13.ガルロンカルスリーダー再び怒る
【リプレ視点】
私達の視界から、ブレイカー教の狂信者共の姿が完全に見えなくなり、私はようやく張り詰めていた緊張を解いて深く息を吐いた。
彼らは、私が先週ボコボコにした野良のウォーカー達よりも、明らかに桁違いに強かった。特にあの巨大な神官……アイツの放つプレッシャーは本物だった。きっと今の私一人では、絶対に勝てなかっただろう。
神官の切り札の……最後に放とうとしていたあの一撃必殺の広範囲攻撃から、恐らく私は避けられなかった。仮このパワーアーマーの装甲が耐えられたとしても、衝撃の貫通力によって中身の私の身体が粉々に砕かれるイメージが、ハッキリと脳裏によぎってしまったのだから。
私が冷や汗を拭っていると、バリケードの車の上で防衛戦をしていたウォーカー達が、武器を下ろして車から降りてきて、私達に話しかけてきた。
「助かったよ……ブレイカー教の狂信者共はマジで厄介だわ……こっちは死者こそ出ねぇで済んだが、負傷者が多すぎる」
「あいつらは本当に戦闘に『躊躇い』ってもんがねぇ。しかも、自分が死んでも教義で救われると思ってやがるから、タチがわりぃよ……」
ウォーカー達がみんな口々に、奴らの非常識さを愚痴る。
「そこは、完全に同意するわ」
私も思わず頷いてしまった。
すると、私達の元へ……このグループをまとめるリーダーと思わしき、鋭い目つきの男が歩み寄ってきた。
「……俺がここのリーダーだ。助太刀に感謝する」
リーダーは私を見て一度頷くと、次に私の横に立つ小さなルナちゃんの方を見て、複雑な顔で言った。
「てっきり、あの尻尾娘を援軍に寄越してくると思ったんだが……まさか、よりによって『ジェノサイド』を寄越してくるとは思わなかったぞ」
ジェノサイド……? それって、もしかしてルナちゃんの外の世界での呼ばれ方なのかしら。
私が仮面の下で不思議そうに首を傾げているのに気づいたのか、リーダーの男が驚いた表情をした。
「……おいおい。まさか、何も知らないでこいつと一緒に行動してたのか、お前……? おいサインッ! 出てこい! 近くにいるんだろお前もっ! ちゃんと説明しろっ!」
……初対面だが、このリーダーの呆れた反応を見るに、サインという男はどこに行っても例外なく残念な振る舞いをしているのだということが、よーく分かったわ。
「……なんだよ。俺、今度は別にわりぃことしてねぇだろ」
「ルナちゃん、またすっごく強くなったねー!」
「うん!」
空間が揺らぎ、透明化を解除したサインとアミューさんの2人が、私達の後ろからフッと現れた。
リーダーの男は、後ろの……サインの異形アーマーを装着した『ラプトル姿』のアミューさんを見て一瞬だけ大きく目を見開いたが、冷静さを失うことなく深くため息を吐くだけだった。
物凄い胆力だわ……普通なら、あんなバケモノみたいな姿の生物兵器が現れたら、パニックになって銃を向けたりしてもおかしくないのに。
「ふぅ……おいサイン……どうしてお前があの『ジェノサイド』を連れて歩いてんだよ」
「だから、ジェノサイドってなんだよ。もしかしてルナの二つ名か? 随分とかっけぇ名前が付いてたんだな」
「……お前、本当に何も知らない……のか? 冗談だろ……? 冗談……じゃないのかよ、このアホは……」
リーダーは頭を抱え、その場に顔を覆って蹲ってしまった。
私達はとりあえず、このガルロンカルスのリーダーの人に案内されて、車の壁の裏にある彼らの陣地へと入った。
陣地に入った瞬間――。
「あー! きょーりゅーのおねぇちゃんだぁー!」
「ほんとだーーー! 久しぶりにきたーーー!!」
