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アルティメイト ~最凶な世界でもエンジョイライフ~  作者: ちょばい


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25.変わる外の世界

【サイン視点】


模擬戦は、ヤミイチの連れてきた新しい弟子――ユイの勝利で幕を閉じた。

ルナの放つあの超高速の一閃を、すべて紙一重で避けていた……ような気がする。俺程度の動体視力じゃ、そんな正確には見えねぇもん。とにかく凄かった。以上。


「ルナちゃん凄いですねぇ…3歳って聞いてますけどぉ」

「でしょ?私が育てたんだ!」


アミューが誇らしげに胸を張って、ヤミイチに自分のことのように自慢してらっしゃる。

でもね……俺の気のせいじゃなければ、なんだか最近のルナの思考が、どんどん本物の生物兵器寄りに染まっている気がするんだが?


いや、アミューも元が生物兵器だから当然の帰結なんだろうけれどさ。そのうち遠征から、何かしらの首を笑顔で掴んで隠れ家に帰ってきそうで本当に怖いです。


「ユイさん……。今の一連の防御、一体どうやったんですか?」

「お?少年にはわかっちゃったか。実は私、今の模擬戦でちょっとした『ズル』をしてたんだよね」

「わたちも気づいてた!ン兄ちゃんが覚えようとしてるやつ!」

「へぇー…まさか2人にバレちゃってたとは。えっと名前なんだっけ?」

「ウィルンです!」

「ルナだよ!」


ズルしてたんだ。どんなズルをしてたんだろうね。


「ユイの目線が、最初からルナちゃんの剣の軌道を正確に追い続けてたからねぇ。そりゃバレるさぁ。もっと俯瞰的に見ないとダメだよぉ?」

「はーい、すみません。でもルナちゃんの剣が怖すぎて。オモチャの剣なのに、本当に一瞬だけ首が飛んで死ぬかと思ったよ」

「剣を振るときは殺す気で!ってお姉ちゃん先生に習ったんだ」


ふぅー……。やっぱりルナは、将来的に世界を震撼させる超高額賞金首のルートにまっしぐらだな。

隣を見ると、ウィルンがソワソワと落ち着きなく身体を揺らしている。ユイが戦いの中で実践していた『何か(ズル)』のコツが、相当に気になって仕方がないらしい。ユイもその熱い視線に気づいたようで…


「ウィルン君。人に自分の技を教えるなんていうのはバカのすること。自分で正解を探すしかない」

「…そうですよね」

「でもお得意様の弟子だし、特別に一つだけヒント。――本当に掴みたいなら、一回ガチで死にかけるといいよ」

「…ですよねぇ」


ですよねぇ?なの?

死にかける経験をしないと覚えられねぇってなんだそれ。ウィルンもやっぱりといった感じで項垂れているので何かわかるのだろう…


くそ、完全に子供たちの会話のレベルについていけない。戦闘の話なんて、俺は物陰からの「卑劣な不意打ちのコツ」くらいしか知らないよ……。


「ヤミイチ、そろそろ買い物してもいいか?」

「いいですよぉ。サインさんは戦闘の小難しい理論なんてチンプンカンプンでしょうからねぇ。どうぞどうぞ、ご自由にぃ」


ヤミイチに鼻で笑われた…

くそう、バカにしやがって…


でも実際、わからないものは本当にわからないし、子供たちの高度な戦闘トークに変な知ったかぶりで混ざって、後から大人の恥をかきたくはないので、さっさとトラックの物資を買い物しよっと。


……あれ? カタログ画面を見ていて、ある違和感に気づいた。


「なあヤミイチ、ガードル製の銃は?一個もねぇじゃん」


ガードル製の銃は、威力こそ底辺レベルで弱いけれど、泥にまみれても絶対にジャムらないほど頑丈で、何より圧倒的に値段が安いという素晴らしいメリットがあった。俺の近場の安全圏探索の、最高のお供だ。もちろんヤミイチも俺が使ってるのを知ってるので持ってきてると思っていたが…


「ガードル製の銃は置いてきましたよぉ。サインさん知らないんですかぁ?最近ヤバめの生物兵器や機械兵器が『人間』をハントするために前線から降りてくるようになったんですよぉ。そんなやつ相手にガードル製の武器なんて無いも同然ですからねぇ」

