21.ストレスの発散は大事
【サイン視点】
白炎竜さんは、アミューの異型アーマーの姿のまま空を軽やかにホバリングしつつ、新品の5メートル級の新しいボディに器用に色を塗っていた。
そのカラーリングは、あの時……ミートゾーンで初めて出会った時の、美しい白銀のカラーそのまんまだ。
ぶっちゃけ、そんな派手でピカピカした色の巨大兵器が隠れ家の外にいたらめっちゃ目立って狙われやすくなるから、できればやめてほしいんだけど……まぁ、本人が気に入ってるならいいか。
「ルナも塗るか? 色」
「いろぉ?」
こてん、とルナが可愛らしく小首を傾げる。
「ああ、お絵かきだよ。ああやってお気に入りのもんに好きな色を塗ると、テンションが上がるぞ?」
「塗るっ!!」
「おう。ナイフに塗るなら指を斬らないように気をつけろよ〜」
「ン兄ちゃんと一緒にやる! ン兄ちゃん!」
「……ああ……うん……」
ウィルンは、まだ白炎竜さんの巨大な機械兵器の姿に慣れないのか、チラチラと怯えながら様子を伺いつつ、ルナに引っ張られるようにして隠れ家の作業場へ戻っていった。
ヤミイチとユイは、白炎竜さんが自分の身体に色を塗る姿から目を離せないようだ。
俺もアミューと一緒に、そろそろ巨大パワーアーマーの調整に戻るかな……
ピロン、と情報端末が鳴った。ミートゾーンのガルロンカルスのリーダーからだ。
『あの後、姿を見てないがどうせ生きてるんだろ……ちょっと話がある』
そこで一旦メッセージを読むのをやめ、俺は目を瞑って深く息を吐き、顔を上げた。
……俺は悪くない。あのミートゾーンの白炎竜さんの件は完全に「事故」だし、俺は5%くらいしか絡んでないはずだ。
現実逃避はやめて、メッセージの続きを読む。
『最近、俺達がブレイカー教との戦いで弱体化したと思って舐め腐った連中が、こぞって襲撃をかけてくるっていう情報を得た。援軍がまたほしい。ミートゾーンでまた盛大にしでかしてくれたんだ。お前、援軍を送ってくれるよなぁーーーーーー!?』
なんでコイツは、ミートゾーンで発生したあの大災害の原因が全部俺にあると思っているんだよ。理不尽すぎるだろ!
俺は今日は、アミューと楽しく色塗りをする予定なんだ。家族との大切な休日を、つまらん用事で潰したくないので無視をする……
……いや待てよ? 新しいボディの試運転にはちょうどいいのか?
俺は、どこから持ち出したのか巨大な扇風機を自分自身に接続し、5メートル級ボディに塗りつけた白い塗料を効率よく乾かしている白炎竜さんの方へと歩み寄った。
【ガルロンカルス:リーダー視点】
あの「青白い流星」がミートゾーンの森の奥に落ちてから、俺達はミートゾーンの境界線には一歩も近づいていない。
ヤバすぎる気配を感じるからだ。今入ったら間違いなく死ぬ……勘が警鐘を鳴らしている。
まるで、終戦期の前線付近にいるような感覚だ……そのため仲間達には「絶対に近づくな」と厳命している。
だが、世の中には「自分だけは大丈夫だ」と勘違いしているバカな奴がいるもので、ウチの組織とは無関係な野良のウォーカー達が勝手に入っていくのがチラホラと見られた。……案の定、俺がミートゾーンへ入っていくのを確認したそいつらは、二度と外に出てくることはなかった。
そんな警戒態勢の俺達を見て、「ブレイカー教との抗争で疲弊し、ミートゾーンの入り口程度にも入れないほど弱体化している」と勘違いした愚かな連中が、キャンプへの襲撃を企てているという情報が入った。
全く……風評が落ちると、こういうハイエナみたいな連中が増えて本当に面倒くさい。
とりあえず、ダメ元でサインに援軍要請のメッセージを送った。報酬なんてものは提示しない。この襲撃の原因を作ったのは、どうせあの男なのだからな。
……というか、援軍なんて別に来ても来なくてもどっちでもいい。来れば楽に敵が片付くし、来なければ普段通りに堅実にぶっ殺すだけだ。
しばらくして、サインからの返信が届いた。やはり生きていたか。俺の予想だと9割の確率で断られると思っていたが……返事は意外なことにオーケーだった。
『いいぞ。俺とアミューは行かねぇが、身体の試運転をしたいらしい【白炎竜さん】を送る。声は出せねぇが、お前さんの指示をちゃんと聞くように言い聞かせたから、どう戦わせるかはお前次第だ。帰宅のタイミングはそっちに任せるが、今日中に帰してくれよ』
……『白炎竜さん』?
嫌な予感しかしないな。昨日、空を見上げた時、あの背筋が凍るような青白い流星が脳裏をよぎり、冷や汗が出る…
空を見上げると、案の定だった。
昨日ミートゾーンに飛んできたのと全く同じ、あの青白い流星が、空を裂くようにこちらに向かって一直線に落ちてくるのが見えた。
「全員、絶対に狼狽えるなッ!! サインの奴の援軍だ! 攻撃するなよ、絶対に撃つなっ!!」
アレの到着までもう時間がない。俺は仲間に要点だけを大声で伝えた。
俺の目線の先に降りてきたモノを見た仲間達が、恐怖で唾を飲み込み、顔を青ざめさせている。
その姿は、二足歩行の5メートル級の竜の形をした、巨大な機械兵器。
まるで色が塗りたてのような、美しい白銀の装甲の隙間から、青白いエネルギーの光が血管のように全身を生き生きと駆け巡り、脈動している。
そしてその片腕には、全長3メートルを超える無骨な大剣が握られていた。
こりゃあ……とんでもねぇ化け物を寄越してきやがったな、アイツ……!
