7.火力不足
【リプレ視点】
ヴィクトールさんのパワーアーマーの調整も無事に終わり、次は武器をどうするかという話になった。
「武器なんだが……これも少し今問題があってな。ヴィクトールは知ってると思うんだが、最近は人間の領域付近にまで妙な生物兵器が出没してやがるんだわ」
「ああ、もちろん知っている。スカベンジズの間でも警戒レベルが上がっているからな」
ヴィクトールさんが重々しく頷く。私は首を傾げた。
「……何が妙なの?」
サインが手元の情報端末を操作し、こちらにスライドさせて渡してくる。
画面に表示されていたのは、【現在の賞金兵器一覧】という見慣れたサイトだった。これはシェルターが公式に開示しているもので、安全の維持のために人間の領域近辺に現れた有害な兵器を、積極的に討伐してもらうための賞金首システムだ。
このシステムは、私の父がシェルターから追放される原因の引き金になった因縁の仕組みでもある。それを無遠慮に差し出してきたサインにまた胸の奥がイラッとしたが、話が本筋から逸れてしまうので、私はグッと感情を我慢した。
私は画面に並ぶ賞金兵器の一覧をスクロールする。
パッと見は、普段のデータと大差ない違和感のない内容に見える。少し生物兵器の割合が多いな、と感じるくらいだ。
けれど、この程度の表面的なことに気づいたくらいではダメだ。
私を試しているのだろう。
ここで「分かりません」なんて無能を晒したら、サイン如きに知性で負けた気がして、私のプライドが絶対に許さない。
私は添付されている生態データや過去の被害情報を、限界まで吟味して推理する。
――そして、とある異変に気づいた。
「これ……人間を、明確なターゲットにしてる生物兵器が多くない?」
「凄いな、よく一瞬で気づいたもんだ」
サインが手を叩いて感心した声を上げる。
元来、生物兵器というものは機械兵器を壊すことに特化して作られた存在だ。そのため、生物兵器の多くは機械兵器の装甲を捕食したり、引きちぎってぶっ壊すための生体器官を持っている。
しかし、この一覧に載っている最近の生物兵器達は、明らかに「人間」をいたぶり、効率よく捕食し、殺戮することに特化した、人間に向けた悪意の塊のような進化を遂げている個体ばかりだった。
つまり、導き出される答えは一つ。
「人間の領域も、もう絶対に安心安全とは言えなくなっているということね。だから、普通のウォーカー達が使うようなあり合わせの銃じゃなくて、軍用……それ以上の超火力の武器が求められている。そういうことでしょ?」
どうだ! これで合っているでしょ!サイン!
「そうだ……まさにその通りだわ」
サインがとても驚いた顔をしている。
やってやったわ! コイツのテストに完璧に解答してやったわ、ハハハッ!
……って、違う違う…私の目標はロウを殺すこと…この程度のプライドバトルに勝って自己満足に浸るのはあまりにレベルが低すぎる…
私がちょっとした自己嫌悪で頭を抱えている間に、ヴィクトールさんが真面目な顔でサインに尋ねた。
「前に使っていた、SW‐ROS74じゃダメなのか?」
「俺もなぁ、最初はアレで十分だと思ってたんだが、前回の探索で火力不足を痛感しちまってさ。それで今、持ってく武器をどうするか悩んでるんだわ」
「……あの銃でも火力が足りないのかよ」
SW‐ROS74…スカベンジズの切り札のアサルトライフルだ…なんでウォーカーのこいつが持っているかは置いといて、切り札の銃も効かないとなると相当硬いんだろうな…
「だが、その『えすだぶるー……なんとか』の銃でも、ガッツリ効く弾薬があるんだわ。それがこれな」
サインが、マガジンの底がオレンジ色に着色された特殊なマガジンをテーブルに置いた。
「こいつは『くすぐり弾』。薬の仕組みはよく分からんが、最前線級の生物兵器にも面白いように効いたんだ。俺のしばらくのメイン予定の弾薬だぜ」
「「くすぐり弾……?」」
私とヴィクトールさんの声がハモる。
サインがまた端末を操作すると、さっきまでゴザルさんの活躍を映し出していたモニターが、別の新たな写真を映し出した。
画面に表示されたのは、顔のパーツが(∵)という間の抜けた記号になっていて、その顔の側面から強靭な四本の腕がニョキニョキと生えている、最高に気持ちの悪いデザインの生物兵器だった。
「こいつの名前は【アポアポ君】。俺の命名だが、常に『アポアポ……アポアポ……』って不気味な声で鳴きながら全力で追いかけてくる、死ぬほどめんどくせぇ生物兵器だ。ヴィクトールに分かりやすく強さを説明するなら、今の、この姿のアミューの『全力の蹴り』を、正面から無傷で余裕で耐えやがる」
「……おいおい、それはとんでもないな」
アミューさんの全力の蹴りを耐える……
サインはきっと、私にはそのヤバさがピンと来ないだろうと思っているみたいだけれど、私を舐めないでほしい。私はさっき、壁への激突を、一瞬で先回りして無傷で受け止めてくれたアミューさんの「規格外の脚力」を、この身をもって体験したばかりだ。