「……マジか、知らなかった。今、外の世界はそんなヤバいことになってるのか」

「家でアミューさんとだらけ過ぎですねぇ? 姉御だって、全体通知でかなり厳しめの注意喚起をしてましたよぉ」


そういやなんか姉御から長文のメッセージが届いてた気がする。しばらく外に出ない俺には関係のないものだと思って読み飛ばしていた。


「で、具体的にどんな生物兵器が降りてきてるんだ?」

「自分で調べてくださぁい…賞金兵器のサイトに載ってますよぉ」


俺は手元の情報端末を開き、該当のサイトを覗いてみることにした。

そしたら生物兵器の賞金兵器が本当に…めちゃくちゃ増えていた。


一番目を引いたのはコイツか…


賞金兵器【ディナー】

討伐賞金2500万エルン


でけぇ皿に生きた人間をのせ、自らの両手に持った巨大なナイフとフォークに酷似した骨剣で、その肉や臓物を貪り喰っている最悪の記録動画が一緒に添付されていた。


全長は約3メートル。顔面は熱でドロドロに溶けた皮膚のようになっており、そこに鋭い牙の並んだ巨大な口が斜めに引き裂けて裂けている。歪な腕が六本も生えており、なぜか仏像のようにあぐらをかいた姿勢のまま、不気味に宙を浮遊して移動する、見た目のグロテスクさを極限まで煮詰めたような最悪の生物兵器だ。


やべぇやん。俺その死に方は嫌だなぁ…

戦慄しながら画面を流し読みし、下へとスクロールしていくと、新しく登録されたこれらの賞金兵器たちに共通する「特徴」を見つけてしまった。


「なあヤミイチ、こいつら…生き物を殺すのに特化してねぇか?」


これまでの一般的な生物兵器たちの存在目的は、前線で敵対する機械兵器の鉄クズどもをぶっ壊すのが主だったはずだ。なのに、新種のこいつらは、初手から人間という生き物をいたぶり、捕食し、なぶり殺すような、明確な殺意のベクトルで設計されているように見えた。


「おや、戦闘チンプンカンプンの割には、よく一瞬で見抜きましたねぇ。そうですよぉ。本当におっかない時代ですよねぇ〜」

「やべぇな人類、今度こそ滅亡か…お?」


画面をスクロールしていた手が止まる。


賞金兵器【グォンド】

討伐賞金1億エルン


添付されている戦闘動画には、何かの宗教組織のような真っ白な法衣で統一された人間たちの集落を、たった一個体の影が文字通り「皆殺し」にして血の海に変えている光景が映し出されていた。しかし、画面に静止画で表示されているその個体のビジュアルは、どう見ても――。


「ダイナロイドだな」

「ええ、完全なダイナロイドの個体ですねぇ」


人間の身体の形をベースにして、腰の後ろからは屈強なトカゲの尻尾。そして体の一部には身を守るための硬質な鱗がびっしりと生えている。


その爛々と輝く眼光も、今俺のすぐ隣にいるアミューと全く同じ、冷徹な爬虫類特有の縦長の瞳だ。


アミューと決定的に違うのは、指先から生えている黒い爪が異常なまでに長く鋭く、その十本の爪だけで、重装甲の人間を紙切れみたいに惨殺している点。しかし一番気になるのは…


「顔が怖すぎるな」

「暴れてる時の映像ですからねぇ」


ふむ。なるほど。もしかして、この動画で皆殺しにされている面白い格好をした集団が、「最高戦力としてのダイナロイド」を裏で極秘に育てて、自分たちの私設戦力にしようと画策したってわけか?

ふっ、バカなやつらめ。育て方を間違えたな?俺のアミューとは大違いだ。


「俺はこの賞金兵器のダイナロイドが、アミューさんと血の繋がった『兄妹』の個体だと思ってるんですよねぇ〜。まあどっちが上なのかはわかりませんがぁ」

「何?こんなのと俺のアミューが兄妹?骨格のレベルから顔が全然似てねぇだろ!(パチン!)アミュー!」


俺は指を鳴らしてアミューを呼ぶ。


「なーにー? サイン」

「よーしよしよしよし、可愛いなぁお前は」

「グルルルルルルルル……(喉を鳴らす音)」

「な?見てみろよ。この愛らしい顔を!あんな凶悪な手配犯と一緒の血筋なんて、この俺が絶対に認めません! 認めませんからね!」

「…逆にダイナロイドをここまで懐かせるサインさんが怖いですよぉ俺」


ヤミイチの引きつった視線が痛い。

そしてユイの視線も…

まあ、ルナとウィルンの兄妹にとっては、見慣れた光景だ…のはずだ。


「何これ」


アミューが俺の腕の中で頭を撫でられながら、手元の端末の画面を覗き込んできた。ちょうどその一億のダイナロイドの手配画面だったので、そのまま画面を彼女の正面に向けてちゃんと見せてやる。


