18.後始末の山盛り
【サイン視点】
姉御があの白銀の機械竜を……文字通りボコボコにいたぶってジェネレーターを引っこ抜き、完全に機能を停止させてしまった。
姉御は自身の端末を取り出し、淡々とどこかに連絡を入れている。
「武者、回収しましたよ……ええ。後は私が責任を持って管理しておきます。森の修復は観音に任せますが、さすがに被害が少し大きすぎますね……貴方は、あの座標の施設の残党を解体しなさい。ええ、お願いしますね」
連絡が終わったのか、姉御が端末を閉じてこちらを振り返る。
アミューもルナもリプレも、姉御の視線にビクッと肩を震わせた……いや、だから味方だって言ってるだろ? なんでそんなにビビってんだよ。
俺は、抱きついて離れない『ビビリーズ』の3人を剥がし、姉御の方へ歩く。
姉御の周囲を覆う不可視のバリアから抜けたせいか、肺に外の熱風が入り込んでくるが、俺は我慢した。
そして姉御に、感謝の握手を求めて手を差し出す。
「ありがとな姉御! 助かったぜ!」
「ふふっ……お気遣いは嬉しいですけど……今のあなた、お二人の汚物でドロドロですよ。さすがに触りたくないです」
「あっ……」
ルナとリプレに抱きつかれて汚物にまみれた俺の手は、姉御に丁寧かつ冷酷にお断りされた。
俺は姉御の『不思議パワー』で全身を綺麗にしてもらってから、もう一度お礼を言い、今度はちゃんと握手をしてもらった。
ルナもリプレもついでに綺麗にしてもらい、2人共たじたじとお礼を言っている。アミューはそもそも排泄器官がないので、そういう被害は皆無だった。
俺達は…というか主に『ビビリーズ』に休息のために、すっかり燃え尽きて焦土と化した元・森の跡地で休むことにした。あれだけずっと全力でしがみついていたんだ、何も戦っていなくても疲れるわな。
俺はふと、姉御に聞きたかったことを尋ねる。
「なあ姉御……なんで、手加減してたんだ? 姉御なら、最初からこいつを瞬殺できたろ」
俺は白銀の巨大な残骸を指差して聞いた。まだ俺に抱き着いたまま離れないアミューも気になっていたのか、静かに首を縦に振る。
「まあ…当然気づきますよね」
姉御がため息をつき、少し長くなると前置きをしてから話し始めた。
「……生物兵器も機械兵器も、ある程度の強さを超えた個体になると『自我』を持ちます。アミューさんみたいにですね……」
姉御が竜から抜き取ったばかりの、まだ熱を帯びるジェネレーターを優しく撫でながら話を続ける。
「それは、この子も例外ではありません。この子は幻獣機【白炎竜】という名前です。幻獣機は強すぎて封印されていた機械兵器達の名称ですね。……封印と言っても、スイッチ1つ。あのようなビーコンを壊した程度で、簡単に起動してしまうものですけどね」
幻獣機……姉御が戦う前にも言っていたな。
ビーコンって……あの女が渡してきた、あの壊れた機械のことか。アレがこの巨大な機械竜を呼び寄せたのかよ……
ちなみに、あの女も姉御の不思議バリアで守られていたらしく、白目を向いて気絶したまま放置されていた。
「今回の起動は【ビーコンの破壊】……これは幻獣機を強制起動させ、自我を消して暴走させ、破壊されたビーコンの箇所を敵と見なして徹底的に壊し尽くすというプログラムです」
「ああ……もしかして、あの女が転んだ時に……」
「その通りです。こうなってしまっては、破壊する以外に止められる手段はありません……だからせめて、この子には【兵器】としての全力を引き出してから終わらせてあげたかったのです。つまり手加減は、私の勝手なエゴですね」
姉御がポリポリと頬をかきながら苦笑する。その姿は、あの激闘を繰り広げていたとは思えないただの子供のようだ……思わず頭を撫でてしまった。
……が、姉御は嫌がることもなく受け入れてくれた。サラサラした髪がひんやりしていて……触り心地神か?すげぇ!
