24.子供達の訓練 その3
【サイン視点】
姉御との野菜パーリーから数カ月経った。
俺はウィルンとルナの訓練を見ながら自堕落な生活を送っていた。
そろそろ金や武器(アミューの餌)も補充しないと…前はメモってたけどアミューが何を食べたかは忘れてしまったよ。
ただ、数カ月も武器を食べてるだけで使わないので、何が出てくるかわからないびっくり箱みたいな状態になってるのは間違いない。
そして最近の兄妹の訓練はこれが多い。
「てやぁーーーー!」
パコォーン!
「いてぇ!」
ルナが剣でウィルンをボコボコにする訓練。
正確には【ルナの剣をウィルンが捌く訓練】なのだが、やはりスピードが尋常じゃないルナの攻撃をウィルンが捌ききれずにボコボコにされてるだけなので俺はそう解釈していた。
最初はルナも『大丈夫?』とか心配してたけど、もう慣れたのか遠慮がなくなってしまった。
今日もウィルンの頭をオモチャ剣で叩く音が響く。
ちなみにこの訓練の意味を俺は知らない。
アミューが『訓練の意味を言うとウィルンの成長に繋がらないから』と教えてくれなかった。
しかウィルン自身は気づいたらしく、アミューに聞いて正解をもらっていたので知らない仲間外れは俺だけだ。…なんで俺にだけ教えてくれないん?
「今日の訓練はここまでだよー!おつかれ!」
「おつかれー!」
「ありがとう、ルナ」
「どう?ン兄ちゃん」
「なんかなぁ…とっかかりが中々掴めなくて…」
「この剣じゃねぇ…本当は本物の剣とかで斬られた方が覚えが早いんだけど」
「…ン兄ちゃんは斬りたくない」
「だよねー」
「あははは…」
お姉ちゃん先生のアミューさんは今日も物騒だ。体を斬られて覚える訓練ってなんだよ。
俺の情報端末にメッセージが届いた。
『ヤミイチだよぉ。罠解除してぇ』
ああ来たか。前線もそろそろ乱戦期に入ると予想して、弾とか消耗品を買おうと思って呼んだんだっけ。
罠を解除するとヤミイチと…ちっちゃい女の子が入ってきた。
「ここがサインって奴の家さぁ。仲間の中でもかなりのお得意様だからキチンと覚えとくんだよぉ」
「バッチシ!」
ボブカットの明るい茶髪の女の子だ…ああ、ヤミイチもずっと前にピエロから子供を買ってたのか。お前も弟子…育てたかったんだな。
「よぉヤミイチ。かわいい子連れてんじゃん?名前はなんていうんだ?」
「私はユイ!よろしくサイン!」
「よろしくな」
豪胆な子だ。初対面の俺に対してもビビるとか恥ずかしいだとか、全くそういうのは無さそうだ。
「俺もねぇ、新しい従業員が欲しかったんですよぉ。彼女のおかげで色んなことが楽になって助かってるんですぅ」
「そうか、じゃあユイ。ウチに来るか?飯が美味いぞウチは」
「マジで?飯うまいの?非常に魅力的…」
「サインさぁん…?ぶっ飛ばしますよぉ?大体その飯は俺から買ってるじゃないですかぁ」
冗談だ冗談。子供はもう間に合ってる。既にお二人も厄介になってんだ。
「んんー、んんんんーー?」
アミューがユイをガン見してらっしゃる。
「なんかちょー見られてる…ってあれ?尻尾じゃん。それに鱗?」
「ユイ、その人はアミューさんというんですよぉ。サインさんのボディガード的な人です」
「おおう…」
アミューが何かしらの確認を終えたのかヤミイチの方を見た。
「ねえ、ヤミイチが鍛えてるの?」
「そうですよぉ。外は自分の身を守る力が必須ですからねぇ」
「ふーん…ルナと戦ってみる?」
「えっ?」
「わたち?いいよー」
突然何を言ってるんだ?
「おー、いいんじゃないですかねぇ。ユイ、戦ってみなさい。いい経験になるはずですよぉ」
「えっ?えっ?どゆこと?マジで?」
ヤミイチも納得してる。不甲斐ないことだが俺もこのユイと同じだ。意味がわからない。が…
「ほら、非殺傷系…というかオモチャ武器の箱だ。オモチャの銃とか剣とか色々入ってるから好きなの選べ。あとパワーアーマー脱いでおけよ?危ないから」
俺もわかってる風で乗っておく。恥をかきたくないんでね。
「唐突だね…わかった」
ユイはパワーアーマーを脱ぎ、オモチャ箱から色んな武器を取り出していく。本当に色んな…全部使うの?
「準備できたよ」
「わたちも大丈夫」
2人は程よい距離を取り位置につく。
「サインさんの家は広いけどあんまり飛び回らないようにねぇ。じゃ、始めぇ…」
ルナの十八番、距離を一瞬で詰め首に一撃…その技が開幕と同時に入ろうとする…
【ユイ視点】
私はユイ。ヤミイチさん買われ、今は外での商売のイロハを教えて貰っている。
色んなところに連れ回されて…とても楽しい。
私の捕まってた友人達も他の人の下で、エンジョイしてるみたいだ。訓練はキツイけどね。
今日はサインという仲間に呼ばれたから、その人の家に行くという。ヤミイチさんの指示で倉庫に向かった。ヤミイチさんの倉庫は広い。私が捕まってた組織の拠点よりも。とにかく何でもある。
私は指示通り食料品を主に、たくさんトラックに詰め込んだ…こんなに売れるのかね?サインって人は大食いなのかな。
そしてヤミイチさんに連れられサインの隠れ家?まあそんなに隠れてない見た目廃工場的な場所に着いた。
そこからなんやかんやあり、私は、私よりもかなりちっさい女の子を相手に戦うことになった。模擬戦だ。
「わたちも大丈夫」
オモチャの剣を握った幼女…油断をしてはいけない。私の勘が危険だと言っている。距離を取って向かいあったけど恐らくここは幼女の攻撃範囲内だと。
「始めぇ…」
ヤミイチさんの気の抜けるような始まりの合図…の瞬間には私の目の前に…というか首に剣が迫っていた。
「シッ!」
咄嗟にオモチャのプラスチック棒を首と剣の間に差し込み、なんとか受けられた。予想はしてたけど、少し遅れてたらいきなり負けてたわ。
しかしもちろん、1回受けたらそれでおしまいなんてことはない。
幼女は今度は回転し逆方向から首を狙ってくる。それはバックステップで避けた。オモチャ銃で応戦する。通常なら着弾するはずだった弾は剣で叩き落とされてしまった…
色々疑問が湧くけど今は集中。切らしたら負ける。今のままじゃ負けだ。大人げないかもだけど【使わせて】もらう。
私は捌いた。それはもう必死に…
本物の剣なら間違いなく首を落とし心臓を突き、腕を落とし足を飛ばすだろう剣を。
そして隙ができた。幼女の私の首を狙った攻撃が盛大にスカり回転中にバランスを崩した。
オモチャ箱に入ってた網を素早く取り出し投げつける。網は当たり…まあ小さいので顔にかかる程度だけどこれで一本ってとこでしょ。
実戦なら投網で動きを封じたって形だ。
幼女もそれがわかったからか顔に網がかかったまま項垂れていた。
「むー…強い」
「あなたも強いよ。見てよこの汗。私超必死だったから」
「それまでぇ。ユイの勝ちぃ」
私は年上としての体裁を守りきった。