「ほら、アミューと同じような姿の奴が、外で人間を派手に殺しまくって、超高額の賞金兵器として指名手配されてるんだとさ」

「ふーん?興味ない」

「だよな」


俺もぶっちゃけ興味ない。出会ったら俺はもちろん全力で逃げ隠れするだけだ…


「話を戻しますよぉ。とりあえず外の情勢はそれくらいクソ最悪な状況なんで、これからは近場のピクニックであっても、常に前線の死地を歩く気持ちで重武装していきましょうってことですねぇ。さぁ、早く俺の持ってきたトラックの最高級の中身を、男らしく全部お買い上げなさぁい。今のサインさんなら、余裕で一括購入できるはずでぇす。絶対に損はさせませんよぉ?」

「こぇーよ! その悪徳商人みたいな揉み手をやめぃ! いや、確かに口座の数字上は買えるけれどよ! これ全部いったら、俺のコツコツ貯めたエルンが一瞬で無くなるわ!」

「見せて見せて、何があるの?」

「こちらですぅ」


カタログを横から奪い取ったアミューが、急に真剣な、獲物を見つけた生物兵器の顔になってラインナップを凝視し始めた。


「…サイン!これ全部買っていいかも!さすがヤミイチ!」


マジで言ってる?


「ねぇ? サインさんのこれまでの探索ログとアミューさんの主食の傾向は、俺も裏でかなぁり時間をかけて勉強してきましたからねぇ。本当に一エルンも損はさせませぇん」


なるほどなるほど…


「……ハァ。アミューがそこまで断言して必要だって言うなら……うん、全部、買っちゃおっかな!」


俺は観念して、ヤミイチが本日トラックのコンテナに詰め込んできた軍用物資を、男らしく丸ごとすべて買い占めることにした。アミューの胃袋とこれからの防衛に必要っていうなら、それは絶対に今必要な投資なんだろう。


ピッと決済ボタンを押した瞬間、俺の個人口座に表示されていた、長年のウォーカー生活で貯めた、億単位の電子マネーの残高が、一瞬にして哀しき「二桁万エルン」の一般人レベルまで消し飛んで無くなっちまった……またアミューと一緒に前線へ行って、荒稼ぎして稼げばいいんだ……いいんだ……(涙)。


「……うわぁ、本当にトラック一台分、ノータイムで丸ごと買い占めちゃった。超絶ブルジョワの、リアルな化け物お得意様じゃん……」

ユイ…そうだよ俺はヤミイチのお得意様だ…


――ドンドンドンッッッ!!!


突如として、俺の隠れ家である廃工場の重厚な鉄製ドアを、外から拳で激しく引っ叩く、無遠慮で物々しい爆音が室内に響き渡った


その刹那、俺とアミュー以外の全員――ウィルン、ルナ、ヤミイチ、ユイの四人が、電流が走ったような速度で一斉にガチの戦闘態勢へと移行した。アジトの空気が一瞬で一触即発の戦場に変わる。

しかし、ヤミイチだけは、隣にいるアミューの「全く警戒していない」の挙動を視界に収めた瞬間、即座に身体の緊張をゆるめて肩を落とした。


「この気配はトラッパーだね!もう1人いるよ?」

「俺んちの罠抜けてノックしてくるのはアイツだけだからな…来るなら連絡しろよ」

「いくらなんでも心臓に悪いですねぇ、あの人は」


俺が部屋の奥から「鍵は開いてるから勝手に入っていいぞ!」と大声で叫ぶと、ドアノブがガチャリと乱暴に回った。

扉が勢いよく開く。

…なんでアイツ髪の毛真っ赤になってんだ?


「突然わりぃなサイン。ついに出来た、世界で一番自慢の可愛い愛弟子を、まずは俺の一番の『ダチ』であるお前に真っ先に紹介してやろうと思ってよぉ! 近く通ったから、ちょっと寄り道しちまった……って、なんだよ、ヤミイチもここにいんのか」

「お久しぶりですねぇトラッパーさぁん」

「よぉ!おっ、もしかして商談中か?俺にもなんか面白いもん売ってくれよ」

「たった今サインさんが全部購入したので交渉はサインさんにどうぞぉ」

「マジで!?ブルジョワじゃねぇか!」

「…おいおいトラッパー師匠、入り口で盛り上がるのはいいけど、肝心のお弟子さんが後ろのドアの影で完全に置いてけぼりになってるぞ」


トラッパーのお弟子さんが居場所が無さそうにソワソワしている…ヤミイチの弟子を見つけると「あっ!」と声をあげた。知り合いか。


「ユイちゃん!なんでここにいるの!」

「エリザ、元気そうじゃん」


トラッパーのあの自慢の弟子の本名は、どうやら【エリザ】というらしい。

……エリザ。エリザ、ね。……へぇー、あ、そう。

点と点が、俺の脳内で最高の形で結びついた。


俺は表情を一切変えないまま、自分のポケットの中から情報端末を素早く取り出し素早く操作する。

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