以上の時を生きている……。
「お前、魔女にも…会ってたんだな…本当に良く生きてたよ」
「ああ、すげぇぞ。指をパチンと振るっただけで、大破して壊れた車を完全に直しやがった」
「だからストップって言ってんのによぉ…とりあえず魔女に関してはこれ以上ダメだ。危なすぎて取引の情報として扱えねぇ……なぁ、他にないのか? 欲しい情報。このままだと情報の価値のバランス的に、俺はお前に結構な額の差額を払わなきゃいけなくなるんだが……」
「じゃあ、俺達の組織の本拠地が、あの日どんな風に落とされたかだけ教えてもらえるか?」
「わかった。できる限り詳しく話してやろう」
まず犯人……というか襲撃者は、あの【ピエロ】だ。これは俺も知っていた。
ピエロも有名な人物だ。どこぞのグループにこっそりと入り込み、内部からめちゃくちゃにして壊滅させてしまう。病原菌みたいなやつだ。
しかし、こいつに賞金をかける奴はいない。賞金をかけたら目をつけられてピエロの次のターゲットにされるリスクがあるからだ。
「俺んとこの調査員によると、生身の手足を義手や義足にすり替えられてたと思われる死体、心臓が飛び出た状態でショック死させられた。そんな死体が多かったそうだ。おめぇさんの手足は…見たとこ大丈夫そうだな」
「おいおい、手足をすり替えるって…ありえねぇだろ」
「ピエロの奴が本人がどこぞで自慢げに語ったらしい話によるとな? 寝てる人間に、最高級の鎮痛薬とあの『紫の回復薬』を併用して使って、痛みなく超スピードで切断することによって、気づかないうちにすり替えるらしいぜ……」
「ずいぶんと金のかかる方法だな…」
紫の回復薬……これを一本買う値段は、一般的な前線を歩くウォーカー1人分の装備一式と同じくらいの超高額だ。それをこんなお遊びみたいな残虐行為の使い方をするとは、やはり噂通りの異常人物というわけか。
「で、心臓が飛び出た原因はコイツだ」
情報屋がテーブルに、一本の回復薬(黄)のボトルを置いた。これは紫を薄めると精製できる回復薬で、割と手に入りやすく、効果も高いコスパがとても良い医療品だ。
俺たちの組織の倉庫にも、山ほど備蓄があった。
「コイツの中身をピエロが細工したのさ。この回復薬は、打った人間の遺伝子データを強制的に書き換えて、『その異形な状態を正常』として体を修復する遺伝子ドラッグに変えられていたんだ」
「つまり……心臓が体外に飛び出たバグ状態を、肉体が『正常』だと認識して、その形で体を固定されるってことか。性格が最悪すぎるだろ……」
「その肉体的弊害として、この薬を使ったやつは脳の神経が狂う。自分の手で自傷行為を繰り返して、数十分後にショック死ってわけだ」
「……お前、それを試したのか?」
「ああ、先週、借金を踏み倒して逃げようとした奴に使ってみた」
…ピエロの襲撃実行日に本拠地にいなくて良かった。そう考えるとあの日は運が最悪に近かった日だったが、こうして五体満足で生き残ったのは最高に運が良かったと思える。
「ま、こんなとこだ。しかしこれでもおめぇさんの情報には釣り合わねぇから、差額の金と、この最高級ワインももう一本付けてやるよ」
「ああ、それでいい。ありがとな」
俺は500万エルンのチップと、未開封のもう一つのワインを受け取り、ケースに入れてバックパックに詰め込んだ。
「また生きてたら来る」
「おう、待ってるぜ」
俺は情報屋のとこを出た。姉御…いや、魔女個人の情報はほとんど得られなかったが、知ってる奴と話せて心が軽くなった。
そして、情報屋との話を経て、俺の欲しかった情報の推測ができた。彼ら…魔女の仲間に加わる方法だ。あのやべぇガキ共も、ヤミイチも、リベンジャーも、ピエロも。そいつらは共通して、圧倒的に強い。――つまり、俺もこれから死ぬほど強くなれば。
「奴らの一員になれる」
あの有名人達と肩を並べられる。そんな未来を想像すると胸が高鳴る。ふふふ…いいねぇ…隠れ家に籠もってた数カ月は暇だったからみっちり鍛えた。それと今の新調した装備の俺なら、一人で前線の深部にも行けるだろう。
やってやろうじゃねぇか。




