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アルティメイト ~最凶な世界でもエンジョイライフ~  作者: ちょばい


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10.狂気の女の子(3歳)

【サイン視点】

色々あったせい……主に来客のせいで、俺は寝不足の状態でヴィクトールとの約束の1週間後を迎えることになってしまった。準備を後回しにしすぎた…


「シャイン、おねんねするぅー?」

「ああ、おねんねしたいぜ……」


あと、ヤミイチが大事な商談があるからと、ルナを置いていったのだ。しっかり者のウィルンお兄ちゃんは勉強の為に、ヤミイチについていったので今日ここにはいない。


俺だって今日はスカベンジズとの用事があるっつってんのによぉ。


ルナが、隠れ家の冷たい床で横になって眠気と激闘を繰り広げている俺を、小さな手で甲斐甲斐しく介護しようとしてくれる……


うぅ、ルナの優しさが染み渡るぜ……


その時、先週と全く同じ時間に情報端末がアラートを鳴らした。


重い身体を引きずって外の罠を一時解除し、隠しハッチのオープンボタンを押す。


地下にヴィクトールの車が入ってきた。……あれ? 助手席に誰もいなくね?


ジッと床に横になったまま寝ぼけ眼で見ていると、運転席のドアが開き、パワーアーマーを着たリプレだけが一人で降りてきた。……ヴィクトールは来ていないのか?


「サイン……あんた……ロリコンだったのね。どこで誘拐してきたのよ、その子」


ルナに頭をナデナデされて介護されている俺の姿を見るなり、開口一番にとんでもない疑惑を吹っかけてきやがった。


「ちげーよ、人聞きが悪い。ちょっと前に保護したシェルター出身の子供だよ……お兄ちゃんもいるが、お兄ちゃんは今別のとこでお勉強中だ」

「ルナだよー!」

「あ……そう……。私はリプレよ。よろしくね、ルナちゃん」

「うん!」


ルナは今日も元気だなぁ……。確か今日は前線のミートゾーンに行く予定だったっけか。サクッと行って、サクッと帰って一刻も早く寝よう……






【リプレ視点】

『すまんリプレ! 急遽、シェルターの上層部との大事な会議が入っちまって、今日は俺はいけなくなっちまった。一人で大丈夫か? 行けるか?』


今朝、出発の直前にそんな通信が入った。ヴィクトールさんは今日は仕事が入り来れなくなってしまったのだ。私にとってはただのおじさんだけど、一応は最強部隊の偉い人だものね。そういうこともあるわ。


というわけで、サインとアミューさんなら万が一にも裏切られる心配はないだろうという判断のもと、私は一人で向かうことになった。外の人間だが、あの二人が今更敵に回ることはないと、私自身も確信を持って言える。


サインはとんでもなくデリカシーがなくて空気が読めないアホ人間だったが、見方を変えれば、一切の隠し事をせずに腹の中を全部見せてくれた、裏表のない男とも言える。


さらに、あの強力な装備も、数千万エルンの消耗品もタダで融通してくれた。十分に信用に足る相手だと、私も判断した。


しかし……


サインの隠れ家に到着した瞬間、床に力尽きているサインが、3歳くらいの女の子にヨシヨシと甲斐甲斐しくお世話されている光景を目撃してしまい、私の中のサインに対する『あっ、ダメだこいつ』メーターが急上昇した。


「何がどうなって、そんな小さな子を保護することになったのよ……」

「そうだな……ルナ、このお姉さんと少しお話するから、アミューお姉ちゃん先生のところに行って遊んできなさい」

「はーい!」


トコトコと短い足で歩いていく女の子。……普通に可愛い。

……ふと、先週やってきたあの『姉御』を思い出してしまった。


あの人も見た目だけは、小さくて可愛らしかったけれど、中身が怖すぎてトラウマレベルで無理だ。同じ人間の形をしていても、発しているプレッシャーが生物として完全に異質だった。