「……あんまり触ってると、その指、骨折りますよ?」
「あっ、はい……すみません」
俺は慌てて手を引っ込めた。
何故かアミューも自身の頭を差し出してくるので、ついでに撫でてやる。言い方は変態っぽくてアレだが、こっちは撫で放題だ。
「姉御はその……白炎竜の残骸とか、ジェネレーターをどうするんだ?」
「残骸は私が後で消しておきます。ジェネレーターは……どうしましょうかね。正直、困っています」
「それだけのジェネレーターなら……何かの施設の動力として使えそうだが?」
「さっきも言った通り、この子には自我があるんですよ……しかもこのジェネレーター内部に。そんなものを施設の動力になんてしたら……中の精神が狂って、施設ごと暴発しかねません。しかし消すのも躊躇われます……優しいんですよ、この子は…………ちょっとサイン、なんですかその顔は」
「……いや、姉御って……意外と優しいんだなって」
姉御の普段の通話での荒々しい喋り方や、人間を物のように扱っている普段の行動を見てれば、そりゃあ驚くよ。
「……私は、人間が嫌いなんですよ。ただそれだけです」
「ふーん」
姉御は遠くを見ながら言った。俺はそれを別に深く気にはしなかった。
姉御は人間が嫌いでも、俺達を助けてくれた。それでいいじゃないか。
それに、姉御だって人間全てが嫌いなわけがないはずだ。俺達と野菜パーティーを楽しんでいた時の笑顔。ゴザルの動画を見て爆笑していた時の顔。あれは、本当に…心の底から楽しんでいたはずだ。本当に嫌いだったら関わっていないと思うし。
姉御と、俺に張り付いて動かないアミューがのんべんだらりと話していると、後ろのルナとリプレは、極度の緊張から解放されて疲れ果て、寝入ってしまったみたいだ。
「では、そろそろあなた達も帰りなさい。私が隠れ家まで送ってあげますよ」
「おっと、もうこんな時間か……リプレの帰宅時間に間に合うかな……」
なんやかんやで夕方になってしまった。ここから隠れ家に帰って、リプレをシェルターに送るとなると完全に深夜になってしまうな。
「私が送ると言っているんです。間に合わないわけがないでしょう?」
「さっすが姉御だぜっ! 頼りになる!」
姉御が俺達に向かって手をかざす。
アミューがビクッとしたが……まあ、これはわかる。姉御があの50メートルの巨体を止めたのも、あの手のひらだったしな。
そこで姉御が何かを思いついたかのような顔をし、俺に超絶ぶっそうなもんを渡してきた。
「ついでにその子の面倒もよろしくお願いしますね。あなたの新作にでも突っ込んでやってください」
「ちょまっ……これ、ジェネレーター……」
俺の視界は、焼けたミートゾーンの森から、一気に見慣れた俺の隠れ家に変わってしまった……
俺に張り付いていたアミューも、見渡せば寝ていたルナもリプレもちゃんと戻っている。
ただ、姉御に詰められていた今回の元凶のあの女はいなかった。
いや、居ても困るんだけどね!!
そして俺は、姉御から移動する直前に渡された『白炎竜のジェネレーター』を抱えている……
とりあえず今は、ダンゴロムシの甲殻だらけの荷物置き場にそっと置いておくことにした。
俺は端末を開く……ヴィクトールから着信が数十件も届いていた。
「リプレぇーーーーー!! 何があったんだぁーーーー!!」
ヴィクトールの絶叫が俺の隠れ家に響く。
リプレは起きたと同時に、現実を理解したのか、部屋の隅で膝を抱えてガタガタと震え始めてしまった。
「私達はね……生かされてるだけなの……前線に行って、ようやくそれに気づけたわ……。あなたの言いたかったことは……こういうことね、ヴィクトールおじさん」
「違うと思うぞぉーーーー!!」
ちなみにルナは、アミューお姉ちゃん先生から離れられなくなってしまったようで、しがみついて離れない。
「うう……ぐすぐす……」
「よしよし……」
アミューも相当参っているようで、ルナの頭を撫でながらもウトウトしている。
俺はというと……この後の展開の前に、現実逃避で姉御から貰ったヤベェジェネレーターに話しかけていた。
「お前、その状態でも意識あんの? ハハハ、任せろって。前の体ほどじゃないけど、立派な体を俺とアミューで作ってやんぜ!」
姉御が言っていた『俺の新作』はアレのことだろう。さすがにそのままコイツをぶっ込むのは問題が起こりそうなので形は弄るが……どうなるか楽しみだ。
「サァーーーーイィーーーーンーーーー!!!」
ほら、起こることが確定している現実が迫ってきた。
「いいの……いいのよ、おじさん……サインは悪くないの……悪くないのよ……」
リプレが完全に壊れて、なぜか俺を庇うように呟き始めた。ヴィクトールにどう言い訳したものか……まずは、隠れ家の井戸水でも振舞ってやるか。
「とりあえず今日の探索の動画見とけ…大体何があったかわかる。あんまり人に言いふらすなよ?姉御に殺される」
「ううううううんんんんーーーー……アイツ絡みかぁ…」




