4.ゴザルの初陣
ゴザルにくっついている機械兵器『サンノハ』から送られてきたゴザルの録画データ。
アミューが持ってきてくれたモニターに映し出された、その続きの映像を、サイン達は姉御がくれたポップコーンをつまみながら見ていた。
【ゴザル視点(映像)】
『エド城』に強制連行されてから、わずか数日。
拙者は早くも、絶対絶命の死地に立たされていたでござる。
「久シイナ……ゴザルヨ」
「あ……はい……お久しぶりでござる……」
姉御が【武者】と呼んでいた、恐らく現在の機械兵器陣営の総指揮者――つまり、機械兵器トップが拙者の目の前に立っていた。
全身が鈍く光る頑強な黒い装甲に包まれた甲冑、超格好いい……というか、侍大好きな拙者にはたまらない御方でござるが……
あ、ダメだ。死ぬやつだこれ…
拙者の脳内では、自分が一刀両断(唐竹割り)にされて左右に体がお別れする悲惨な幻視がノンストップで再生されていた。絶対に、どこかで初見殺しの一撃が飛んでくる……
「今回ハ主ノ修行ト聞イテイル。存分二我ラト刀ヲ振ルオウゾ」
「よ、よろしくお願いするでござる……」
「安心シロ……今ハ我ラハ同志。敵対スル理由ハ……」
刹那、武者の放つ殺気がピークに達した。
ほらーーー! やっぱり来たでござるよ!!
拙者はすでにこの展開を見越して、脳内で【時間の圧縮】をしているでござ…あ、早い。これコンマ数秒レベルの超高速振り下ろしでござる! 今すぐ回避しないと、死ぬでござる!
拙者は、強引に半身をズラした。
「――ッ!?」
正面から迫る武者の凄まじい殺気の指向性! 刀の軌道が、空中で不自然に変わった!
狙いが拙者の頭部から、避けた先の左肩へとズラされたのだ。避けたんだから、そのまま振り下ろしてほしかったでござるっ!拙者の左腕は生まれた頃からの長い付き合いでござるよ! そんな簡単に泣き別れさせてほしくないでござるっ!
拙者は武者から目を離すという致命的なリスクを背負ってでも、その場で横に一回転し、強引にその追撃を空振らせた。
「ひぃっ……!」
ズシャアアンッ!!と爆音が響く。
武者が振り下ろした刀から放たれた目に見えない真空の斬撃が、エド城の頑丈な鋼鉄の壁に特大のひび割れを刻み込んでいた。
拙者が一回転した頃には、武者は何事もなかったかのようにパチンと刀を鞘に納めていた。
「凄イナ……コレヲ完全ニ避ケルカ。資格ハ、間違イナクアル……」
拙者は冷や汗でビショビショになりながらも、精一杯のドヤ顔で……かます。
「……ふっ、拙者は常在戦場を旨とする身。いつ如何なる方向から、不意の奇襲が飛んでこようとも、万全の対策を怠らないのが本物の侍でござる」
「ホウ?」
武者が感心したような声を出す。
嘘ぴょーーーーん!! 絶対に最初から斬りかかってくるって確信してたからギリギリ避けられただけでござーーーる!! 普通に何の予兆もないガチの不意打ちだったら、今頃拙者の体が半分に別れて床に転がってるでござーーーる。
「ナラ、今回ノ戦ノエキシビションマッチハ、参加デ問題ナサソウダナ」
「………………えっ?」
「……………………えっ?」
拙者は今、文字通りの地獄のド真ん中に立っていた。
『さあさあさあ! 今回もやっていこうじゃないか! 第322回! 生物兵器VS機械兵器の仁義なき大戦争――っ! 司会進行はいつもの【観音様】でーーーす!!』
オオオオオオオオーーーーーーーーー!!!!
地響きとなって大地を揺らすような、無数の巨大生物兵器達の咆哮と、機械兵器達の爆音の駆動音がスタジアム中に響き渡る。
えっ? 何これ。お前らって、毎回こんなテンションで殺し合いの戦争をしてるでござる?
『前回はウチ(生物兵器側)の勝ちだったがなぁ、油断すんじゃねぇぞ子供達! 今回はなんと特別ゲストとしてぇーーー! あの前回の戦いで大暴れしてたワームに一撃ぶちかましたバカを連れてきたぞォーーーーー!』
ちょ…ちょっと待ってほしいでござ……
『そいつは人間だが……バカみてぇに強ぇぞ! 人間代表――【ゴザーーーーーーール】!!!!』
「ひゅっ……」
その瞬間、闘技場を埋め尽くす全兵器達の視線が、一斉に拙者へと突き刺さった。
それだけで心臓が止まりそうでござる!どの視線を見ても、「こいつをどう引きちぎるか」「どうやって内臓をブチ撒けさせるか」という純粋な殺意のシミュレーションで満ち満ちている。
拙者の勘が良すぎるが故に、その殺意のグラフィックが全部視覚情報として見えちゃうのが辛すぎるでござ…
『ゴザルは今回、機械兵器陣営として参戦するっ! だが本戦の前に、いっちょ手合わせしてぇよなぁ、みんなぁーーー!!』
オオオオオオオオーーーーーーーーー!!!!