あの脚力から繰り出される全力の蹴りを喰らって平然としている生物兵器が、どれほど常識外れの怪物なのかくらい、私にだって想像がつく。
「こいつには普通の弾薬は効果が薄かったが、このくすぐり弾だけは効いたんだよ。動きを止めることができた。少し工夫が必要だったがな。ま、さすがにこいつ級の生物兵器が人間の領域に来るとは言わないが…火力不足を感じるのは当然だろ?」
「なるほど……嫌な時代になったものだ」
「だろ? マジでめんどくせぇよな」
人間の領域に、人間を効率よく狩るためのヤバい生物兵器が、じわじわと前線から降りてきている。
これ、下手をすれば人類の存亡の危機にも関わってくるレベルの恐ろしい話ではないだろうか……
……ん? 待って。
何だか妙に引っかかるわ。
………………あっ。
「あの……一つ、推測があるのだけれど、言ってもいいかしら」
「なんだ?」
「何か重要なことに気づいたのか、リプレ」
サインとヴィクトールさん、そしてアミューさんの3人の視線が、一斉に私へと集まる。間違っていたら最高に恥ずかしいけれど、私は95%以上の確率で、この推測が真実だと思っている。
「ゴザルさんの……あのエキシビションマッチで、生物兵器を相手に、圧倒的な強さで真っ二つにしていたわよね?」
「……? ああ、そうだな」
「……そういうことか」
これだけ言った段階で、ヴィクトールさんはわかったみたいだ。サインはまだ首を傾げて分かっていないみたい。
「あの戦いの後も、ゴザルさんが前線の奥であんな派手な活躍を続けていたのだとしたら――生物兵器の中に、『人間に興味の矛先を向けてくる奴』が当然現れるんじゃないかと思うのよ。あの人間を殺すために、人間の弱点や生態を研究して、人間を狩るための特化個体を生産して、それが人間の領域に……来た。大体、時期的にもピッタリ合っているはずよ」
「……それだ、間違いないな」
「俺の胃がもたねぇよこんなもん!」
「すごいね! リプレって本当に頭がいいんだね!!」
アミューさんがパチパチと目を輝かせて手を叩いてくれる。
……このくらいの情報量があれば、逆算して想像できて当然だと思うのだけれど。
「……っ、よし! とりあえず一旦、武器の話に戻ろうぜ! リプレ、お前『前線武器』についての知識は頭に入ってるか?」
「多少はね……大破した機械兵器が、生前?に使っていた武器のことでしょ?」
「ああ、そうだ。機械兵器が内部のチャンバーに弾薬を残した状態でドロップした武器だな。ほら、こいつがウォーカーの間で一番メジャーで使い勝手がいい【ガンマンマスターのピストル】だ。弾は入ってないから、安心して触っていいぞ」
サインはその銃を、まずはゆっくりとした配慮のある動作でヴィクトールさんにその黒い拳銃を渡した。そして、確認を終えたヴィクトールさん経由で、私の手元へと慎重に手渡される。
なんだかんだ、そういう銃器の安全管理に対する最低限の配慮はあるのね……私は手渡された前線武器の拳銃を、両手でしっかりと握ってみる。
「……軽い。シェルターの普通の拳銃よりも、遥かに軽いわね。あとは……」
私は銃の全体を見回して、ある決定的な違和感に気づいた。
「マガジンを挿入する場所が、どこにも見当たらないわ」
「そうだ。そこが前線武器の一番の特徴なんだよ」
サインは、急に生き生きとした表情になってペラペラと饒舌に話し始めた。
「前線武器ってのはな、機械兵器が自分の体内で生成して作った弾薬を、武器の内部に直接『装填・保存』する仕組みになっているんだ。そのシステムの都合上、人間が後から新しく弾をリロードすることは、基本的には不可能な使い捨て構造なんだよ。やろうと思えば無理やり詰め込むこともできるけど、それだと威力が格段に落ちちまうから、実戦じゃ全く無意味だな。あ、ちなみに慣れてくると、銃を持った時の重さだけで、中にあと何発残ってるか感覚で分かるようになるぞ?」
…………やっぱり、サインは重度の『武器オタク』なのだろう。
前線武器の専門知識をペラペラと喋り散らかしている。でも、私としても、こういう知識は、喉から手が出るほど欲しかったものだ。
「サイン。その前線武器の話……もっと詳しく教えてほしいわ」
「おっ! いいぞ、いくらでも話してやる! ここには前線武器の実物も山ほどあるし、それを使ってる機械兵器どもの性能と弱点についても、たっぷり教えてやるよ!」
こうして、サインの武器解説に捕まり、貪るように知識を吸収しているうちに――あっという間に、私達がシェルターへ帰らなければならない限界の時間になってしまった。
長すぎよ……。私の脳のキャパシティを超えるほどの情報が詰め込まれすぎて、せっかく覚えた貴重な知識がシェルターに帰るまでに頭から抜けないように維持するのが、本当に一苦労だわ。