サインがフラフラとした足取りで私の方に近寄ってきたかと思えば、そのまま力尽きたように、私の足元(床)でまたゴロゴロと寝転がった……思い切り蹴り飛ばしてやろうかしら、この男。


「ふぅ……リプレ、お前『ワーム大戦』のことは知ってるか?」

床に寝そべったまま、サインがボソッと聞いてきた。


「……ええ、知っているわ。数カ月前の大惨事でしょ」

「それ。シェルターが5つもぶっ壊されてさ。あの子は、そのワームに両親を目の前で喰い殺され、その上でシェルターの汚い富裕層どもに自分達の避難枠を強引に奪われて、外の荒野をあてもなく放浪してたところを、お兄ちゃんと一緒に俺達が拾って保護した。以上」


サインは説明が面倒なのか、一息であの子の壮絶すぎる境遇を言い切った。


シェルターの富裕層…『腐ってる』とヴィクトールさんがちょくちょく愚痴ってたけど本当そうね。アイツらもゴミだわ。イライラする。


でも…今ここで笑っているのだから、一応は救われたのだろう。それは良かったと素直に思える。


サインは気だるげに話を続ける。


「あのワーム大戦の時は一気にシェルターが5つも陥落したからな、大量の人間が着の身着のままで外に溢れ返ったんだわ。そして、その生き残りの大半は、外のウォーカー共に捕まって人身売買の商品にされて……まぁ、あの子達兄妹は、運が良かった方だな」

「……ッ!」


あまりに不快な現実の生々しさに、私は思わず奥歯を強く噛み締めて歯ギシリしてしまった。

人間ってどいつもこいつもクズばかりじゃない。特に外の奴なんて倫理や道徳なんてものが、1ミリも存在していない……そんな私の不快な気持ちを察したのかサインは……


「外の人間に、シェルターの中のぬるい価値観を求めるなよ。外じゃ『力』が全てさ。力がありゃ、どんな非道なことをしたって全部許されるんだよ」

「じゃあ、サイン。あんたにはその『力』があるのかしら? あんた、戦闘に関してはダメダメだってヴィクトールさんに言われてたわよ?」


…しまった。イライラしてて少しサインにやつあたりみたいな形でぶつかってしまった。しかし、サインは気にする様子もなくフッと鼻で笑った。


「俺は……自分で言うのも何だが、『影の薄さ』と『交友関係』、そして『金』がある。それが俺のウォーカーとしての力だ。あの子達だって、あの時金さえ持ってりゃ、富裕層に枠を奪われずに今頃シェルターの安全な中に残れただろ? 強さだけじゃねぇんだよ、力ってのはな」

「……それもそうね」


サインの言葉に、私は悔しいけれど完全に納得させられてしまった。

それは、ぐうの音も出ないほど現実的な話だった。お金も立派な力。実際、私が今着ているこのパワーアーマーだって、サインの持つ圧倒的な「お金の力」の恩恵そのものなのだから。


「っで、ヴィクトールはどうしたんだよ」

「あの人は急な会議が入って来れなくなったわ。だから私一人よ」


サインはそれを聞くと、ゆっくりと大きなあくびをしながら、ようやく床から立ち上がった。


「そうか……隊長さんは忙しいんだな。まあ、リプレが一人でもここに来たってことは、やる気は……前線に行く覚悟はしっかりあるってことでいいな?」

「ええ、もちろんよ。そのためにわざわざ来たんだから」


でも、私達がこれから外に出かけたら、あのルナちゃんはどうするのだろう。こんな物騒な……壁一面に前線武器が飾られている危険な部屋で、あんな小さな子供を一人でお留守番させるなんて、流石に危なすぎるんじゃないかしら。


「よし、じゃあ出かけるか。今日は予定通り前線のミートゾーンに行くぞ。布陣は、前衛にアミューとルナ。中衛にリプレ、俺は一番後ろをダラダラ歩く。以上」

「……は?」


今、この男は何て言ったの?

ルナちゃんが……前衛? いや、あのヨチヨチ歩きの小さな子供を、前線の最悪な戦場に直接連れて行く気なの!?