「アミューおねーちゃん、こんにちわー!」
アーマーを外し人間の姿に戻ったアミューさんが、陣地の奥の安全地帯で避難していたウォーカーの子供達に、一瞬で大勢囲まれた。
これには、ルナちゃんもヤキモチを焼いてプクッと頬を膨らませる。
「わたちの、お姉ちゃん先生なのにー!!」
と言いながら、子供達の集団に「えいっ!」と小さな体で突撃していく。
アミューさんは、ここでは大人気なのね……なんだか、ここだけは外の世界の殺伐とした空気とは全然違う。
「……前よりも人が増えてないか? ここ」
サインが周囲を見回して尋ねる。
「ああ。あのワーム大戦の後にな、自活できねぇ野良のウォーカー達がこぞってこのキャンプに集まってきたんだよ。俺が勘で、受け入れるか受け入れないか面接してキッチリ判別してあるから、変な奴はいねぇはずさ」
「なるほどな。確かにここならミートゾーンの入り口で食べ物もあるしな。人が集まる理由もわかるわ」
「俺の自慢の組織さ。治安の良さだけは、どこの組織にも負けねぇ自信があるぜ」
リーダーとサインの世間話を聞いていると、ここのウォーカー達が驚くほど『マトモ』なことが分かった。ここの最低限の秩序は、このリーダーが自らの力で作り出したものなのだろう。
こうやって実際に自分の目で外の世界を見ると、外の人間も全員が全員、搾取しようとする敵ばかりではないのだということも分かった。
「っで、そっちの黒い仮面の嬢ちゃんも強かったが……こいつは何者だ?」
リーダーが私を見て尋ねる。
「あー、名前は事情があって伏せさせてくれ。ちょっと俺の個人的な仕事の依頼人なんだわ。俺が保証する、変な悪さはしねぇよ」
「そうかい。まぁ、助けてくれてありがとな?」
リーダーが……ウォーカーの男が、私に向かって握手の手を差し出してくる。
何度も言うが、私はウォーカーが嫌いだ。……しかし、この握手を無下に跳ね除けるほど、私も空気が読めない人間ではない。
「どうも」
私がリーダーの手を握ると、力強く、温かく握り返してくれた。この人はなんだか少し……ヴィクトールさんに似ている気がする。
サインが本題と言わんばかりに話を切り出す。
「とりあえず、俺達がここに来た理由を話すか。今日は、こいつとルナの前線慣れのための探索に来たんだわ。っで、ここは、俺もマシな寄り合い所だと思っている。だから、今後のための顔見せだな」
「……『ジェノサイド』と顔を繋いでくれたのは嬉しい……ってことはつまり、『お前のせいで苦労した甲斐があった』ってことかなぁーー!!」
「えっ!? なんでお前そんなに急に怒ってんだ?」
「あんたが悪いに決まってるのは一目瞭然よ。部外者の、何も知らない私でも分かるわ」
果たしてここで、サインは一体どんな厄介事をしでかしたのだろうか……
「嬢ちゃんも分かってくれるか! 聞いてくれよ! こいつの悪行をよぉー!」
「ええ、いいわ。聞かせてちょうだい」
「……なぁ、俺、ちょっと離れててもいいか?」
リーダーの愚痴を聞くに、どうやら過去にサインは、アミューさんを使ってミートゾーンの生物兵器【オークン】を大量虐殺し、さらに森の中で出会ったブレイカー教を殲滅。そこで、自身の壊れたパワーアーマーの右腕と、その異形の死体の山を森の中に放置して帰ったらしい。
そして、それらを捕食したミートゾーンの生物兵器が超強化され、賞金生物兵器になり……そして……。
「『ブレイク』の名前を持った、巨大な聖棍を持ってるヤバい生物兵器をブレイカー教の神父が見逃す訳もなく、ブレイカー教の本山から神父がわざわざミートゾーンまで出張って来て、その賞金兵器をボコボコにしてお持ち帰りしやがったんだ!
