29.無責任な大人共
【ウィルン視点】
「いってぇーーーーーー!」
VRのゲーム画面が真っ暗になり、僕は激痛と共に現実に戻された。頭がズキズキする…こんなにリアルに死を再現しなくてもいいじゃん…
機械を取り外すとヤミイチさんがこちらに歩み寄ってきていた。
「あららぁ〜、死んじゃいましたかぁ」
「なんでゲームなのに痛みなんてあるんですか…トラウマ物ですよこれ」
「痛みって感覚は実は大事なんですよぉ。でもそんなに痛がるとは思ってもいませんでしたぁ」
「まだ頭が痛いですよ…」
「んー?おかしいですねぇ。ゲーム内の痛みを現実まで引きずることはないはずなんですがぁ」
ヤミイチさんが首を傾げている。僕の今の状態が不可解なようだ。
「ちなみにどんな死に方をしたか教えてもらってもぉ?」
「いいですよ」
僕はゲーム内の自分の最後をヤミイチさんに伝えた。赤い光が見え、体が動かなくなり飛んできた青い弾丸で頭を撃ち抜かれたことを。
「死因は機械兵器スコープマンの狙撃ですねぇ。初見殺しの定番機械兵器ですぅ。次からは赤い光が見えたらとにかく横に飛ぶことをオススメしますよぉ」
「はぁ…しかも死ぬ瞬間凄い時間がゆっくりだったんです…額にゆっくりと弾丸がめり込む感覚地獄でしたよ?」
「…そんな機能はありませんねぇ?」
「えっ?」
何?ゲームの機能じゃないの?じゃあ何アレ…
少し考えているとヤミイチさんがなるほどと言う感じで手を叩いた。
「ああ、ウィルン君。〚時間の圧縮〛ができるようになったんじゃないですかぁ?」
「…」
「弾丸が目で追えるレベルとはとてつもないですねぇ。その分脳に負荷がかかってしまって痛むのでしょう。少し休むといいですよぉ」
「…時間の圧縮っていうんですねこれ」
「そうですよぉ。強い人達の中では当たり前に使われる技術ですねぇ」
そうか…時間の圧縮…ようやく一本進んだ!長かった!本当に長かった…いや本当に何もない期間が長すぎて少し諦めかけてたんだよな…良かった。
「…ふへ♪」
唐突にルナが笑みを零した。ヤミイチさんも気になったのかルナの目に装着されたVRゲーム機をイジっている。
「……ルナちゃん、起きてくださいぃ。ゲームは終わりですよぉ。ゆっくりと画面が消えていきますから落ち着いてくださいねぇ〜」
ヤミイチが優しくルナをゆすり現実に戻す。ルナは装置を自分で持ち上げ外した。
「ふぅー!楽しかった!またこれで遊びたいっ!」
「いいですよぉ。でもちょっと待ってくださいねぇ。サインさんにお話があるのでぇ…」
ヤミイチさんがフラフラと、銃イジりに熱中してるサインに向かって歩いていった。
僕は少し気になってヤミイチさんが触っていたルナのVRゲームを手に取り見てみる。
画面はルナのセーブデータを映していた。
そしてヤミイチさんが、『サインと話がある』といった理由を察した。
《生物兵器殺傷数:5》
《機械兵器破壊数:7》
《人間殺傷数:84》
《賞金首【ルナ】 討伐賞金1000万エルン》
…正直やるとは思っていたけどやったなぁ。
【サイン視点】
ヤミイチに話があると言われたが却下した。俺はヤミイチの銃を弄るので忙しいんだ!ってかお前こんな面白い銃作ったんならアサルトライフルも持ってこいよバカ!
って言ったらお前のがバカだと言われた。
全く、なんの話なんだよ…
「あのぉ…ルナちゃんこのまま成長したら人間殺戮マシンになりますがぁ?」
「知ってるが?あんなに将来がおっかない女の子いないよなぁ」
何当たり前のことを言ってんだ。ルナはもうお姉ちゃん先生の手によって立派な生物兵器として改造されてしまったのだ。
俺は正直あの最強賞金兵器、ベルゼルガをも超えると思ってるね。
ヤミイチが俺の肩を掴み、あのお姉ちゃん先生作ハウンドドッグをフードから逃げようとした時と同じような顔をして言う。
「知ってるが?じゃないですよサイン!少しはどうにかする努力をしてくださいよ!」
必死過ぎて俺のこと呼び捨てで語尾も伸びなくなってる。そんなにヤバいのか。でもなぁ。
「俺は人に物教えるとかできねぇからなぁ…ああ一個だけ教えたな。前にチンピラ共の死骸から効率良く良い物資を集める方法を…」
「むしろサインが原因じゃないですか!なんてことしてんですか!外の人間よりも倫理ぶっ壊れてますけどあの子!」
「まあまあ落ち着けって」
きっとウィルン少年がブレーキ役となってなんとかしてくれるさ。つまり無問題さ。
そんな感じの説明をしたらヤミイチに頬を引っ張られた。痛い。
「はぁ…ここ最近人間が死にすぎて本当にマズイんですよぉサインさん。このままだとシャレじゃなく本当に絶滅の危機なんですぅ。そんな中で新しい問題を作るのはやめてくださいぃ〜…」
「…俺もそれは思ってたな…じゃあ…うーん…ヤミイチがルナに色々教えるとかどうだ?」
「全くこの人は、解決策も他力本願じゃないですかぁ。でもそうですねぇ…うん、私が少し2人を預かりますよぉ」
「お?いいのか?」
「そろそろサインさん達も前線に行くでしょぉ?その間に兄妹を置いていくわけにも行かないですからねぇ。億単位の買い物をしてくださいましたしサービスの範疇ですよぉ」
半分冗談で言ってみたけど、本当に預かってくれるんだな。でも助かるわ。さすがに兄妹連れて前線は危なすぎると思ってたんだよ。
問題はアミューだ…アミューは兄妹のことが気に入ってたし、少し別れることをゴネるかもしれない。
気が重いなぁ「ヤミイチなら安心だね!ウィルンとルナをお願いするよ!」
わぁ!びっくりした!アミューは俺のすぐ後ろにいて話を聞いていた。
「では、お預かりしますねぇアミューさん」
ヤミイチはアミューがいた事に気づいていたようだ。なら俺も気づいる風を装わなければならない。
「アミュー、兄妹に新しい情報端末を渡してやれ。俺達の連絡先もちゃんと入れといてやれよ?」
「わかった!」
意外とすんなり受け入れるんだなぁ…でもよく考えると今のご時世遠く離れていても話はできるし、ヤミイチなら会おうと思えばすぐに会えるからいいのか。
そしてなんかトラッパーもいつの間にか俺の横にいる。
「サイン、この俺好みにカスタムしたベスト・オブ・ショットガンくれよ。ついでにヤミイチ、ウチのエリザも頼む。ヤミイチのとこで物の価値について教えてやってほしいんだわ」
「いいぞ、変わりに俺んちの罠のメンテ頼むわ」
「お安い御用だ!」
「…もうヤダこの人達ぃ…」
地面に転がったヤミイチを放置して俺とトラッパーは再び武器コンテナに向かって歩み出す…