『というわけで、俺の子供達よ! 誰かこのゴザルと戦ってみたい元気な奴はいるかぁ!? 恒例の戦争前のエキシビションマッチだぁ!』
……終わった。ああ、拙者は今日、ここで確実に命を落とすんだ。
お願いします神様仏様観音様……あそこにいる見上げるほどデカいゴリラみたいな超質量生物兵器とか、アミュー殿と同じダイナロイド種以外でお願いするでござる……。
『おっし、決まり! お前にしよう!』
観音が指差した先から、一体の生物兵器がズシン、ズシンと拙者の方に向かって歩み出てきた。
……頭部が、異様なほど不気味に肥大化したシルエット。
ああいう頭がデカいタイプの生物兵器は、大体「超能力」とかの視認できない極悪な攻撃をしてくるのが相場って決まってるんでござるよなぁ…
『どう見ても弱そうなペラペラの猿だが……お前、本当に強いのか?』
「っ……!?」
脳の奥に直接、不快な電子音のような声が響いてきた。こいつ、知性あるタイプの生物兵器かっ……!そりゃそうでござるよね!こういう場にいる奴であるでござるしっ!
『まぁいい……死ね』
拙者は何度も自分の命を救ってくれた『勘』の警告に従い、全速力で真横へと跳躍した。
しかし……回避前の拙者の場所には何も起こらない。無音。無風……
闘技場の上空から、観音の野次が飛んでくる。
『コラッ! まだ開始の合図してねぇのにフライングで攻撃しやがったな! ……まあいいか、始めっ!!』
観音の言葉が、最高のヒントになった。
奴はやっぱり、今さっき確実に攻撃を仕掛けてきていた! 恐らく、目に見えない超能力の類。まずは一刻も早く、あの不可視の攻撃の「タネ」を割らなければ一瞬で殺されるっ!
ブンッ!
「あぶなっ……!」
また跳ぶ! ここもダメ!
拙者が動こうとする先、動いた先の空間に、拙者の勘が先回りするように勘が警告を出していく。そこをすり抜ける用にステップを踏む。
『ちっ……ちょこまかと……』
何故かほんの一瞬、攻撃が止まった。今だ!
右脚の筋肉が断裂するのを許容した、超高速の瞬間移動――【縮地】!
一気に間合いを詰め、あの巨大ワームの皮膚すら両断した拙者の全力の居合いを一閃――ッ!!
グンッ!!
『ほう? やるじゃないか、人間』
……と、止められた……っ!? 刀が肉に届く手前の、何もない空間でピタリと静止している。そして――
『ふん』
ミシミシ、パキィィィンッ!!!
拙者の愛刀が、何もない空間の中で、雑巾のように雑にねじり折られた。
『この程度で我々を殺せると思ったか?』
頭でっかち兵器が高らかに、勝利を確信して不気味に目を光らせて笑う。
拙者は……
(――タネ!見えたりでござる!!)
コイツの極悪な攻撃の仕組みを、拙者は完全に見破った。
拙者は折られた刀を即座に投げ捨て、片手で予備の刀を抜く。同時に、自分のパワーアーマーの首筋にマウントされた、回復薬【紫】を思い切り突き刺した。
断裂しかけた右脚の筋肉が一瞬で超再生され、限界を超えた本当の全力で地面を踏み込む!
『無駄な足掻きを……ッ!』
【縮地】で肉薄する拙者。
だが今回は、ただ突っ込むだけではない。刀とは反対の左手に握り締めていた、高出力の戦術用ライトのスイッチを最大光量でオンにした。
目潰しの閃光が、至近距離からこの兵器の顔面を真っ正面から照らし出す!
この生物兵器の能力の正体は、「自分が目視したピンポイントの座標に、空間を歪める強力な力場を発生させて捻り潰す」というもの。
拙者の刀がねじり折られた瞬間、奴の異様な眼球が、もろに拙者の刀の刀身を『ガン見』していたのを見逃さなかった。
さっき一瞬の隙ができたのも、奴が『まばたき』をしてしまい、視線が途切れたからだ!
つまり、目を潰して、視界さえ奪えば、この攻撃は――絶対に、通るっ!!
「ござぁァァァーーーーーーーっ!!!」
『バ、ババ……バ、バァ……!?』
光で視界を焼かれた生物兵器の胴体を、拙者の予備の刀が、下から天へ向かって一文字に真っ二つへと斬り裂いた。
ワームに放った全力の一撃と同じだ。拙者の全身の筋肉が悲鳴をあげる。
そして、左右に別れた巨大な肉塊が地面へと転がり、赤い鮮血が荒野の土を濡らしていく。
静寂の、あと。
うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!
闘技場全体が、耳を劈くような大歓声で爆発した。
『勝者ッ! 人間代表!ゴザーーーーーーーール!!!!』
拙者はハァハァと荒い息を吐きながら、誇らしげに右腕を天高く突き上げた。兵器達の地鳴りのような歓声に応える形で、ポーズを決める。
……いや、これ、めちゃくちゃ気持ちいいでござるな。
『おっとぉ! まだゴザルと戦いたい血気盛んな奴がいるってか? ダメだダメだ! まだエキシビションマッチは続くんだぜ? 他の奴らにも見せ場をくれてやれってんだ! 次の試合、行くぞぉ!』
観音の声を聞きながら、拙者はヘナヘナとその場に座り込みそうになるのを必死に堪えた。
……とりあえず、初陣は、なんとか乗り切ったようでござるな……?
【ここまでの各々の感想】
サイン
「いや、やっぱつえぇよゴザルは。でも、アイツの頭の中って、普段からあんなに情けない感じなんだな」
アミュー:
「…ゴザルは強いね」
(姉御に少し慣れてきたのか、ポップコーンを食べ始めた)
姉御:
「武者の一撃を避けられるのなら、あのレベルの生物兵器相手にこれくらいは当然ですね」
ヴィクトール:
「……………………」
(こんな前線の最重要トップシークレットが詰まったヤバい映像、絶対に俺達に見せちゃいけない類のやつだろ……世に出したら……荒れるぞ……ああ、胃が痛い)
リプレ:
「……ワー、ゴザルサン、ツヨーイ。」