……今日のウチのキャンプへの襲撃は、その『ついで』の小競り合いだそうだよ畜生!! 迷惑にも程があるだろ!」
「ほら、やっぱり100%サインが悪いわ」
「……すぅー…………これをあげるから、これで今日のところは許してください」
サインが、自身のバッグから回復薬【紫】と、私達のパワーアーマーの素材である灰色のブロックを10個ほど取り出してリーダーに手渡した。
「紫はわかるが……なんだこのクソ硬いブロックは」
「最前線生物兵器【ダンゴロムシの甲殻】だ。加工方法は『一定の圧力を2時間』だ。あんまり広めんなよ? 正直これは……それこそブレイカー教に知られたら、こいつでガチのトンデモ兵器を作られる」
「お、おう……想像以上にヤベェもんくれたな……加工方法は、俺と物作りに関連する身内の奴だけにしとくか……紫の方は、水で薄めて黄色にして、怪我したうちの奴らに使わせてもらう」
「あと、『ヤミイチ』も紹介してやるよ。またこの甲殻ブロックが欲しけりゃ、今度からはそいつから直接買え」
「……お前の交友関係、どう考えてもおかしくねぇか? ……いや、あのジェノサイドを連れ歩いてるから、そりゃそうなのか……」
ヤミイチが私は誰だかは私は分からないけれど、外の世界では相当有名な人物なのだろう。
機嫌を直したリーダーが、ポケットから何かの液体が入った小瓶を……いや、小瓶が刺さったベルトごと外して、全部サインに渡した。
「これは?」
「肉を処理する……腐らせる特殊な薬だ。殺した奴の肉は、そいつを少しかけて処理しとけ。ミートゾーンにも、奇妙な生物兵器がいるがお前らなら大丈夫だろう。気をつけて行ってこい」
「へぇ、こういう薬もあるんだな。知らんかったわ。ありがとう」
サインは貰ったベルトごと、自分の腰に回しつけた。
「無くなったら言え。お前にはタダでやるよ」
「突然のサービスだな。そんなにいいのか?」
「あの『ヤミイチ』と正規のルートで繋げて貰えるんなら、こんな薬代くらい安いもんさ」
……なるほどね? これがさっき言っていた、サインの『力』……ね?
価値のある物資で相手の不満を黙らせ、超大物の交友関係を提示して信用を勝ち取る。恐らく今回の件は、サイン自身が無自覚にやっているようだが、中々に絶大な効果があるのが、話を聞いているだけでもよく分かったわ。
私達は、この寄り合い所で少し休憩させてもらった後に、本来の目的であるミートゾーンの奥地へと向かうことになった。
「今日は、この北エリアから突入するぞ」
「……ミートゾーンの入り口の木が、ごっそりとなぎ倒されているのだけれど、ここから入って本当に大丈夫なの?」
私達は、前線の入り口に到着した。
しかし、その突入ポイントは、まるで何か巨大な山のような物を強引に引きずり出したかのように、大木が根元から無惨にへし折れていた。
「これは、ブレイカー教の神父が、さっき言ってた賞金兵器を力任せに引きずり出した跡らしいわ。もうアイツらは帰ったから、入る分には安全なはずさ」
「……そう?」
ブレイカー教の神父……。あの巨大な神官であの強さなのだから、その上の神父はもっと強いのだろう……
私って、外の世界の基準じゃやっぱり底辺の『弱い方』なんだろうな。あんなに血の滲むような思いでシェルターで鍛えてきたのに……
――ダメよ、弱気になっちゃ! それをどうにかして『ロウ』に届く強さを手に入れるための、今日の探索でしょ!
「じゃあ、お姉ちゃん先生とルナが前を……いや、どこに進むかは、ルナが勘で決めるといい」
「はーい!」
アミューさんとルナが、ルンルンと楽しそうに前線の薄暗い森の中へ入っていく。私も警戒しながらそれについていくが、サインにどうしても一つだけ言いたいことがある。
「ねぇ。ルートの決定を、ルナちゃんに丸投げして決めさせて本当に大丈夫なの?」
いくら強いとはいえ、3歳児に前線探索の判断を色々押し付けすぎじゃないの、こいつ……。
「ルナは完全に『勘』で戦うタイプの奴だからな。俺達が指示するより、あいつを自由に歩かせた方が、何か俺の知らない『面白いもの』を見つけるかもしれないだろ?」
……本当に、そんな適当な理由でいいのだろうか。
それとも、ミートゾーンという初心者用の場所だから、そんな舐めた行為が許されるのかしら……。




