22.嫌がらせ
【ガルロンカルスリーダー視点】
俺は襲撃してきた奴らを全員拘束し、地面に一列に横並びで座らせた。
襲撃者達は完全に戦意を喪失して、深く項垂れている。
改めて没収した奴らの装備を検分してみたが、どれもお粗末極まる代物ばかりだった。
これなら、白炎竜さんがいなくたって、俺達の防衛戦力だけで余裕で勝てていただろう。
「全く……よくもまぁ、こんなしょぼいジャンク同然の装備で、俺達を襲撃しようと思ったもんだ……」
「ああ。ミートゾーンの生物兵器相手なら通用するだろうけどなぁ……バカな奴らだ」
仲間達が敵のボロ武器を見つめ、意味が分からないといった様子で呆れたリアクションをしている。
前線において、装備の質の良し悪しがダイレクトに勝敗と生存率に響くのは、ウォーカーの常識だ。
俺は部下達から定期的に集めている金を使って、装備の定期新調を行っている。流石に最新鋭の特級武器防具には手が出ないが、一般的なウォーカー達が使っているものよりは遥かに質のいい銃やパワーアーマーを用意しているのだ。
恐らくこいつらは、前線で命懸けで得た金を全部、くだらない娯楽や酒に回しているんだろうな……仲間の言う通り本当にバカな連中だ。
俺は、並べられた襲撃者のリーダー格の男の方へと歩み寄る。
「さて……俺達を舐めて襲ったお前らが、この後どうなるかは……当然、分かってるよな?」
ビクッと、並べられた全員の身体が跳ね上がった。
当然だ。負けた奴は死ぬか、奴隷扱いだ……それが外の世界の絶対的な常識だ。
しかし、今回ばかりは、俺のストレスをスッキリさせてくれた白炎竜さんへの感謝を込めて、特別に逃げ道を用意してやることにした。
「お前らの今ここにある装備と、持っている金を全部ここに置いていけ。それだけで見逃してやる」
「……な、なぁ……」
「なんだ?」
奪い取られる私物を差し出しながら、襲撃者の男がチラリと俺の背後を盗み見た。
一仕事を終えた白炎竜さんは、大剣を地面に突き立て、またウチのキャンプの子供達にワラワラと群がられていた。
「どうして……機械兵器が、お前らに……っていうか人間に味方してんだよ……」
ああ、そこが気になるか。気になるよな。なんで機械兵器が……生き物を殺すためだけの存在がここを防衛してくれているのか。
しかし……
「知らん」
「……は? あ、ああ……そうか。言うわけないよな……そんな重要な情報……」
「いや、本当に知らん」
「……嘘だろ?」
「嘘じゃねぇよ。知り合いにちょっと『人手が足りないから援軍を頼む』ってメッセージを送ったら、あいつが来たんだよ」
「……どんな知り合いだよっ!? クソがっ!!」
吐き捨てるように襲撃者が荒れ狂う。それ以上の尋問は時間の無駄なので仲間達に任せた。
仲間達が手際よく一人一人から金目の装備とエルンを奪い取り、身ぐるみ剥いで荒野へと解放していく。
俺は子供達と遊んでいた白炎竜さんを呼び寄せ、不穏な空気が漂うミートゾーンの入り口方面の方に向かって、ゆっくりと歩き出した。
「なぁ……白炎竜さん。本当に申し訳ないんだが……もう一仕事、あいつらの相手も頼めるか?」
俺の長年の勘が……さっきの野盗の襲撃なんかとは比べ物にならない、過去一にヤバい『大物』が来ると、警鐘を鳴らし続けていた。
あの終戦期並みにヤバい気配が、ミートゾーンの深い森の奥から、真っ直ぐこちらの方に向かって刻一刻と近づいて来ているのだ。
白炎竜さんは少しだけ考えるような仕草をした後、頼もしくコクりと頷いてくれた。
【ミートゾーンの奥深く】
ミートゾーンの……あの幻獣機が姉御を相手に暴れ散らかした領域は、広域に渡って木々が燃え尽き、消失していた。地面もあまりの超高温により干上がって、水分を失いパキパキにひび割れている。
そんな地獄絵図のような焦土のど真ん中を、今……数千、数万という大量のアリ型の生物兵器達が、せっせとどこからか木の苗や、植物の栄養になるものを運んできていた。
「よーし、いいぞー! お前ら! 木の苗は適度に間隔をバラけさせて植えろ! 栄養はうーんと……偏らないように均等に置け!」
「「「ウィーーーッ!!」」」
その土木作業を、偉そうに仁王立ちで指揮しているのは、現時点における生物兵器陣営のトップ『観音』だった。
観音は元の豊かな森へと戻すべく、驚異的なスピードで植樹を進めていく。
実はこの【ミートゾーン】という前線エリアは、人間に『美味しくて弱い生物兵器の肉』をさりげなく提供し、外の世界で生き永らえさせるための、生物兵器側からの『施しのエリア』だったのだ。
そのため、人間を全滅させるような強い生物兵器はここには意図的に配置せず、人間が食べて美味しいと感じる家畜型の生物兵器を中心に、観音の手によって繁殖・配置されている。
最近人間に興味のある奴も入っていくが……
あんまりにも長い期間ここが『営業停止』していると、人間達への食べ物の肉の供給が止まってしまうため、観音自らの強行軍による突貫植林が行われていたのだ。
「……まぁ……別に今、人間が肉を採りにここに入ってきても構わないんだがな」