白炎竜さんは大地にゆっくりと着陸し、エネルギー出力を抑えたのか、全身を覆っていた青白い光のオーラが収まった。
俺達のような脆弱な人間に対しても、きちんと衝撃を最小限にする配慮ができているのが伝わってくる。
そして、そんな巨大で恐ろしい白炎竜さんに対しても、ウチのキャンプの子供達は……。
「わー! おっきー!!」
「綺麗な竜さんだぁー!」
「触っていい? ねぇ触っていい?」
「格好いいッ!!」
サインのところにいるアミューとかいう生物兵器の存在に慣れてしまったせいか、大人達が止める暇もなく、子供達がワラワラと白炎竜さんの足元へ駆け寄ってしまった。
……普通、兵器にあんな無防備に近寄ったら、一瞬で殺される。
あまり慣れてほしくないとは思うが……今は子供達がパニックになっていないだけマシだということにしておこう。
俺も意を決して、巨大な機械兵器の足元へと進む。子供達に群がられて、あろうことか白炎竜さんは満更でもなさそうな、嬉しそうなジェスチャーをしている。……しかし、油断はしない。こいつは恐らく、ミートゾーンであの激しい戦闘音を響かせていた元凶だ。
「……よぅ。援軍、ありがとな。えっと……名前は【白炎竜さん】……でいいのか?」
白炎竜さんは、ゆっくりと俺の方を見て、コクりと静かに頷いた。なるほど、こちらの言葉は問題なく理解してそうだな。
「サインからの伝言通り、俺の指示を聞いてくれる……んだよな?」
またコクりと頷く。マジかよ……機械兵器が人間の言う事を聞くなんて……
「わかった……じゃあ、しばらくそこで待機で……子供達の相手でもしててくれ……」
白炎竜さんの動きを見るに、今のところ放置しても突然暴れ出したりはしないだろう。子供達にも怪我をさせないように、巨大な身体の動かし方に細心の配慮をしているのも見て取れる……今はきっと、そこが子供達にとって一番安全な場所なはずだ。
そして数時間後、情報通りにキャンプの前に襲撃者達が姿を現した。
「ガルロンカルスも落ち目だってなぁ!!」
「お前らが調子に乗ってんのも今日でおしまいだ!」
「大人しく女子供を差し出せぇ!」
敵の数は武装車両15台程度。1台に3〜4人くらい乗っているから、総勢50人以上の野盗の集まりだ。
バリケードの車の前に立ち、俺は声を張り上げる。
「さっさと帰れ! お前らは色々と勘違いしているぞ。死にたくなかったら今すぐ逃げろ!」
その返事は銃弾だった。激しい銃撃が響くが、俺のパワーアーマーの電磁バリアが敵の銃弾を火花と共にすべて弾く。
「はぁ……。白炎竜さん……後は頼む」
俺の指示を受け、それまで後ろで大人しくうつ伏せになっていた『白炎竜さん』が、ゆっくりと立ち上がる。その巨体は、こちらに向かってきた時と同様に、青白い光が血管のように全身の装甲を巡り、凄まじい出力で脈動し始めていた。
3メートルを超える巨大な大剣を持ち上げ、バリケードの前にその堂々たる姿を現す。
さっきまで騒がしかった敵の罵声と銃声が、一瞬で静まり返った。
俺はそれを見計らって、ニヤリと笑って敵を盛大に煽ってやった。
「今日はな! ウチに最高に物騒な『友達』が来てんだよ! 今日はそいつがお前らの相手をしてくれるってなぁーーーーー!!」
僅かな沈黙の後、敵の武装車両が一斉にパニックを起こして動き出す。
「は!? なんだありゃ、反則だろそれはぁーー!!」
「に、にげ……逃げろぉっ! あれは機械兵器だぞっ!!」
「ああああああッ!!」
「追いかけてくる……もう無理だ、終わりだぁ!!」
襲撃者達は、白炎竜さんの姿を見た瞬間に脱兎の如く逃げ去っていった。あまりの恐怖に戦意喪失して、乗り物から転げ落ちて呆然と立ち尽くす奴もいる。
俺は事前に、白炎竜さんが敵を無差別に殺戮しないように、「できる限り殺さないように……足を潰すか驚かせる感じで戦ってくれ」とお願いしてあった。
そのためか、白炎竜さんは大剣の先で車のタイヤだけを器用に叩き潰したり、逃げようとする敵の目の前の地面に大剣を思い切り叩きつけ、巨大なクレーターを作って逃走を妨害したりして、なんだか楽しそうに遊んでいる。
そう、奴にとっては、これはただの楽しい「遊び」程度なのだろうな……。
戦いにすらなっていない。
はぁ……しかし、まさか戦いの場で「敵を殺すな」なんていう手加減の指示を出すことになるとは思わなかったぜ。
もし白炎竜さんがここで人間相手に本気を出して大虐殺なんてしたら、それこそ「最凶の賞金兵器」として指名手配され、超面倒なことになる。そんな面倒事の対処、俺は死んでもしたくない。
まったく、アイツ(サイン)と関わると毎回ろくな事がない。
……しかし、まぁ。
こうやって、ウチを舐めていた連中を一方的に無双して散らし、泣き叫ばせているのを見ていると、正直かなり気分がいい。しかも、その最強の兵器は今は俺の味方なのだ。万が一にも負ける心配もない。
この一方的な戦い(?)は、俺のここ最近のブレイカー教の一件やらで溜まりに溜まっていた、ストレスの最高の発散になった。