「……さいっていね。完全に児童虐待だわ」

「だからちげーよっ! 今のリプレに言っても絶対に信用してもらえねぇとは思うけどよ……」


サインは深くため息をつくと、真面目にして、驚愕の発言を口にした。


「ルナはな……もし仮にヴィクトールがここにいたとしても、アミューの次につえぇよ、この隠れ家の中でな」

「……冗談言わないでよ」


流石にそれはない。シェルター最強部隊の隊長であるヴィクトールさんよりも、あの3歳の子供の方が強いだなんて、あり得ない。嘘を吐くにしても、もっと現実味のある嘘を……


「冗談じゃねぇっての。あそこのアミュー先生の直々の戦闘指導によって、なんか……中身を魔改造されたとんでもちびっ娘になったんだ。マジでありえんくらい強いから」


……嘘じゃない。にわかには信じられないけれど、サインの目は、冗談を言っている感じではなかった。


「ルナが前にここにいなかったのは、別の奴に預けて、最低限の人間性を養わせてたからなんだよ。ちなみにお兄ちゃんはまだそいつにくっいているからここにいねぇ。っで、このままウチだけでルナを育てたら、間違いなく将来『スプリーキラー』になるって大騒ぎされてさぁ……おっかねぇおっかねぇ」

「……おっかねぇのは、そんな英才教育を施したあなたよ、サイン」


私はドン引きした。あの子がそんな物騒な性質に育ちかけている原因は、100%このサインの倫理観の無さのせいに決まっている。


しかし、そうなると少し気にもなる……。

ルナが一体どんな風に戦うのか。

シェルター育ちの同じ女の子が……私よりも遥かに小さいあの子が。サインが、ヴィクトールさんよりも強いと断言するあの子の実力が、私は純粋に気になってしまった。


サインがパンパンと手を叩いた。


「アミュー! 出かけるぞ! リプレ用に準備してあった荷物、持ってきてくれ!」

「はーい、わかったー!」


奥からアミューさんが走ってくる。……それにしても、さっきからルナちゃんの喋り方やイントネーションが誰かに似ているなと思っていたけれど、アミューさんにそっくりなのだ。


恐らくサインの奴、子供の面倒を見るのがめんどくさいからって、全部アミューさんにお世話を丸投げしたに違いない。

その育児放棄の光景が、今からでも鮮明に目に見えるようだ。サインはやはり、救いようのないダメ人間である!


(……でも、こういうところだけは、本当に用意周到なのよね)


「どうぞ」

「ありがとう、アミューさん」

「ムフフ♪」


アミューさんが持ってきてくれた私の遠征用バッグを開けて、私はその中身に関心した。色々な種類の前線武器や消耗品……そしてサバイバルセット一式が、無駄もなく綺麗に折り畳まれ、美しく整理されて収納されていた。


医療セットの携帯箱を開けると、そこには先週私の肉離れを一瞬で治した、一本平均500万エルンは下らないという回復薬【紫】が、なんと5本も綺麗に並んで入っている……本当に私が勝手に使っちゃっていいのよね?


見れば、ルナちゃんもアミューさんから子供用の小さな可愛いリュックサックを貰って、嬉しそうに背負っていた。


「ルナちゃん、そのカバン、少し中身を見せてもらってもいいかしら?」

「いいよー! ほらー!」


ルナちゃんが機嫌よく、自慢げに小さなリュックのチャックを開けてくれた。

どれどれ――。


ジャランッッ!!!


カバンの隙間から覗いたのは、鈍い灰色に光る、実戦用の大量の投擲用小型ナイフの山だった……

その物騒な刃物の隙間に、申し訳程度に小さなお弁当箱と、水筒、そして医療セットのミニチュア版が詰め込まれている。


「……す、凄く、いいカバンね。……大事に、使いなさいね……」

「うんっ!」


ニッコリと無邪気に笑うルナちゃんの前で、かろうじて声を引き攣らせずに耐えきった自分の精神力を、褒めてほしい。

前言撤回。あの子も…おっかない側の子供だったわ。


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