「は、離せっ!」
「ひっ……!」
「ああ……あ……あ………」
「な……なんなんだよ、ここは一体……っ!!」
アリ達が、さらに新しい「栄養」を運んでくる。
老いた寿命の近い生物兵器、戦いで死んだ生物兵器の死骸…………。
そして――森で捕獲された、人間達だ。
アリ達は掘った巨大な土の穴に、それらの死体や生きた人間をどんどんと、まるで肥料のように乱雑に埋め込んでいく。
「おっ、準備できたなー。そいじゃあ、一気にいくぞ。ほいっとっ!」
観音が地面に多くの手を同時につくと、緑色のエネルギーが大地に走り、植えたばかりの木の苗達が一斉に土の中の栄養を吸い取り、ぐんぐんと、目に見えるスピードで木へと成長させていく。
周辺の干上がっていた荒野が、一瞬にして元の深い不気味な森へと巻き戻る……。
「……ア…………」
土に埋まっていた生物兵器の死骸や人間達も、木の根にエネルギーを吸い尽くされ、一瞬で干からびたミイラのように変化していった。
しかし、これほどの、栄養を使った大掛かりな工程を経ても、破壊されたミートゾーンの森の復興は、全体の一割すらも終わらない。
「あーあ、めんどくせぇよぉ……いつになったらこの作業終わんだよぉー、終わりが見えなさすぎだろマジで……」
観音はぶつぶつと、不満を漏らしてボヤく。
そして、ミートゾーンの外……人間の領域(ガルロンカルスの拠点)の方へと、不機嫌そうな視線を向けた。
「あっちは、なんか楽しそうだなぁ……っていうか、そもそも原因を作ったアイツ(白炎竜)が元に戻せよっ! 森をこんなにした張本人だろ……いや、まあ、本質的にはアイツは悪くねぇんだよなぁ……うーん」
観音は、よく使う正面の2本の腕を組み、少しの間考え込んだ。
起死回生の名案を思いついたかのように、組んだ腕をパンッとほどいて手を叩く。
「うん、そうだな。アイツに『嫌がらせ』をするくらいの権利は、俺にだってあるよな! そうしよう、すぐやろう!」
そして観音はニヤリと笑うと、自身の背中から生えている無数の腕の……その中でも太い腕を3本、ブチッ、ブチッ、っともぎ取った。
【ミートゾーン:ガルロンカルス拠点付近】
白炎竜さんと、ガルロンカルスのリーダーが並んで見つめる森の境界線の向こう側から、ドシン……ドシン……と地響きのような不気味な足音が聞こえてくる。
その足音の正体は、すぐに姿を現した。
木々の隙間を押し広げて現れたのは、3体の巨大な……人型の生物兵器。
白炎竜は、自身のシステムに埋め込まれた旧時代のデータベースの知識から、それがかつて人間達が信仰していた『大仏』という仏像を模して造られた生物兵器だということが分かった。
その生物兵器は、ミートゾーンの木よりも遥かに巨大だ。サインとアミューが用意した新規ボディの白炎竜と同じ、5メートル近くある。
ガルロンカルスのリーダーはそのおぞましい仏の姿を見ただけで、気絶してしまいそうになったが、ある程度ヤバいものが来ると予想はしていたので、奥歯を食いしばってどうにか恐怖に耐えた。
その時、リーダーを、突如として凄まじい熱波と高温が襲う。
「あっつっ! なんだこれっ!?」
その異常な熱の源泉は、隣に立つ白炎竜が構えた、あの全長3メートルの大剣から発せられていた。白炎竜がエネルギーを大剣の回路へ一極集中させたのだ。
そして次の瞬間、その大剣は音速を超える凄まじい速度と共に、3体の大仏目掛けて豪快にぶん投げられた。
シュガガガガガガッッ!!!
大剣は凄まじい超高速回転をしながら、白いプラズマの火花を周囲に激しく散らして空間を切り裂く。
2体の大仏は超反応で左右にステップして間一髪で回避したが、中央の1体の大仏だけは避けきれず、胸のド真ん中に直撃を喰らった。
巨大な剣が深々と大仏の胸へと突き刺さり、内蔵された超高温の熱量が爆発。一瞬にして大仏の巨体をドロドロのマグマのように燃やし尽くした。あまりの超高温に、投げつけた大剣自身も耐えきれず、大仏の肉体と一緒に綺麗に灰となって燃え尽きてしまった。
初手で大武器を失った白炎竜に対し、生き残った2体の大仏が、なぜか非常に陽気な声で喋りかけてきた。
「お〜う、やるねぇ! 一人減らして少しでも人数不利を減らすってかぁ?」
「流石は幻獣機だな!」
残った2体の大仏が、それぞれ独特なファイティングポーズを構える。
白炎竜は、その構えの片方が『ムエタイ』、もう片方が『ボクシング』という、人間の格闘技の構えだということを瞬時に識別していた。
「おい! そこのちっこい人間! ここからは俺達のプライベートな戦いだ! 巻き込まれたくなかったら、さっさとその場から消えろ!」
「そうそう。今回、お前ら人間には一切手を出さねぇからよ。俺達はただ、この竜を個人的にボコりたい気分なんだわ」
「あ……はい………」
あまりの威圧感に、ガルロンカルスのリーダーはその大仏の言葉に二つ返事で従い、脱兎のごとく全力でその場を離脱していった。
こうしてリプレに続く、メンタル強者が誕生したのであった。




